第29話_別つもの②
あの人間が言った通り、「気をつければ」会話だろうが握手だろうが抱っこだろうが好きにすればいい。危険と見なしているのは清めの雨のみで、傘招きそのものに対しては、人間と大差ないほど危険視していない。
だが子供は、レトロコアに降る雨がどれほど危険かを知らない。だから大人が付き添わければならないし、理解できないうちは近づくなと言い聞かせることもある。
昔からその姿勢は変わらないのにどう捻じ曲がったのか、隠し世の里では年齢問わず、呪われた傘招きと接触すること全てを禁止した。
その事に気づいてから黄泉村は度々、傘招きに対する態度を改めろと叱ってきた。いろんな種族と出会うレトロコアで傘招きのみを弾き出せなんて無理難題である。目印とも言える傘だけでなく、被覆している者だって山ほどいるというのに。
しかし、レトロコアでは「傘招きに近寄らない」が常識で、貴族ですらそう行動する。間違っているのはお前たちなのだと、どの種族が見てもそう言うだろう。
だから、錫夏が村に行きたいと言う理由を聞いた時は嬉しかった。
他の種族が発言した事に意味がある。同じく罪を背負う自分たちではなく、何もない人間が言ったことに意味がある。
里連中は2人を捕らえ、錫夏の目の前で「傘招きとの接触」についての発言を撤回させる気だろう。さらに、中心になっているのは若い人狼だ。奴らは里のためと称して何をするか分からない。問題の根源を叩こうと2人を喰ってしまうかもしれない。
だから護るために見回っていたのだ。これは里だけの問題ではないから。
『
争いになっても、2匹を相手にするくらいは容易かった。
昔は、バカ犬と呼ばれた4匹でよく大人からの説教を逃れた。そのために沙や向日や、瑠蓋に責任を押し付けたものだ。
押し付け、押し付けられ、同じ屋根の下で雑魚寝をした。
今でもそれができると、信じていたかった。
『狼の姿だと身長が誤魔化せていいね。お前さん、ゴーヤはちゃんと食ってるか?』
『食ってるわけないだろ。ゴーヤ嫌いなのに好きと思われて散々だ』
『ゴーヤ美味いだろ。緑のやつは苦いから私は食わないが……もしかして緑だけ食べてるのか?』
『は…?黄色は腐ってるから食うなって言ったの君だろ』
『あぁ、あの時の私は無知だったよ、ごめんな。黄色のゴーヤは実が甘くて美味いんだ。あと騙してすまないがゴーヤを食っても身長は伸びない』
『伸びないのはもう知ってんだよ!!』
相変わらずバカ犬に翻弄されるから、まだ元に戻れる可能性はあると信じていたかった。
『人間…?』
『こっちに来るな!!』
信じていたかった。
*****
自分は拾われた立場で、人狼どころかイグズィアでもない異世界の種族だから、口を出す権利はないと思っている。
毒を撒き散らして害を与えてしまっていたから、嫌われるのも怖がられるのも仕方ないと思っている。
────お前はもうオレたちの仲間なんだぞ。連れて帰ったのはオレたちなんだから絶対守る。心配すんな!
────受け入れられなかったら3匹で遠くに移動したっていいしな。
移住計画は3匹から5匹に変わり、いつしかそんな計画など忘れ去ってしまった。
────元人間のお前さんが怖いわけあるか。
────イグズィアの名折れだよねぇ。
村に受け入れたことを後悔していたなら、また人間を拾ってくるわけがない。だから家族になれた。
喧嘩ができて、騙しあって、同じ屋根の下で雑魚寝ができた。自分たちを人狼族の対等な仲間だと認めてくれたから、それらができたのだろう。
一度認めたのだから、家族として前に出よう。種族に遠慮して一歩後ろにいては、彼らと同じ大地は二度と踏めなくなる。
『人間を下がらせる。これは俺たちの問題だ』
『…俺は、どっちだろ?』
『人狼に決まってんだろ。どこの誰と一緒に育ったんだよ』
無関係の種族を巻き込んでは、いつか必ず後悔するときが来る。そのとき、自分たちに変に遠慮してほしくない。
同じ村で育った同じ種族として、異種族として、前に出よう。
「おかしいな…匂いはちゃんと覚えたはずだけど」
「お前は思い込みで行動する癖があるからな…
また同じ土地で、人間にも容赦をしない喧嘩をしたい。
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