第34話_痛みを堪えて
ぶたれた
「私にあんたを殴る資格はない。だから今のは…愚かな私たちを殴るための口実にしてほしい。ごめんね八塩、
続けて白助も、2匹に今までの事を謝罪した。苦しみを抱えさせたまま何もせず生きていたことと、村を離れさせたことを。
自分たちが八塩と檸檬のためにできたことは村の連中に「里を憎むな」と言うだけで、それすらも若い奴らには苦痛で、余計に里への恨みは強くなってしまった。自分たちは、結局何もできなかった。
「色持ちも色無しも守るために、一緒に考えよう。八塩が考えるんじゃなくて私たちで考えよう。そうしていれば…誰もこんな苦しむことはなかったんだ」
「あいつらに訳を話して謝るなら、
「………あったよ…良いことはあった。皆生きてるから…」
顔を伏せ、身体を震わせる。娘の死を経て皆を強くさせ、今日まで生きている。それはとても良いことだ。
「でも皆、誰ひとり楽しそうじゃなかったね……」
だが誰も笑わないなら、きっとそれは良いことではない。
沈黙が流れる中、小屋の中に1匹の狼が入ってきた。5匹は驚いて顔を向ける。そこにいたのは、レトロコアに行ったはずの
「今の話は全部本当?先祖の罪はどうでもいいって……八塩さんの娘…林檎さんが死んだって…」
「…本当だよ。お前と
「やっぱり……罪とか罰とかどうでもよかったんだ…黄泉村の皆が気に入らないんじゃなくて、村を思い出すことが嫌だったんだ…林檎さん………やっぱり死んでたのかよ……!」
沈黙する八塩に、瑠蓋は弾かれたように飛び出していった。
白助はこれからの村と里について提案した。
黄泉村の人狼が里に移り住むことを考えたが、それを受け入れられない者たちは少なくない。いきなり一緒に暮らすのではなく、隠し世の里に通う。そうして少しずつ受け入れてもらうしかない。受け入れられなくてもやらなければならない。子供を守るための大人は何人いたっていいのだから。
ところで、と檸檬が白助たちに尋ねる。3匹は一度も隠し世の里に来たこともなければ、黄泉村の縄張りから出たこともないと聞いている。なぜ里に辿り着けたのか。
呂太が苦笑いしながら答えた。いかんせん村と里は離れた位置にあるため匂いも辿れなかった。だからそれなりに迷ったらしい。だがそこへ
金茶茶がよく村の近くに来ていることは知っていたが、もしかしたら100年間ずっと、この日を待っていたのかもしれない。
八塩らから何も聞かされていないにも関わらず、何か知っているだろうと期待する若い人狼から質問責めにされてきた金茶茶たち。苦しい立場にいた彼らも、5匹が話し合ってくれることを望んでいただろう。
「情けないな」と八塩は悲しそうに笑った。
背高の草が顔や身体に当たるのも気にせず、霧の濃い曲がり道に転びそうになりながら、大小三つの川を飛び越えて、木と木の間を走り抜ける。その先にあるのは、嘘にまみれた獣の村。
匂いを辿ってとある小屋に飛び込んだ。
「だれ…?」
黄泉村へとやってきた瑠蓋に、蜜柑は呆然とする。目を見開き、見覚えのあるようなないような狼を見つめた。
そんな彼女には目もくれず、瑠蓋は横になっている人狼に何か声をかけようとする。しかし何を言うべきか分からず、考えもまとまっていないため言葉が出ない。それなのに感情だけは整理がついているから、流れにくい獣の姿で涙が流れる。
気配に気がついたのか、痛々しく包帯を巻く茶子は目を覚ました。そして掠れた声で名前を呼ぶ。
「瑠蓋……」
咬まれた喉は息をするだけで痛みが走るだろうに、殆ど声も出ない息だけで話そうとしている。蜜柑が「喋るな」と止めるが、茶子が言うことを聞くはずもない。
瑠蓋は茶子の言葉を聞き取ろうと耳を立てる。痛みを堪え顔を歪ませながら、何を言うのか。
「…ゴーヤ…………ちゃん、と…食って…か………しんちょ…伸びるぞ………」
激痛を覚悟してまで言いたい事がそれなのかと、呆れて涙が止まらなかった。
「………………最近まで…食ってたんだよ…っ…!」
どこまで人をおちょくれば気が済むのだろう。こんな状態になっても変わらず、茶子の口からはでまかせが出てくるのだった。
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