時計台の太郎くん 第3話 朱里、振り返る。当日の行動を推理せよ!

 二時間目と三時間目の間の、ちょっと長い休み時間。

 私は窓際の席で、ほおづえをついて考えていた。

 考え事はもちろん、『太郎くん』の体操服についてだ。

 あの日のことを詳しく思い出すことで、何か手がかりが見つけられるんじゃないか、ってわけ。


 体操服が入っていたあの日は、金曜日。

 金曜日の体育は五時間目で、終わったらすぐに帰りの会、そして下校だ。

 体育は、五年一組と二組が合同で、着替えるのは、男子が一組、女子が二組だ。

「うーん、着替える前に、変なものが入ってないのはたしかに確認したし、終わった後も、別に入ってなかったの、おぼえてる……」

「朱里ちゃん、何つぶやいてるの?」

 顔を上げると、同じクラスの水野皐月みずのさつきちゃんがのぞき込んでいた。

 皐月ちゃんは、五年生にしては小柄で、ざしきわらしみたいな女の子。

「こないだ、『たろう』って名前の体操服の落とし物があったでしょ?あれ実は、私のカバンに入ってたんだ。いつどこで入っちゃったのかなー、って考えてたとこ」

「そうなんだ~」

「入ったの、五時間目の体育の授業中から家に帰るまでくらいしか思いつかないんだよね。でも、心当たりがなくってさ」

「そうだ、朱里ちゃん!私、足首をねんざして、先週の体育はずっと見学だったじゃない」

 皐月ちゃんは、窓から校庭の奥にある、日よけつきのベンチを指差した。

「あそこに座って、ボーっと教室を見てたけど、誰も入ってこなかったよ?」

「本当!?」

 たしかにあそこからなら、この教室もよく見える。

 私の席は窓際だから、だれかが近づいたら、すぐにわかるだろう。

「皐月ちゃん、ありがとう!」

 これは大きな情報だ。


 さっそく飛鳥と黒崎くんに報告しようと廊下に出ると、タイミングよく、むこうから飛鳥がやってきた。黒崎くんもいる。

「例の体操服の件、何かわかったの?」

 ちなみに、飛鳥は五年一組、黒崎くんは五年三組だ。

「体操服の落とし物、うちのクラスでも先生が声をかけてたけど、いなかったよ」

「僕のクラスも」

「そもそも今の時代、『太郎くん』なんて名前の子、いないしね~」

 ――学年全部どころか、学校全部探しても、多分、いない。

 私の席から見上げると、時計のない時計台が見える。黒い穴が、ブラックホールみたいだ。

 なんだか不安になって、私はぶるっと身震いした。

「だいじょーぶだいじょーぶ、『あああ団(仮)』なら、解決できるって!」

 飛鳥がバン!と、私の背中をたたいた。

 そして言う。

「あの体操服、誰も名乗り出ないし、落とし物箱から回収して、調査を始めちゃおうか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る