第33話_対話②
「今の里はどうだ」
隠し世の里にやってきた
匂いで予想はできていたがまさか本当に来るとは思わず、八塩だけでなく駆けつけた
無遠慮に床に座り、「ん?」と先ほどの質問の返答を求める白助。八塩は戸惑いが隠しきれず、村の最年長5匹が集まっている光景に100年前を思い出し、言いようの無い不快感が胸に込み上げてきた。
娘が死んだことを思い出してしまう。
視界から消えてほしくて追い出そうと、倒していた身体を起こすと遮るように白助は口を開いた。
「蒼一狼が里の連中にやられたことは知ってるな?」
嫌でも耳に入ってくるほど聴覚が優れているのだから、若い連中の話し声が聞こえないはずがない。八塩は頷く。
「そうか。紺がやられたことも知ってるな」
また頷く。
「茶子のことも知ってるよな」
「…なんなんだい」
「もう一回聞くぞ。今の里はどうだ?」
静かに投げかけられた質問に、答えられなかった。どうだ、と聞かれても、何も答えられないのだ。
それが分かっているのか白助は、強引にも八塩から里の現状についてどう考えているのかを聞き出そうとする。
大人に振り回され、ろくに理由も聞かされず村を出ていくことになり、心の整理をつけるために若い衆が必死に理由を考え、何も教えてくれない八塩を思い、〝罰を受け入れてずっと獣型になっている〟が、どうなのか。八塩の望む里になっているのか。
何も教えてくれない大人に不満をぶつけられず、レトロコアで暴れて仲間を傷つけている連中を見て、何を思っているのか。
褒めることも叱ることもできないだろう。本当は大人が何とかしてやらなければならないのに、若い奴らがこの100年ずっと頑張っているのに、自分たちは今日やっと言葉を交わした。自分たちは一体、何をしているのだろうか。
「考えてもよう…自分が何してたのか分かんなくてな。呂太も茅子も分かんねぇっつうんだよ。なぁ八塩、檸檬。俺らは下の連中に全部ぶん投げていつか死ぬのか?」
無責任どころの話ではない、と八塩を見つめる。
何をしていたのかなんて、分からない。八塩にも檸檬にも分からない。それすら答えられず皆に、掟を守れ、人型になるなと強要してきた。
「子供守るってんなら俺らが目を背けてちゃだめなんだ。もっとちゃんと考えようぜ。今傷ついてる奴のためにも」
八塩は項垂れた。「隠し世の里」を作り上げたのは紛れもない八塩で、若い衆は応えようとしていただけ。
いつの間にか、ではなく、ずっと少しずつ形を変えて苦しんでいたのだ。手遅れになっていると気づいたのに、放っておいた。どうすればいいかもう分からないから。
耳を垂れさせて食いしばる。
「分かってんだよあたしは……でもどうすりゃいいんだ。皆に娘のことを打ち明けるべきかい?あんなに…あんなに娘とあの男の事を祝ってくれたのに………身を隠せない色持ちは狙われるんだ。大人も子供も関係なく。なら獣のまま強い姿で生きた方が死なせずに済むだろ。人型の子供より獣型の子供の方がはるかに強いんだから」
本当は八塩は、先祖の罪なんてどうでもいいと思っている。先人がしでかした事なのだから、子孫であるだけの自分たちには何も関係がない。その程度だったのだ。だから利用した。嘘をついて黄泉村を騙し、「皆のため」と称した自己満足で里と村を守った気になっていた。
その里と村がお互い傷つけ合っているなんて、なんと滑稽で本末転倒な話だろうか。
だが血を流し、流させているとを分かっていても、それでも命を守りたくて事実を隠し続けている。色計画なんて、馬鹿な都市伝説くらいの認識でいてほしいから。色を持って生まれたことを後悔しないように。
茅子は八塩に少し近付き、頬をぶった。
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