第33話_対話③
トンネル街道のとあるひとつのトンネル前では人狼が屯していた。入り口に2匹の人狼が立ち塞がり、進入を妨げている。
「
全員が
約100年間、お互いを嫌い合ってきたはずだ。八塩が何か間違いを起こし、仲間を殺してしまうかもしれない。そんな心配で気が気ではなく、村も里も関係なく共に止めようとしていたが、この2匹に「今は帰るな」と制されている。
「八塩さんがどれほど黄泉村を嫌っているか2匹が知らないはずないだろ?!村長が殺されるかもしれないんだよ!」
「柘榴こそ、八塩さんが嫌ってきたんが何なのか、分かってへんはずないよな」
朱介の言葉に一瞬、押し黙る。すると後ろの方で傍観していた蒼一狼、沙がトンネル街道の入り口に顔を向けた。朱介と浅葱が同じ方に目を向けると、
柘榴たちも彼らに気づく。この匂いは、人間を捜し出すために覚えた匂いだ。
「フウカとカナレ…?」
「よかった皆いて…!」
藍藍が駆け寄り、柘榴たちに自世界に帰るのは少し待とうと願い出る。争っている声は聞こえていたから、八塩らを心配していることは分かっている。自分も同じくらい不安に思っていると、思いは同じであることを示す。
「でも、八塩ちゃんたちは大丈夫だよ。絶対大丈夫……だって話してくれることを、私たちはずっと願い続けたじゃない…」
久しぶりに見た藍藍の表情は強く、「八塩たちを信じる」という意志を感じた。
その藍藍と、緑太狼と共にやってきた人間について桜一が尋ねた。捕まえたのか、と。
桜一は100年前は言葉も話せない赤子で、物心がついた時にはすでに里の掟を当然と捉え、不思議には思っていなかった。
なぜ大人が黄泉村を嫌うのかは知らないが、そういうものなのだと受け入れてきた。なぜなら何を聞いても八塩ははぐらかすばかりで、藍藍や瑠蓋は『罪から逃げているから』しか答えないから。
桜一や
弁明しようとする藍藍より先に佳流が口を開いた。
「ねぇ、本当に私たちを捕まえたい?私たちを捕まえて
誰も、動こうとしない。その様子に緑太狼が言っていた事を思い出す。
────里の奴らもお前らを捕まえたところで意味ないことは気づいてる。だが何かに当たってないと、もう耐えられないんだ。
傘招きと話してはいけない。その理由を、ここにいる者のうち答えられるのは1人もいない。理由も目的もない嘘をつくことが負荷になっている。
ハリボテの掟に則ってフウカとカナレを捕らえたところで、前言撤回をさせたところで、心は晴れない。
娘の話をよくしていたのに、ある日を境に八塩は娘の話題を避け、村を空けるようになった。村長たちの言い争う声が聞こえていた。
娘の話が聞けなくなったが、村長たちは笑わなくなったが、それはきっと「先祖の罪」とやらが理由なのだろう。八塩や村長や呂太や檸檬や茅子がそう言っているのだからそうなのだろう。
傘招きと接触した錫夏を、八塩も檸檬も叱らなかったが、とにかくそうなのだろう。だって人型になることにはひどく怒ったから。
「傘招きと話したらダメって、錫夏ちゃんに向かって言わせたいの?」
「…そんなことない……話したいなら好きなだけ話せばいいと思ってるよ。雨にさえ気をつけてくれたらなんだっていい…」
「柘榴…?」
佳流の問いに首を横に振った柘榴に、桜一は目を見開いた。
「ごめんね桜一くん、ごめんね」
「…なんで謝るの?藍藍……悪いことなんだって皆言ったじゃんか!!」
「桜一、里帰ったら皆でお話ししよ。俺らは桜一たちに、頭下げなあかんから」
宥めるように話しかける朱介。桜一は納得いかなかったが、訳が分からず喚いているのは自分だけと気づき、黙るしかなかった。
朱介も浅葱も柘榴も、蒼一狼も沙も、誰ひとりとして佳流に何か言い返す事をしない。
桜一を不憫に思いながらも、浅葱はここにいない瑠蓋のことが気掛かりだった。自分が止めるより先にトンネルに走ってしまった。
八塩たちの間に入ってかき回していなければいいが。と真っ暗な天を仰いだ。
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