第20話_兄の悩み②
隣人へは
晶斗と風架という
「ただいまー…!ごめんね、思ったより遅くなっ…ヘビじゃーん!もう11月なのになんでいるの?ていうかダメだよ
「はぁい」
佳流、珀流という
最初こそ不審がっていた隣人だが、橘兄妹の人柄や佳流の明るさのおかげで、今では最低限の距離を保ってくれている。
動物禁止というアパートのルールをいまいち理解しない珀流にも、頭ごなしに叱ったりはしない。
しかしその優しさに甘えてはいけないので、ルールで禁止されていることについてはしっかりと、家庭内で教えていかなければならない。
佳流は珀流に、何度目か分からない説明をする。
「このアパートは動物と一緒には暮らせないんだよ。部屋に連れてきちゃったら大家さんに怒られちゃうの」
「うん」
「わかった?」
「うん」
「えらいね!」
軽すぎる珀流の返事に頷く佳流。その頭を晶斗が叩いた。
「いたっ!わかったって言ったじゃん!」
「言うだけなら簡単だ」
晶斗は珀流に、何度目か分からない約束を取り付ける。
「動物と会うときはアパートの外でだ。分かったか?」
「うん」
「ならいい」
佳流の時と何が違うのか、似たような言葉で禁止を伝えた。
珀流は味噌汁を取り分ける風架の近くへ行き、驚かせたことを謝った。誰かを傷つけた、あるいは怖がらせたという自覚ができて、その上で素直に謝罪ができる子なので、必要以上には怒れない。
ルールをきちんと理解できれば、もはや何も言うことはないのだが。
風架は微笑み、大丈夫だと許した。
夕飯が終わり、風架と佳流は食器を片付ける。その間、晶斗は珀流に、学校からのプリントがないかを尋ねる。
何回か確認すると、思い出したようにスクールバッグから何枚かの紙を引っ張り出してきた。たくさん折り目がついていて、ファイルに入れずに突っ込んだことがよく分かった。
「…………球技大会か」
「うん」
「楽しかったか?」
「ううん、僕はやらなかった」
「そうか。来年はなるべく大会前に教えてくれ」
「わかった」
珀流から渡されたプリントの一枚には、球技大会の種目変更や熱中症対策について書かれていて、日付が5月だった。
その会話を聞き、皿を洗いながら佳流が笑う。
「球技大会ね。体操教室の子が教えてくれて初めて知ったよ〜」
皿を片付ける風架は驚く。
「え……そんな大会が?どうして教えてくれなかったんですか、珀流くん…」
「忘れてた」
忘れていた、と言われてしまえばそれまでだ。苦笑いし、来年は教えてくれと晶斗同様に伝えた。
相変わらず軽い返事で頷き、珀流は入浴のために洗面所へ向かった。
座っていた晶斗は立ち上がり、隣にある自室へ入るため、襖に手をかける。その際、キッチンで雑談しながら食器を片付ける女性2人に目を向けた。
何も変わった様子はなく、楽しそうに会話をする妹と幼馴染。
家庭は少し複雑で、風架をちゃんと育てたくて地元から引っ越してきた。4年前だ。
何かに励んでいるだけならそれでいい。だが、なぜ何も言ってくれないのか。佳流も何か知っているはずなのに、一切教えてくれない。
────2人は何も教えてくれないじゃないですか……!
(返ってきた…ということか)
もしかしたら本当に好きな人か彼氏がいて、兄には言いにくいのかもしれない。心配で堪らないが、佳流も一緒ならば大丈夫だろう。
静かに襖を開け、静かに閉めた。
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