第25話_黄泉村①
最弱種族を見送った後、茶子は首に巻いたマフラーを返していないことに気づいた。追いかけるわけにもいかないため、持ち帰ることにした。
トンネル街道を進み、風を見つけて中に入る。
トンネルを出ると眩しい光に目が眩み、閉じる。再び目を開けると、そこは一際大きな樹木の幹の下だった。
熊ほどの大きさのイグズィアは入れないが、狼程度なら入れる。だからこの樹は、緊急の避難場所として子供に教えている。
木の内部から出て、
木と木の間を通り抜け、山を登る。すると、2つの匂いを感じ取った。耳をすませば微かな足音は聞こえる。相当狩りに慣れた足運びだろう。
しかし茶子は、慌てることもなく山道を登っていく。
聞こうとしないと聞き取れなかった足音は、急にガサガサと大きな音を立て始める。やがて右の木の影から、1匹の獣が姿を現した。
「紛らわしい匂いつけてくんなよ」
紺色の人狼の青年、
茶子は小馬鹿にしたように笑い、先ほどの足音に関して指導する。
「今の足音は兎すら捕まえられないぞ」
「兎は気づいても鳥は気づかないだろ」
「そんな悠長に構えてるから未だに
すると、左の木の影からまた1匹の狼が現れた。黄色の毛並みを持つ女性、黄夜だ。
狩りをする肉食族にとっては人鉤族を捕らえることは憧れだ。人狼族にとっては一人前になった証になる。
そんな人鉤族の狩猟に見事に成功した黄夜は、服を着た狼の姿で、茶子の首にあるマフラーを尋ねた。
「そのマフラーは何ですか?若干臭いんですけど…」
詳しいことは答えずに「借り物」とだけ言い、2匹を置いてさっさと村へ帰る。
「黄夜に狩りを教わったらどうだ?」
帰り際に紺に声をかける。紺は黄夜の顔を見るが、目が合うとすぐに逸らした。
黄夜は親切に、獲物に近づくときに気をつけるべきポイントを解説しようとしたが、紺に「いらねー」とそっぽを向かれた。
そのまま山の中へ姿を消したが、無理に追いかけることはしない。しかし黄夜はどこか気まずそうにして反対方向に歩き出した。
2匹のこの様子が面白くて、たびたび数匹でちょっかいを出していたら、口うるさい人狼に雷が落ちたかというくらい怒られたことがある。また大目玉を食うのは御免なので、程々にしといてやろうと足を動かした。
黄泉村は山の奥深くにあり、道中はかなり迷いやすい。「黄泉村」と呼ばれる原因の一つだ。
大人になれば迷うこともないため、真っ直ぐに村へ到着した。
いの一番に出迎えてくれたのは、狩りを覚え始めた子狼だった。
「茶子ちゃんおかえり!ねぇ私ね、ネズミ捕まえたよ!すごいでしょ?」
「すごいなぁ。次はぜひ
「ゲッ……」
淡い黄色の毛並みを持つ少女、
早々に暴かれ、柚子は口を押さえて悔しそうに耳を伏せる。
柚子の横を通り過ぎ、茅で作られた三角の家に声もかけずに入る。中にいるのは、キノコの仕分けをしている口うるさい女人狼と、つまみ食いを企んでいる黒い男人狼。
茶子は無毒ブースに置かれたキノコをひとつ口に放り、床に座った。
「おい、今食ったやつは有毒だぞ。間違えやすいキノコって習わなかったか」
同じようにつまみ食いしながら、黒い人狼は茶子が食べたキノコを有毒だと言う。
「なら
茶子はまたひとつ、キノコを食べた。すると茅子 と呼ばれた女人狼は「食べ過ぎ」と注意し、黒い人狼に一瞥もくれず言い放つ。
「私が間違えるわけないよ。
黒い人狼、呂太 は、何個目か分からないつまみ食いをしながら言い返す。
「衰えた目じゃあ何も捕まえらんねぇよ。仕方がないから仕分けてやろうじゃねーか。無毒かどうかは俺がこの身をもって証明してやる」
全くもってやる気のない心意気に、茅子は手の甲で呂太の顔面を叩いた。
クリティカルヒットし、鼻を押さえて寝っ転がる呂太を無視して、茶子は首に巻いたマフラーを外した。
マフラーから香る知らない匂いに、どこで拾ってきたのかと尋ねる茅子。
「風架のものだ」
茶子から返ってきた応えに仕分けの手を止める。呂太と共に、顔をこちらに向けた。
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