第24話_かなわない
茶子に送ってもらい、トンネル街道へ到着する。
風を探して歩いている間、気になっていたことを質問した。
隠し世の里の者たちは、なぜ傘招きを毛嫌いするのか。雨が危険なものは知っているが、もしかしてそれだけが理由ではないのか。
里の人狼が、黄泉村の人狼である蒼一狼を襲った理由は、〝先祖の罪〟に対する考え方の相違が原因なのか。錫夏の話を聞く限り、黄泉村の大人たちは姿を強要しない。
茶子は少し迷いながら、風架に目を向けた。人のものではない姿形は表情が読み取り難いが、彼女の瞳は若干の悲しみを含んでいるように見えた。
「
「違うというのは…」
「…何が違うのかは分からん。私たちは知らなすぎるんだ。何も教えてくれないから何も知らない」
「………」
茶子の言葉に、過去の出来事が脳裏をよぎった。
────風架を帰らせてくる。佳流はそこにいて。
────大丈夫だよふーちゃん!一緒にあそぼ!
兄はいつも遠ざけようとした。幼馴染はいつも誤魔化そうとした。
「風架」
名前を呼ばれ、我に返る。考え込んでしまうと自分の世界に入ってしまうのは悪い癖だ。
茶子は風架を見下ろした。
「またレトロコアにくるとき、人狼はお前さんらに牙を剥くかもしれない。私や錫夏を〝人狼〟だと思うな。錫夏はまだ子供だし、私は風架と佳流が言ってくれた言葉が嬉しかったから優しくしてやってるだけだ。だから、対話しようだなんて思うな。人狼に会ったら逃げろ」
優しさ故に遠ざけようとしているのだと思った。
争いが過激化している原因が自分たちの発言だったのならば、無関係とは言えない。だから、少しでも何か力になれることがあれば。
胸の内を伝えると、茶子は立ち止まった
「イグズィアは異種を食う肉食種族だ。人狼は犬を喰わないが、鹿や兎や鳥、肉全般を食う。お前さんたちは人狼でも犬でもないから、捕食の対象だ」
立ち止まった箇所は、人間世界へのトンネル前だった。風架の長い髪はなびき、茶子の毛はゆらめきもしない。
それに気づかないまま、風架は茶子を見つめる。
「生きるために狩りをする。それ以外で殺しはしないが、殺してしまったら食わなきゃならない。イグズィアの絶対のルールだ。レトロコアでもルールを守る真面目な種族なんだよ」
体格もパワーも戦闘力も、何もかも違いすぎる種族。人と獣の混血種、イグズィア。ひとたび命を狙ったら、己のルールに則って喰らい尽くす。
「弱い人間は何の力にもならない。喰われたくないなら言うことを聞け」
獣の瞳で諭され、頷いた。力になりたいのに、自分が弱いせいで叶わない。何もかもがかなわない。
ようやく風が吹いていることに気づき、送ってくれたことに感謝を伝える。
頭を深く下げ、背を向けてトンネルへ入った。
(自分の…発言の責任も取れない……)
自分が正しいと言うつもりはない。傘招きにとって、他者に近づいてほしくない気持ちは本心だろう。
だが間違っているとも思えない。雨にさえ気をつければ、大人がついていてやれば、それで良いのではないのか。
帰り道の足取りの重さを、初めて経験した。いつだって早く帰りたかったのに、今回はまだレトロコアに残りたいと思っている。
こんなことを佳流に言ったら怒られてしまうだろうなと、暗闇を振り返る。
そこにはトンネルを照らす青い提灯も、茶子の姿も何もなかった。
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