時計台の太郎くん 第2話 怪談のナゾを解決せよ!秘密組織、結成!

 「みなさ~ん、おはようございま~す」

 朝の教室に、五年二組の担任、花山先生の間延びした声が響く。ふわふわした長い髪の毛を後ろでひとつにしばった、若くておっとりした女の先生だ。

 私は学校に着いてすぐ、花山先生に体操服を渡してある。

「今日は、体操服の落とし物がありま~す」


「たろうさーん。このクラスに、たろうさんの名前が書いてある体操服をなくした、って人はいませんか~?」


 一瞬の沈黙。

 その後、教室がざわめいた。

「たろう、ってあの太郎!?」

「マジで太郎なの?え?あの時計台のやつ!?」


 私は窓際の席で、そっとクラスメイトを観察した。

 ざわめきが続くばかりで、誰も持ち主だと名乗り出る子はいなかった。

 「心当たりのある人、いませんか~?いない? じゃあ、校務センターの箱に入れておきますね~」

 花山先生はそう言って、体操服を引っ込めた。

 そうして『怪談の太郎くんのものかもしれない体操服』は、S小学校の落し物入れの片すみに放り込まれ、放置されたのだった。


 「うーん、何それ、スッキリしない!」

 飛鳥がバン!と勢いよくベンチをたたいた。黒崎くんがビクッとする。

 ここはS小学校近くのY公園。

 あらためて紹介すると、私、飛鳥、黒崎くんの三人は、この公園の周りにそれぞれの家がある、おさななじみ同士だ。

 五年生になってクラスは別々になっても、この公園で待ち合わせて登校し、放課後はここで落ち合って遊んでいる。


 日向飛鳥ひなたあすかは、ポニーテールがトレードマークの元気っ子。

 猪突猛進ちょとつもうしんというのは、彼女のためにある言葉だと思う。

 黒崎亜希斗くろさきあきとは、ビビり屋で小心者。口ぐせは、「ヒト……コワイ……」。

 黒ぶちメガネでかくれた顔は、うちのお母さんによれば、「女の子みたいにかわいいじゃない!」だって。

 そして私、月本朱里つきもとあかりは、そんなふたりに比べたら、ごくごく普通の小学五年生……だと、思う。

 好きなものは、ハムスターのキャラクター、『ハッピーはむはむ』ちゃん。

 成績も運動も、まあ、いたって平凡。


「そうだ、朱里ってぽわぽわして、ちっちゃい子とかに好かれやすいから、怪談の『太郎くん』にも好かれて、体操服入れられちゃったんじゃない?お化けが憑いてきやすい体質っていうの?」

 ……いきなり飛鳥に『普通』を否定された気がする。

「やめてよ!でも私だってモヤモヤするよ……誰なんだ~、私のカバンに正体不明の体操服なんて入れたのは!」

「僕……この話聞いてからずっと怖くて……夜しか眠れない……」

「「寝てんじゃん!」」

 黒崎くんの言葉に、飛鳥と私のダブル突っ込みが炸裂する。


「ねえ、あたしたち三人で、この体操服の謎を解決しない?」

 飛鳥が、キラキラした瞳で言った。

 私はびっくりして飛鳥を見つめた。

「えっ、そんなこと、できるの?」

 ……でも、正直、このままなのはスッキリしない。

「でも、もし本当に解決できるなら、したいなぁ」

「僕……ヒトも怖いけどオバケも怖い…」

 黒崎くんが尻込みする。

「飛鳥さんと朱里さんでやりなよ……僕、布団かぶってゲームしてる」

 飛鳥が腰に両手を当てて、黒崎くんをにらんだ。

「くっきー!あんただって、もしカバンの中に『花子さん』て書かれた体操服が入ってたら嫌でしょ!そんときに協力してあげないよ!」

「ヒイイイィ!それはイヤだ!やる、やります……!」

「よっしゃ、決まり!」

 こうして、私たち三人は、体操服の謎を解決することを決めたのだった。


「そうと決まったら、まずは……」

 飛鳥がうん、とうなずいて手をたたいた。

「グループ名ね!」

 私と黒崎くんは、同時にずっこけた。

「『太郎くんをやっつけ隊』……『怪談解決団』……う~ん、どれもイマイチね……」

「うわっ、ダサ……」

 黒崎くんがつぶやいた。そしてそっと手を上げる。

「僕、『秘密組織』とか入れたい……」

「採用!」

 飛鳥が私にまで話を振ってくる。

「朱里、こういうの得意でしょ」

「えっと……」

 私はしばらく考えてから、木の枝で地面に『あかり』『あすか』『あきと』と書いた。

「私たち3人の名前が、全部『あ』で始まっているから、そこからとって……」

 私が、3A《スリーエー》なんてかっこいいよね、と言おうとしたら、飛鳥がかぶせてきた。

「それめっちゃ採用!『あああ団』!」

 私と黒崎くんは、同時にずっこけた(二回目)。

「『怪談解決☆あああ団』!これでよくない!?」

「「よ、よくない!」」

 黒崎くんと私のダブル突っ込み。

「ゲームの開始画面で、主人公の名前、適当にボタン連打で決めるやつだ……!」

「あ、飛鳥、本採用にしないで!せめて(仮)にして!」

 私たちふたりの猛抗議に、飛鳥が、口をとがらせた。

「仕方ないなぁ~」

 飛鳥は極太の木の枝で、ガリガリガリッとでっかくこう書いた。


「S小学校秘密組織・怪談解決☆あああ団(仮)」


「ああああぁぁ~~」

 私と黒崎くんが、地面にへたり込む。

 ドヤ顔の飛鳥。


 こうして、(前略)あああ団(仮)が結成されたのだった。



  

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