桜姫伝説 第8話 直談判・ポスターの掲示許可をもぎ取るぞ!

「と、とりあえず、ポスターは完成したってことで!」

 飛鳥が、気を取り直して言った。

「本物は提出しなきゃだから、展示用に、カラーコピーを作らないとね!まかせて、うちのお母さん、仕事柄、こういうの詳しいから」

 飛鳥はそう言って、三人分のポスターを預かっていった。

 私は思った。

 飛鳥のお母さん、あのポスター見て、どんな気持ちになるんだろう……。


 そして数日後、しっかりとした紙にテカテカとプリントされて防水加工までほどこされた、少女漫画、マッチョ、幽霊ポスターのコピーが出来上がったのだった。

「む、無駄に立派……」

 私はつぶやいた。

 黒崎くんが自分のポスターをしげしげと見て、一言。

「マッチョが、テカってる……!」

「「ブフォッ!」」

 私と飛鳥は、同時に吹き出した。

「さて、これの掲載許可をもらいに行かないと。さすがに、勝手に貼ったらダメだよね?」

「ダメだろうね……」

 と、黒崎くん。

「明日のゴミ拾いの後で、学校に寄ろう。誰かしらいるんじゃないかな」

 私の提案に、ふたりもうなずいた。


 翌朝、あらかたゴミを拾ってマナさんと別れた後、私達は学校の入り口の前に立った。

 ちなみに、長期休み中の学校は基本的に入り口に鍵がかかっていて、チャイムを鳴らすと校務センターから誰かが応対してくれるシステムだ。

 ピンポーン。

「はーい」

「五年生の日向です!」「月本です」「黒崎です……」

「夏休みの宿題のことで、少し話がしたいことがあってきました!五年生の担任の先生、どなたかいらっしゃいますか?」

 飛鳥がハキハキと話す。

「あ、はーい、花山です、今行きますね~」

「やった、花山先生がいた!」

 花山先生なら話は早いかも。

 私は小さくガッツポーズした。


 ほどなくしてやってきた花山先生が扉を開けて、私たちを校内へ入れてくれた。

「おっ、いつもの三人組じゃない。今日はどうしたの?」

 私が代表して言う。

「私たち、今、学校裏の『桜姫の石碑』のまわりを、宿題の地域活動もかねて、ボランティア掃除しているんです」

「へえー」

「で、何度掃除してもゴミを捨てる人が減らないから、学校のフェンスの土手から見える場所に、自作のポイ捨て防止ポスターを貼ろうと思って、許可をもらいに来ました」

「すごいすごい!今もゴミ拾いの帰り?えらいじゃない!」

 花山先生が大声でほめるので、校務センターから校長先生も顔を出した。

「あっ、校長先生、ちょうどいいところに!この子たち、あの『桜姫の石碑』の掃除ボランティアをしてくれて、美化ポスターも作ったんですって。フェンスのところに貼ってもいいですよね?」

 はげ頭にメガネの校長先生は、ニコニコ顔でうなずいた。

「それは素晴らしい!いい心がけだ、ぜひ貼ってくれたまえ。どれどれ、そこに持っているのがそのポスターかい?」

 先生ふたりは笑顔で丸めたポスターを広げて……

 ……目を大きく開けて固まった。

 花山先生が、校長先生を引きずって廊下のすみに連れていく。

「こ、校長先生、『ぜひ貼ってくれたまえ』ってさっきおっしゃいましたけど、コレを……?」

「い、いや、私もまさか、これほど、その……劇画と筋肉画と幽霊画だとは……」

「……どうします?私から生徒に断りましょうか?」

「でも、あの石碑の前の騒ぎは、わが校としてもそろそろどうにかしないと、とは思っていたところなのだ」

「ですよねぇ」

「このくらいインパクトがあったほうが、こう、抑止力にはなるのではないかね」

「なるほど!『毒を持って毒を制す』、というわけですね」

「うむ、『毒を食らわば皿まで』だ。よろしい、許可しよう!」

 校長先生と花山先生がうなずき合っている。


「……全部聞こえているんだけど……」

 私はボソッとつぶやいた。

「人の力作を『毒』呼ばわりは失礼な!」

 と、飛鳥。

「正直、否定はできない」

「ちょっと、くっきー!」

 私たち三人が小声でもめているところへ、花山先生と校長先生が戻ってきた。

 校長先生はえっへんと咳ばらいをすると、

「ええい、やむをえん、許可しよう!」

「やったー、校長先生、どうもありがとうございまーっす!」

「ありがとうございます!」

「あざます……!」

 私たちは口々にお礼を言った。


 私たち三人と花山先生、校長先生は、さっそくフェンスにポスターを貼りに行くことにした。

「ポスターを貼るついでに、君たちに頼みたいことがあるんだが」

 校長先生は、首からカメラをぶら下げている。

「何ですか?」

「君たちがゴミを拾っているところを写真に撮って、市の広報のブログで『わが市の生徒が夏休みに、今話題の歴史遺産「桜姫の石碑」をボランティア掃除、実に素晴らしい』という記事にしたいのだ」

 校長先生は腕組みをする。

 私は小声でふたりに言った。

「これも、今の『あああ団(仮)』の依頼の、何かの役に立つかもしれないね」

 それを聞いた飛鳥が、

「あっ、いいですよ、やります!」

 とOKを出した。

「ありがたい!市の教育関係者の集まりで定期的に寄稿を頼まれているんだが、夏休み中はネタがなくてね」

「S市の小学校長会ですか?」

 花山先生が聞く。

「そう、それだよ。校長同士、そこで情報交換しておるのだ。夏休みの宿題の量を決めたり……」

 私たち三人の耳が、ピクリと動く。

「『こんなに宿題出したやつの顔』、見れちゃった……」

 私は思わず、超小声でつぶやく。

 飛鳥が公園で叫んでいた、である。

「諸悪の根元……」

 黒崎くんもささやく。

 飛鳥が低い声で、敵を見つけた猟犬のようにうなる。

「がるるるるる……(怒)」

「あ、飛鳥、どう、どう!」

 私と黒崎くんは、あわてて飛鳥をなだめた。


 先生たちは、背後の「コノヤロウ!」という恨みのこもった視線に気づかず、会話を続ける。

 そして私たちはグラウンドを横切り、フェンスの場所にやってきた。

 校長先生は、私たちがゴミを拾う小さな後姿が入った石碑の写真を、何枚か撮影した。

「ありがとう、明日には記事を上げられるよ、楽しみにしてくれたまえ!」

「校長先生、こちらも、ポスターの提示が終わりました」

 と、花山先生。

 フェンスに並ぶ、少女漫画とマッチョと幽霊(テカテカ防水加工済)。

「すごい……絵面だ……」

 黒崎くんがしみじみと言う。

「ポイ捨て犯も悪霊も退散しそうねぇ」

 花山先生が、頬に手を当ててつぶやいた。

 失礼なったら失礼な!

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