桜姫伝説 第3話 宿題なんて怖くない……?
「それでは皆さんお待ちかね、夏休みの前に、宿題の説明をしまーす!」
「えええええ~っ!」
花山先生の言葉に、クラス中からいっせいにブーイングが起こった。
「まず、『夏休みの友だち』ドリル一冊、手元にいきわたりましたね~」
「お前なんか友だちじゃねぇ!」
「そうだそうだ!」
男子たちのヤジが飛ぶ。
「それから、五年生の図工の課題は、ポスターになりまぁす」
ヤジを華麗にスルーして、花山先生は続ける。
「テーマは『防火』『防犯』『美化』……火事に注意、泥棒に用心、ゴミのポイ捨て禁止、そんな感じで、三つの中からひとつ選んで、ポスターを描いてください。休み明けにコンクールに出しますからね~」
「だりぃ~」
「めんどくせー」
「はい、次はみんな楽しみ自由研究!五年生にはテーマがあって『私たちの郷土、H地方やS市について』です!」
「テーマ?」
「何それ?」
「一学期に社会や理科の総合学習でやったことをふまえて、地域について、自由に!研究してください!」
「ぐえ~っ!」
「最後に、地域活動!平たく言うとボランティアですね。近所の人やお父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんなどのお手伝いや近所のお掃除、人助けなどをして、プリントに活動をまとめてきてください」
花山先生はにっこりと笑った。
「以上です!頑張ってくださいね~」
「めっちゃくっちゃ多くね?」
「しんどすぎる~」
「ぜんっぜん、休めねぇ~!」
教室を飛びかう叫び声。
私も同感だ。
えっと、なんだっけ、ドリル、ポスター、自由研究、ボランティア。やることが、多すぎる!
これで『あああ団(仮)』の依頼もだなんて、忙しすぎるよ!
放課後Y公園に集まるやいなや、私と飛鳥と黒崎くんは、宿題の量に、盛大に文句をぶちまけた。
「誰だ、こんなに宿題出したやつ!顔が見てみたい!」
飛鳥が怒る。
「ゲームの時間がどんどん減っていく……」
黒崎くんもどよんとしている。
「でも、『あああ団(仮)』の依頼もあるし、とりあえず、宿題の状況も整理しようよ」
私は提案した。
「そだね。……まずはポスター。まぁ毎年のことだし、ちゃちゃっと描けばいいっしょ」
飛鳥がさらっと言う。
飛鳥はこう見えても、絵はかなり好きで得意なのだ。私からするとうらやましい。
「じゃあ次、『郷土についての自由研究』って、何すればいいわけ?」
私がぼやくと、黒崎くんが説明してくれた。
「姉ちゃんの時は、郷土博物館や科学文化館行って感想書いたり、図書館で民話読んだり、H地方に多い虫を集めたって言って昆虫採集したり、S川の魚を釣ったり、特産野菜の育て方を書いたり、県内の工場見学したりしてたって」
飛鳥も続けて言う。
「あと、あたしがまわりに聞いたところでは、お祭りに参加してお神輿かついだり、みんなの前で『S町音頭』をたて笛で吹いたり、民謡踊ったり、歌ったり」
「僕、みんなの前で発表系は嫌だなあ……」
黒崎くんがつぶやいた。私も嫌だ。
「じゃあ、地域活動っていうのは?」
「あ、それは、『家の前のゴミ拾いをしました』ってちょろっと書いときゃいいみたい。僕もそうしようっと」
と、黒崎くん。
「そんな感じなんだ。じゃ、私、『おばあちゃんの肩をもみました』にしたらダメかなあ」
私が言うと、飛鳥も手をたたいた。
「いいんじゃない?じゃ、あたしは『ムラサキババアこと知り合いのおばあさんと、歌い手グループの推し活をしました』にする!」
「それはたぶん無理だよ……」
黒崎くんが突っ込んだ。
私たち三人が宿題についてあれこれ言っているところへ、昨日の男の子、小川くんが走ってきた。手にはデジカメを持っている。
「おー、来たか少年」
飛鳥が手招きする。
「見て、これ!」
私達は、小川くんの操作する、デジカメの画面をのぞき込んだ。
建物の高い位置から見下ろす角度で、川沿いの道と『桜姫の石碑』が、映されている。
夜で明かりも少ないせいで、画面はほぼ真っ暗と言っていいくらい薄暗い。
「あっ……」
私は息をのんだ。
画面の両端から、青白い光がふたつ、フレームインしてきた。
これが…人魂?
その光は地面すれすれを、はずむように動いていく。
そしてふたつの光は、中央の石碑の前で出会った。
しばらく、嬉しそうにじゃれあった後、反対方向へと消えていく。
そしてふたつの光が画面から消えると、石碑の前は真っ暗になった。
「……こ、これって……」
私は、ちらりと飛鳥と黒崎くんを見た。
ふたりはこくりとうなずいた。
――同じことを考えているみたいだ。
「ねえ、小川くん……」
私は切り出した。
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