時計台の太郎くん 第7話 あああ団(仮)、公園で聞き込みをする!(前編)
Y公園は、住宅地の中にひっそりとある公園だ。
小さいながらも、屋根付きベンチ、ブランコ、すべり台、鉄棒、自動販売機に公衆トイレまである。
公園の入り口近くにある屋根付きベンチにランドセルや荷物を置いて、奥にある遊具コーナーで遊ぶのが、私たちの日課だ。
たしかに、奥で遊ぶのに夢中になっているから、荷物にはあまり注意をむけていない。盗まれて困るような貴重品もないし。
誰かが公園で、カバンに体操服を入れる機会は十分にある!
「あの日、公園に誰がいたか思い出せる?」
ノート片手に私がたずねると、黒崎くんが手を上げた。
「S小学校のちびっ子軍団」
「いたいた!5人くらい!」
と飛鳥が手をたたく。
「体操服小さかったし、あの子達の誰かのかもしれないよね」
私も手を上げる。
「ベンチにいつもいる、おばあさん」
「あ、それ、曲がり角の遠野さんちのおばあさん。お母さんから聞いたことある」
飛鳥が言う。
「いつも日向ぼっこしてて、遠野のおばさんが時々様子見に来てるんだよね。かなりボケちゃってて、もうあまり話もできないっぽい」
飛鳥も元気よく手を上げる。
「陽気な音楽鳴らして踊ってる、外国人ファミリーは?お父さんと赤ちゃんおんぶしたお母さんと、よちよち歩きの女の子」
「僕、田中から聞いたことある。駅前で料理屋やってる、ブラジル人のホセさん一家」
黒崎くんが答える。
「へぇ~」
知らなかった、メモメモ、っと。
私も思い出した。
「自販機の近くのベンチに座ってる、小太りのおじいさん。なんか人目を気にしてる感じの」
飛鳥と黒崎くんがうなずいた。
「僕もよく見るけど、誰かは知らない」
「正直、あたしはこのおじいさんが一番あやしいと思う!キョロキョロコソコソしてるんだよね!」
飛鳥がまた手を上げる。
「あと、猫のにゃん太とドロボウガラスも追加で」
にゃん太はいつもベンチで寝ている茶トラの猫で、公園のアイドルだ。
カラスは、電線の上から子どもたちのおやつを狙っている。黒崎くんなんてしょっちゅうターゲットにされている。
「……それって犯人、いや、犯ニャンと犯カーの可能性、ある?ま、いいや、書いとくね」
私はノートに、にゃん太、カラス、と追加した。
これで、ひととおり出そろったかな。
「よっし、じゃあ、分担を決めようか」
飛鳥が腕組みをした。
「分担?」
「あんな小さな公園で、三人ゾロゾロ聞き込みしたら目立つじゃない。聞いた人間が犯人だったりする可能性もあるしね」
飛鳥がちっちっと人差し指を揺らす。
「まずひとりが行って、あとのふたりは後方で様子見、なんだかヤバそうならサポートする作戦よ」
「なるほど……それがいいね」
私はうなずいた。
「大物はあたしが引き受けるわ。ホセさん一家と自販機じいさんが、あたし」
飛鳥が胸をたたく。
私と黒崎くんに異論はない。
「で、朱里は、おばあさんとちびっこ担当。朱里なら警戒されなさそうだし」
「らじゃー」
「くっきーは……」
「知らない人……コワイ……」
露骨に視線を逸らす黒崎くん。
「カラスと猫」
「からすとねこ!」
思わず復唱した私の横で、黒崎くんがあきらかにほっとした顔でコクリとうなずいた。
……それでいいのか。
私たちは、家を出て公園へ移動した。
うまい具合に、さっき確認した人たちが公園内にいる。
「誰からにする?」
飛鳥はやる気満々だ。
「ちびっ子軍団は早く帰っちゃうし、私からいくよ」
「朱里、ファイト!」
「が、がんばれ……」
ド、ドキドキする。
推理小説みたいな聞き込みをするなんて、初めてだよ。
私はできるかぎりにこやかな笑顔を作って、子どもたちの輪に入っていった。
「こんにちは~」
顔見知りの下級生たちが、わらわらと集まってきた。
「あっ、ライオンとメガネくんの友だちの、ハムスターのおねえちゃんだ~」
……何、その認知のされ方。
メガネくんは黒崎くんで、ライオンはあれだ、飛鳥だな。
私がハムスターなのは、きっとハッピーはむはむのカバンのせいだろう、うん。
「おねえちゃん、な~に?」
「ねえ、この中で誰か、最近体操服なくしたよ、って子はいない?」
「え~」
「いないよ~?」
「たろうくんって名前の友達や兄弟はいる?」
「いな~い」
「俺知ってる、それ、学校の怪談のやつじゃない?」
「何それなにそれ?」
「か、怪談とか、今は置いといて……じゃあさ、この公園で、変な人とか見たことある?」
私がさらにたずねると、
「ある~」
「えっ、あるの!?」
私は目を丸くする。
ちびっこ達が爆笑した。
「今、後ろにいる~」
「えええええっ!?」
びっくりして振り返ると、そこには――――
――――どこから持ち出したのか、サングラスをかけて、茂みから顔だけ出している飛鳥と、両手に葉っぱつきの木の枝を持っている黒崎くんの姿が……
「な、何やってんの、ふたりとも!」
「何って、変装して待機」
飛鳥がしれっと言う。
「めちゃくちゃバレてて、笑われてるんですけど!?」
私は突っこむ。
「ライオン、メガネ、おもしろ~い」
「君たちありがとう、お話はこれでおしまいだよ」
私はあわてて会話を打ち切った。
「ハムスターのおねえちゃん、またね~」
ちびっ子たちは笑いながら走っていった。
「かえって目立つから、普通に遠くのベンチから見ててよ!」
私に怒られて、ふたりはしょげている。
飛鳥が気を取り直して、すっくと立ち上がった。
「次はあたしが行くわ。あそこにいるホセさん一家ね」
「……あのさ、飛鳥、大事なこと聞くけど、言葉わかるの?」
「まかせて!私、小二までキッズ英会話通ってたもん!ブラジル語だっていけるいける!」
飛鳥はそう言い残し、元気よく駆けていった。
その背中を見送りつつ、
「……ブラジルの公用語はブラジル語じゃなくて、ポルトガル語なんだけど……」
黒崎くんがつぶやいた。
「そうなの!?どっちにしろ、ダメじゃない?」
私はびっくりした。
どうすんの、飛鳥。
私たちは、遠くのベンチから、手に汗を握って飛鳥を見守った。
「おっ、飛鳥さん、まじで話しかけてる」
「ねえ、なんか、普通に通じてるっぽくない?」
驚きをかくせない、黒崎くんと私。
「めちゃくちゃ話してる……すごい打ち解けてる……」
「コミュ力すご過ぎるよ、飛鳥!」
ほどなくして、飛鳥がホセさん一家に手を振って、こちらに戻ってきた。
「ちゃんと聞けたよー!体操服もたろうくんも知らないし、あやしい人も見ていないって」
「ちゃんと情報収集してる……」
黒崎くんが、心底びっくりした目で飛鳥を見ている。
わかる。見る目、変わるわ。
「飛鳥、すごい!ペラペラだったじゃない」
「でしょ?」
飛鳥はえっへん!と胸を張る。
「マジでペラペラだったわ、ホセさんの日本語」
「「そっち!?」」
黒崎くんと私のダブル突っ込み。
「『お役に立てなくてすみません、また、何かあったらお気軽に声をかけてください』って、りゅ~ちょ~な発音で言われたわ」
「ホセさん、日本語、完璧に使いこなしてらっしゃる……」
黒崎くんがうなった。
「はい、次はくっきー。猫とカラス、どっちからいく?」
飛鳥が笑顔で黒崎くんに迫る。
「え、僕?本気でやるの?」
「にゃん太やカラスがどっかの家の洗濯物をくすねて公園に放置して、誰かが拾って朱里のカバンに入れた、って可能性もあるじゃん」
「そっか、そうだよ……ね……」
と、黒崎くん。
私はせめてものアイテムとして、家の冷蔵庫からくすねてきたソーセージを二本、黒崎君に渡してあげる。
「に、にゃお~ん」
鳴きまねをしつつ、黒崎くんがソーセージ片手に、にゃん太ににじり寄る。
次の瞬間、にゃん太はソーセージをくわえてひったくると、ダッシュで繁みの奥に消えた。
「秒殺だったね……」
「なんの成果も……得られませんでした……」
がっくりと肩を落とし、黒崎くんがつぶやいた。
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