桜姫伝説 第7話 ポスターを作製せよ!「三本の矢」大作戦!?

 さて、夏の宿題、防火、防犯、美化ポスター。

『桜姫伝説』をモチーフにしたポスターを作って石碑そばのフェンスに貼ることで、ゴミのポイ捨てをなくして石碑の環境を元に戻す。

 それが私たち『あああ団(仮)』の、次のプロジェクトである。


「じゃあ、土日の間に各自ポスターは家でちゃちゃっと作成して、週明けの月曜日に見せっこするってのはどうかな?」

 飛鳥が言う。

「異議なし」

 と、黒崎くん。

「私もそれでオッケー」

 そう言って別れた後、私は自室で、一生懸命ポスター案を考えていた。

 飛鳥はイラストとかが得意だからいいけれど、私ははっきり言って苦手なのだ!

「……えっと、とりあえず、きれいな桜姫を描こう」

 テレビで見た、美しい桜姫の姿を思い浮かべながら、私は一生懸命、鉛筆で下描きをしていく。

 着物って……どうやって描くんだっけ?

 髪型も、よくわからないや。

 長い髪の毛をなびかせた桜姫を、描いては消し、描いては消しをくり返す。

 ……ヤバい、画用紙が黒くけば立ってきた。

 なんとか描き上げた下書きは、私の自信のなさを反映して、ヘロヘロだ。

 で、でも、水彩で着物を桃色に塗れば、桜姫に見えるだろう……きっと。


 ……よし、なんとか、塗り終わった。

 桜姫の全身を描き終えて、その両脇に、標語「ごみを捨てないで」を書いていく。

 目立つように、濃い赤で。

 あと一息で書き終わる、というちょうどそのとき、

「朱里ー、そろそろ歯磨きして、寝なさーい、何時だと思ってるの?」

 お母さんの声がした。

「まって、今終わるから!」

 あわてて書き上げ、扇風機のスイッチを入れ、水分を含んで波打った画用紙を壁に立てかけて乾かす。

 よし、こうしておけば、明日の朝までには完全に乾くだろう。


「じゃあ、見せっこしようか♪」

 丸めたポスター片手に、私の部屋に集まった、『あああ団(仮)』の三人。

「じゃあ、私からね!」

 飛鳥が、自信満々と言う顔で、ばばん!とポスターを突き出した。

 まつ毛がバサバサの少女漫画チックな絵柄で、向かい合った成良と桜姫の横顔が、ドアップで描かれている。

「私 も ゴ ミ も 捨 て な い で」

 大人の恋愛ドラマみたいなスローガンが添えられている。

「うまい……うまいんだけど……」

 黒崎くんがコメントに困っている。

「飛鳥、なんていうか、小学校五年生が学校の課題で提出する絵柄と雰囲気じゃないよ、これ」

「朱里さん、それな」

「なんだかすごいドロドロした展開になりそうな、少女漫画の扉絵みたい」

「標語が『あおり文句』みたいだ……」

 私と黒崎くんの感想を聞いて、飛鳥はぷりぷりする。

「何よ!じゃああんたたちも見せてみなさいよ!」


「はい、じゃあ次、僕、いきます」

 黒崎くんがポスターを掲げた。

「「……はぁ?」」

 私と飛鳥は、同時に間の抜けた声を上げた。

 ムキムキマッチョのちょんまげが、ガニ股で両腕ちからこぶのポーズをしている。

 ……シュールだ。

 しかも裸マッチョは、トゲトゲした吹き出しで、「ゴミを捨てるなー!!」のセリフを叫んでいる。

「ねえ、くっきー、なんで成良、裸なの?」

「今、男子の間で『マッチョ大戦争』ってゲームが流行ってて、そこに出てくる『ちょんまげマッチョ』をモデルにしたから」

 それがなにか?と言う顔で、黒崎くんが言う。

「雪山で亡くなった人が、全裸で絶叫はないんじゃないかな?」

 と私も突っこむ。

「全裸じゃないし!」

 黒崎くんが抗議した。

「じゃあ、なんで股間を吹き出しで隠してるの?吹き出しの下から、すね毛の生えた生足飛び出してるし」

 と、飛鳥。

「そ、それは、着物の描き方がよくわからなかったから、とりあえず隠した」

 しどろもどろの黒崎くん。

「よけい変だわー!」

 飛鳥が突っ込む。


「はい、次、朱里」

 マッチョの衝撃を引きずったまま、飛鳥が言う。

「う……なんかこの二人の後だと、普通すぎて見せづらいな」

「普通が一番よ、朱里」

「うんうん」

 黒崎くんもうなずいている。

 私はおずおずと、ポスターをふたりに見せた。

「っぎゃ――――――――――――――!」

「ひぃ―――――――――!」

 ふたりの叫び声が部屋に響いた。

「なんで叫ぶの!?」

「だ、だって朱里さん、これ、怖い!」

「うっすらと黒く浮かび上がる桜姫の亡霊の、不安感をあおるたたずまい!」

 私は頭をかく。

「自信がなかったから何度も消して描き直してたら、黒くぼやけちゃった」

「幽霊ならではの透明感…」

 黒崎くんがうなる。

「それは消しすぎで、物理的に画用紙が薄くなっちゃっただけ」

「文字が怖い!赤い血がしたたり落ちるようなフォント!」

 飛鳥の叫び。

「早く乾かそうと思って、縦にして置いといたら垂れちゃった」

「まさかの朱里、優勝……」

 飛鳥がつぶやいた。

「だね……」

 黒崎くんもうなずく。

 ……優勝って、なんの優勝だ。ちっともうれしくないぞ。


 私たち三人は、しばし無言になった。

「……まて、三本の矢の話を知らないか?」

 黒崎くんが言う。

「一本の矢なら折れるけど、三本の矢なら折れないように、三つのポスターを並べたら…」

 少女漫画とマッチョと幽霊。ひたすらカオス。

「「「……だめじゃん!」」」

 私たちは床に突っ伏した。


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