第27話_『孤独』
『こっちくるな!!』
『だれか来て!また沙が…!』
バケモノと言われた。
『なんでそんな得体の知れないやつなんか拾ってきたんだよ!?川に捨ててこい!』
『お前たちだって毒に何度もやられてるよね…?いつか体内に蓄積した毒に
バケモノと言われた。
『得体が知れなくなんかない!レトロコアにいたんだからどっかの世界の生き物だ!バケモノ扱いするな!バカが!』
『面白いだろ、知らないものは好きだよ。それに毒っつっても腹が痛くなる程度なんだから騒ぐな』
『
『もしかしたらとっても強くなるかもしれないよ?』
面白いもの好きで、昔から悪ガキだった4匹のバカ犬共に育てられた。
村には毒の影響で彼岸花があちこち咲いた。山の深いところにある村で、周囲では死者の花と呼ばれる彼岸花をよく見かけるようになったから、いつしか〝
*****
沙の腕から血が垂れる。一滴が地面に落ちると、まるで血の
手に握った短剣からも彼岸花が咲き、煩わしく思って毟ってもまた生えてくる。
「コントロール…できるようになったんだ?…はぁ………うっざ…腹痛いし呼吸は苦しいし……」
身体のあちこちから花が生えている
────
人型の薬と共に飲まされた液体の中に、彼岸花の毒液があった。赤ん坊であれば死んでいただろうが、沙は生き延びた。人型の薬を飲んだ影響で身体の構造が変わる時に、毒を吸収する形で自身の能力としたのだろう、と小尉は推察していた。
毒性を強めると、周囲の生物や無機物問わずに彼岸花を咲かせてしまう。そのため観戦できる野次馬は毒が効かない者に限られてくる。
瑠蓋は深呼吸し、無理矢理に呼吸を整えて地面を蹴った。ほぼ同時に沙も動き出し、動作の鈍い瑠蓋の顎に、短剣の柄をぶつけようと右腕を突き出す。
しかし、両者の攻撃は届かなかった。
突如、瑠蓋の身体は横に吹っ飛び、沙は何者かによって腕を掴まれ、一回転して地面に背中をつけた。
「やりすぎだ、比良坂」
「…!」
止めに入ったのは、禽獣街道の隊長 翁。管轄である街道で人狼が暴れていると聞きつけたのだろう。
沙の腕を掴んで止めたせいで、翁の手のひらから彼岸花が2輪ほど咲き始めた。沙は瞬時に花を引き抜き、距離を取るために下がる。
翁は毒の花を気にする素振りを見せず、周囲を見回して沙に顔を向けた。
「ここは禽獣街道。毒にやられる獣がいる街道で毒を振り撒くのはやめろ」
「………」
気がつけば、街道は彼岸花が咲き乱れていた。商人すら店を閉めて隠れてしまい、これでは商売どころではない。
守人として少々暴れすぎた沙を注意し、次は瑠蓋に目を向ける。それなりの威力で蹴っ飛ばして攻撃をやめさせたのだが、さすがイグズィアというべきか、なかなかタフだ。
血を流し、身体から花が咲いていてもふらつく脚で立ち上がり、こちらを鋭く睨む。
しかし翁は、一切臆することなく言い放った。
「お前様は黄泉村の人狼か?レトロコアにくるのは構わないが、無関係の客商人を巻き込みかねない暴れ方をされるのは困る」
この発言に、瑠蓋は一層低く唸り始めた。
「翁……いつかその首、喰いちぎってやるからな」
「瑠蓋、もう帰ろう」
今にも飛びかかりそうな瑠蓋の前に、柘榴が立ちはだかって止めた。彼もまた、沙の毒を吸ってしまったようで呼吸が荒い。
瑠蓋は柘榴と沙を交互に目にし、やがて身体の向きを変えて戦いから身を引いた。
2匹が去っていく姿を確認し、翁は再度注意する。
「君は守人として彼らを止めなければならない。敵のみに集中すれば客商人や商品を傷つける。比良坂はあの人狼しか見ていなかったが、自覚はあるか?」
「……お前らみたいに割り切れれば楽だろうな。家族だろうとなんだろうと、掟を破れば無感情に殺せるんだろ。生憎だが俺は…………いや…街道を荒らして悪かったな」
言いかけた言葉を飲み込み、百薬街道に戻るために翁から離れる。ポケットから止血剤を取り出し、傷口にかけながら歩いた。
翁は無線機を操作し、禽獣隊の守人を複数名集めた。彼岸花を枯らすために街道に水を撒くのだ。雨でも降ればこの作業をしなくて良いのだが、生憎今日は、傘招きは来ていないらしい。
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