第5話 守るべきもののために
■アルデン村 村長の家
「冒険者の方、村を守っていただきありがとうございます。一つ、お願いがございます。村で作ったフライパン等の鉄製品を売るための馬車を出そうと思っていたのです。イーヴェリヒトまでの護衛を頼めないでしょうか?」
昼食をすまし、帰り支度をしていていた俺たちに白髭を生やした村長が依頼を持ち掛けてきた。
「食料や休む場所を提供してもらった恩もあるから、護衛くらい構わないさ。依頼料は不要。正式な依頼としてギルドに通達する必要もない」
アーヴィンは村長の申し出を快く受けた。
リリアンやフィンはヤレヤレといった様子だが、エレナは嬉しそうに微笑んでいる。
「よくあることなんですか?」
「ええ、アーヴィンも小さな村の出身で冒険者として名を挙げた方ですから、手助けしたくなるんですよ」
「優しいんですね?」
「だから、鋼の守護者は高ランクの依頼よりかは小さな村や町の手助けをする中堅で居続けて依頼料が高額にならないようにしているんです」
確かに5年前から実力に比べてCランクのままなのはどうしてだろうかと思っていたが、エレナの説明で納得できた。
俺はこのパーティと知り合えてよかったと改めて思う。
■アルデン村入口
しばらくしてから、アルデン村の入口にアーヴィン達の馬車と荷物をたくさん積んだ村人の馬車が合流する。
荷物が多いため、イーヴェリヒトへの到着は少し夜になるかもしれないとのことだった。
「ミツキに心配かけちゃうなぁ……」
かといって、俺の誕生日だから早く帰るために村人の依頼を反故にするなんてことはいいだせない。
見た目は子供、中身は大人なので俺は空気を読めるのだ。
俺たちの馬車が先行し、村人の馬車が後ろからついてくる。
時折、離れすぎないように確認しながら街道をイーヴェリヒトに向かって進んだ。
「初めてモンスターを殺してみてどうだった?」
「食べるわけでもないのに殺す感覚がどういうものかわかりました」
馬車の中で揺られていると、リリアンが俺に声をかけてくる。
「魔法使いは直接命を奪う感覚は薄いけど、戦士は身近に感じるらしいからね。はじめはつらいけど慣れよ、慣れ」
「心配してくださってありがとうございます」
リリアンに向けて俺は頭を下げる。
ツンケンしたところがあるけども、面倒見はいいお姉さんなのだ。
「べ、別に心配したわけじゃないわよ……」
「まぁ、リリアンも初めて魔法でモンスターを燃やした時はブルブル震えとったからなぁ……」
「ちょ、ちょっと! フィン! それは言わないでよ!」
フィンに突っ込まれたリリアンが大きな杖でポカリとフィンの頭を叩く。
「おい、どうやらお客様のお出ましだ」
御者を務めていたアーヴィンが声をかけると視線の先に山の街道をふさぐように男たちが広がっている。
装備に統一感はなく、暴力を生業としているもの特有の強面な奴らはどうみても山賊のたぐいだ。
馬車の中で静かに戦闘態勢をフィンたちは整えていく。
(山賊退治か……モンスターの次は人の命を奪うことにもなれなくちゃいけないか)
俺は覚悟を決めて、アーヴィン達の対応を待つことにした。
■山の街道
「おい、馬車を止めて金と荷物を置いていきな。命だけは助けてやるぜ?」
「ヒャハハハ! この人数だから、無駄な抵抗するんじゃねぇぞ!」
頭の悪い挑発をしてくる山賊たちは馬車を逃がさないように囲い込みはじめた。
だが、囲うように動いていた山賊たちの足元から炎の壁が立ち上がり、踏んだものは燃え、そうでないものは熱さに後ろに下がった。
動揺して下がった男たちに矢が次々と刺さっていく。
「たかが山賊が鋼の守護者を倒せると思わないでよね!」
「せやせや、ワイらが馬車内で控えていたのにも気づかないなんて、お粗末やで」
ギャアギャアと騒ぎ出す山賊たちのスキをついて、馬車から降りたリリアンとフィンが山賊へ攻撃を仕掛けていった。
馬車の中では俺にエレナが防御魔法をかけて、様子見を続けている。
「大丈夫ですからね? 人を殺めるのは覚悟がいりますから今すぐにやらなくていいですから……怖いなら私の手を握っていていいですから」
俺を優しく抱きしめながらエレナが耳元にささやいてきた。
戦闘に出さなかった理由がエレナのささやきでわかる。
(怖くないといえばウソになるが……ひどく冷静になれている自分もいるな)
その時、馬車が大きく揺れて横倒しになった。
俺とエレナが叫ぶ間もなく地面に転がると馬車の外から低い男の声が聞こえてくる。
「いつまでかかってんだ。待ちくたびれたぜぇ」
「土魔法にその戦槌……傭兵の”アースハンマー”グスタフか!」
アーヴィンが苦々しい声を上げて、盾と槍を構えた。
「元傭兵な今は山賊の親分よ! お前ら、今のうちに態勢を整えてやっちまえ!」
「へい!」
グスタフの言葉に騒いでいた山賊たちが冷静さを取り戻していく。
俺は直感的にまずいと感じた。
グスタフという男は元傭兵というだけあって、人の扱いに慣れている。
それに魔法も使えるのが厄介だった。
「エレナさんは……気を失っているか」
俺を抱きしめて怪我しないようにしてくれていたため、エレナは馬車を襲った衝撃をもろに受けて気を失っている。
ならばと俺は這い出して、剣を手にグスタフを方を見た。
剣に磁力を何重にもまとわせるイメージでもって、剣を浮かせて剣先をグスタフへと向けた。
視線の先ではグスタフの戦槌をアーヴィンが盾で受けたものの吹き飛ばされ、へこんだ盾が地面に転がる。
トドメとばかりにアーヴィンの頭に向けて戦槌を振り上げたグスタフに向けて、加速してはなった。
「いっっけぇぇぇ!」
ドンと空気を割る音と共に飛んで行った剣がグスタフの肩口に深く刺さる。
アーヴィンに戦槌を振り下ろそうとしていたグスタフの体が揺らぎ、両手から戦槌が零れ落ちた。
頭部や心臓を狙って放つのが本来であれば正解だろうが、俺にはできなかった。
「今のは……くぅおぉぉっ!」
アーヴィンが体の痛みを耐えて立ち上がりグスタフに体当たりを仕掛けた。
倒れてたグスタフの肩の剣がより深く刺さる。
「グアァァァァ、貴様ぁぁぁ!」
グスタフが痛みに苦しみながらもアーヴィンに向けて手をかざし魔法を発動させよとした。
鉄製のガントレットを付けていたグスタフの腕が引っ張られて、地面に転がっていた盾に向けられた。
石礫が盾に向かって放たれて、不発に終わる。
そのすきを狙って火の玉がグスタフの顔を焼き、命を刈り取った。
「親分がやられちまった!?」
「ひぃぃぃ!」
大半が負傷していたうえに、グスタフも倒されたことで山賊たちは戦意をくじかれて逃げ出していく。
「逃が……さない!」
頭が熱を持つが、山賊達を捕まえるために荷物になっていたフライパンなどを磁力魔法で飛ばして気絶させたり、骨折させて足止めをして行った。
行動不能になっていく山賊たちを見ていると、俺の口に熱い液体を感じた。
「ナニコレ、鼻、血?」
クラッとしたところを最後に俺はその場に倒れこむ。
散々な誕生日になってしまったな……。
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