第4話

ある夜、突然に訃報が届いた。葵が自動車に撥ねられ、病院へ運ばれたという連絡だった。信じられない思いで、紗季は急いで病院へ駆けつけた。しかし、家族ではないという理由で葵の顔を見ることもできず、ただ祈ることしかできなかった。その夜、葵は息を引き取った。


葵がいなくなった現実を受け入れることができないまま、数日が過ぎた。葵の家族からお通夜の連絡があり、紗季は少し早めに会場に到着した。そこには真っ白な棺が置かれていた。棺の中にはきれいに横たわった葵が静かに眠っていた。彼女の顔は穏やかで、まるで今にも目を覚ましそうなほど美しかった。


「葵、私来たよ。紗季だよ。約束したじゃん、一緒に旅行に行くんじゃなかったの。まだ行ってないじゃん。なんでだよ!」


紗季は嗚咽を上げながら座り込んだ。涙が止まらなかった。


その日から、紗季の心は笑顔を失った。葵を失った悲しみと絶望は深く、彼女を一層孤独に追い込んだ。紗季は深い絶望に陥り、次第に自殺を考えるようになった。ある日、紗季は市販薬を大量に飲めば死ねると聞きつけ、試してみることにした。しかし、意識が遠のく中で訪れたのは、死ではなく恍惚感だった。その瞬間、彼女はこの感覚に取り憑かれてしまった。紗季は生きる意味を見失い、葵を失った喪失感を、薬でうめた。次第に紗季は薬物依存に陥っていった。


そして、紗季はさらにアルコールと薬物に依存していくようになった。仕事では叱責されることが続き、最終的に辞めてしまった。彼女の心は次第に壊れ、夜の街でただ一人、さまよい続けることとなった。心の空洞を埋めるように、水商売を始めたが、夜の街で働く中で、母親と同じように自身もアルコールに依存していった。あれだけ嫌いだった母親と同じ状態に陥っていることが紗季には耐え難く、紗季の心は次第に荒み、日常生活は暗闇に包まれていった。水商売を始めてからの紗季は、空虚感を埋めるために、何人かの男性と性的な関係を持った。しかしそのいずれも、心の空洞を埋めることは全くできず、むしろ葵を失った空虚感が強くなっていった。


希望を失った紗季は、つらくなると葵のアカウントへ連絡を入れた。もちろんそれは、誰にも読まれることはなく、返信も決して帰ってこなかった。そして紗季は、葵の命日に自らも死のうと思い、それだけを励みに生き、ついにその時がやってきた。その時に、紗季は優希を目にしたのだった。

紗季の話が終わると、部屋には静寂が訪れた。優希は紗季の話をじっと聞いていたが、その目は濡れており、「僕も、一緒だよ。僕も、死のうとしていたんだ」と静かに言った。

「本当は、あなたが葵でないことは、わかってた。あなたの中に、葵を見ていた。でも、今は、あなたのことが知りたい。あなたは誰なの?」

紗季がそう言い終わると、優希もまた、自分の過去を語り始める決意を固めた。

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