時計台の太郎くん 第9話 三つのカバンを見比べろ!朱里の名推理

 私、月本朱里の立てた仮説。


 ―――どこかでとある人が、S小学校の体操服を拾った。

 その人は公園で、小学生が遊んでいるのを見かける。

 この子たちの落とし物かな、と思って、こっそり荷物の中に体操服を戻してあげた。

 そしてカバンから体操服が発見される―――


「……とまあ、こんな感じで、誰かが公園で体操服を入れた説が、最有力だと思うの」

 Y公園での調査を終えた翌日。

 私の部屋に集まった黒崎くんと飛鳥に、私は言った。

「だけど、それだとやっぱり引っかかることがあるの」

 私は続ける。

「なぜ、黒崎くんでも飛鳥でもなく、私のカバンなんだろう、ってこと」


 私は部屋のすみに転がっていた、飛鳥と黒崎くんと私、三人の体操服入れを並べて見比べる。

 飛鳥の体操服入れは、スーパーでキャンペーンのシールを集めてもらった、クリーム色のシンプルなトートバッグ。チャックはなくて、中身をポンポン入れるだけ。

 黒崎くんの体操服入れは、黒地にドラゴンのきんちゃく袋。ザ・男子って感じ。

 そして私の体操服入れは、チャックのついたピンクのはむはむのバッグだ。


 私は最初に、黒崎くんの体操服入れを持ち上げた。

「まず、体操服を拾った人が落とし主の手がかりを探してタグを見たら、『たろう』の文字に気がつくでしょ。

 あきらかに男の子の名前の体操服なら、男物のバッグに入れようと考えるのが普通じゃない?」

 次に、飛鳥のバッグ。

「次に入れるなら、私なら飛鳥のバッグにするね。口が開いているから、さっと簡単に入れやすいし」

 最後に、私のはむはむバッグ。

「そして、一番入れにくいのが私のバッグ。チャックを開け閉めしなくちゃいけないし、一目で女子のバッグだってわかるから。

 ――それなのに、犯人は、あえて私のバッグを選んだ」

 私は大きくうなずいた。

「――ここにヒントがある気がするの」


「さすが朱里!名推理!」

 飛鳥が手をたたいた。

「なるほど、筋が通ってるね」

 黒崎くんが、真面目な顔でうなずく。

「やっぱり、誰でもいいわけじゃなくて、ピンポイントで朱里さんに届けたかったんじゃないかな、その体操服」

「つまり、確実に朱里がターゲットだってこと?」

「や、やめてよ!」

 私は青くなった。

 黒崎くんが続ける。

「たまたま、とか偶然、じゃなくて、誰かの意思のあるプレゼント、ってこと……?」


 ―――正体のわからない、けれどもこの世に実在する『たろうくん』が、30年前のS小学校の体操服を入れる相手を探していた。

『たろうくん』は公園で、小学生が遊んでいるのを見かける。

『たろうくん』は「月本朱里」を狙って、こっそりその子の荷物の中に体操服を入れてあげた。

 そしてカバンから体操服が発見される―――


「い、いやだ!そう考えるとますます怖い~~~!」

 私は叫んだ。

 こんな推理、するんじゃなかった!

 おばけのしわざじゃない証拠を見つけようとしているのに、調べれば調べるほど、怖い考えしか浮かばないなんて!

 やっぱり私が狙われているの!?




 



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