時計台の太郎くん 第6話 黒崎くん、小学生男子のリスクについて大いに語る
「まず、だいぶわかったこともあるし、状況を整理しよう」
放課後、私の部屋。今日も今日とて謎解き会議。
私はふたりに、これまでのことをまとめたノートを見せた。
・体操服は、五年二組、月本朱里のカバンに入っていた。
・体操服が入っていたのに気づいたのは、5月✕日、金曜日の夜。
・五時間目が体育で、着替えの前後には入っていなかった。
・体育の授業中に教室に出入りした人はいない。(皐月ちゃんの目撃証言)
・体育の後に帰りの会、公園に寄ってから朱里の部屋で『あああ団(仮)』のメンバーで遊ぶ。
・夜八時に、お母さんがカバンを開けて体操服を発見。
・S小学校の落とし物箱に五日間放置されるけれど、落とし主は現れず。
・体操服は、今から三十年前、平成✕✕年、すずかけ洋服店にて購入されたもの。サイズは百二十センチ(小学二、三年生用?)
・体操服のタグには、「たろう」と黒い字で書かれている。
・体操服が入っていたカバンは、ピンクのハムスター柄。
・朱里の推しキャラはハッピーはむはむちゃん、すずかけ洋服店のおばあさんの推しメンは虹色モルモットの紫音くん。
「……朱里さん、これ、最後の方の情報、いる?」
黒崎くんがジト~っとした目でノートから顔を上げた。
「いるに決まってるじゃない!今年50周年を迎えるロングセラー愛されキャラクター、ハッピーはむはむちゃんだよ!」
「これ、そんな歴史あるキャラクターだったの!?」
黒崎くんは、カバンのはむはむを目を丸くして二度見している。
「すごいよ朱里!すっごくまとまってるじゃない!後はこの情報から犯人をあぶり出すだけだねっ!」
飛鳥がパチパチと拍手する。
えっへん。
「……ちなみにあたし、そういうの苦手!う~、さっぱり!わ・か・ら・ん!」
飛鳥はノートを放り投げてベッドに突っ伏した。
うん、知ってる。
「……はい」
黒崎くんがそっと手を上げた。
「あのさ、カバンに体操服を入れるの、男子にとって無理すぎじゃないかな、って……」
「え~、くっきー、どうして?」
飛鳥がたずねる。
「もし、僕や他の男子が人気のない教室で、このピンクのカバンの中をあさっているのを見かけたら……君ら女子はどうする?」
「うっわ!キモい!無理無理無理、絶対無理!軽蔑する!」
飛鳥が叫んだ。私もうなずく。
「先生に付き出して学級会コースだね」
「だろ?もう社会的に抹殺されるじゃん……男子に見られたら見られたで、『こいつ、女子のカバンあさってやんの!やーい、スケベ~!』って、一生イジられ確定じゃん……うう、もう明日から学校行けない……」
黒崎くんは、自分の想像に自分でダメージを受けて、頭を抱え込んだ。
たしかにそれはとんでもないリスクだ。
『太郎くん』が実在する男の子なら、本当に、そんな危険を犯してまで、体操服を入れるのだろうか。
「学校じゃ見られたときの危険が大きい……学校以外の場所……」
――ひらめいた。
私は叫んだ。
「公園だ!」
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