時計台の太郎くん 第5話 ムラサキババアの正体、そして新たな手がかり

「ズンチャッチャカッチャ♪cha-cha-cha☆チャーン!」


 陽気な音楽が、店中に鳴り響く。

 それと同時に、カウンターの奥の薄型テレビが、パッとついた。

 古い店内に似つかわしくない、最新式の、超巨大モニター。


「はぁ~い、モルモルぷいっとコンニチハ!『虹色モルモット』、にじモルパープルの紫音しおんでーっす☆みんな元気~?今日はお待ちかねのプレミアム生配信!!準備はオッケー??」

 テレビの中で、紫色のフリフリ衣装を着た、二次元イケメン画像がまくし立てる。


「し~くぅ~ん!」

 おばあさんが叫んだ。

 ムラサキババアなのに黄色い声。

 いつの間にか、おばあさんの両手にはさっきの懐中電灯。

 ……いや、これは懐中電灯ではない、ペンライト―――!

「しーくんLOVE」「ファンサ☆して」とデコられた、黒いうちわまで装備している。


 な、ななななんなのこれっ?

 あまりのあまりに、予想外な急展開。

「な、ななななななななにこれっ!?」

 パニック状態で、飛鳥が叫ぶ。

「なにって、わしのイチ推し歌い手グループ、『虹色モルモット』のミステリアス担当、紫音くんこと『し~くん』に決まってるじゃろ?メンカラはもちろん紫じゃ。ほれ、わしのカラコンとネイルとメイク、し~くんとオソロじゃろ」

 ……ちょっと待っておばあさん、情報量が多すぎる。

 私は頭を抱えた。

 え、えっと、つまり、このおばあさんは、今画面に映っている『しーくん』とかいう人のファンで、イメージカラーで全身コーディネートしてるってこと?

 おばあさんは、固まる私たちに、しっしっと手を振る。

「始まってしまったじゃろがい、五時からのYouTube生配信。邪魔だから帰った帰った、さもないと……」

 妖怪ムラサキババアそのものの顔でニヤリと笑った。

「推し沼に引きずり込んでやるぞぉ……」


「「「お、お邪魔しましたあ!」」」


 私たち三人は、全力ダッシュで店から飛び出した。



「はぁ……はぁ……はぁ……なんだったのっ!?」

「とんでもない……目に……あった……」

「……………うっ、うっ、怖かった……」

 すずかけ洋服店を飛び出し、商店街のはしっこまで数百メートル走って、私たちは息を整える。

「あの店じゃ言えなかったけど、絶ッッ対、怪談のムラサキババアだと思ったよ!」

「朱里、ほんとそれ!」

「僕が思い出せない理由、わかった……あの店、あまりに怖かったから……記憶、封印してたんだ……」

 黒崎くんが頭を抱えた。

「そして今日、新たなトラウマ植え付けられたくっきー、かわいそう……ドンマイ」

 飛鳥がポン、と黒崎くんの肩をたたいた。


「でも、おかげでわかったことがあるよ」

 私はふたりに説明する。

「この体操服は、お化けの持ち物とかじゃなくて、実際に売られていて、年代もわかっている品物だってこと」

 これがわかっただけでも大きい。

「それにあのおばあさん、『太郎くん』について、何か心当たりがあるんじゃないかって思う」

「本当?」

 飛鳥が尋ねる。

「だって、すごく記憶力いいし。一回しか来てない黒崎くんのこと覚えてたもん」

 私は腕組みした。

「きっと、『たろう』ってお客さん、昔本当にいたんじゃないかな」

「大きな進歩じゃーん!」

 私と飛鳥はハイタッチした。

 その横で黒崎くんがポツリとつぶやいた。

「やっぱり……ヒト……コワイ……」

「黒崎くん、あんなん誰だって怖いよ!」

「ほんとそれ!」



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