第19話 秘密兵器"黒曜騎士"

「エルザ!!」


リサはエルザの体を揺らすが、ピクリとも動かない。

エルザの左手のひらは超爆破の印の反動で黒く焦げ、ボロボロになっていた。

遠くから戻ってきた生気とエルザから抜かれた生気は、ディオゲインの周りをふわふわと漂いだす。


「さぁ、次はお前の生気を貰うぜ…!」


ディオゲインの手がリサの方へ伸びていく。

リサは俯いたままその場から動かない。


「ハッハッハ!もう諦めて俺の奴隷になることを選んだか?ならその希望、叶えてやるよ!」


ディオゲインの手がリサの目の前まで来た時だった。

リサは剣を持ちその場で体を一周回した。

すると、リサとエルザの周りに炎の円が現れた。


「炎…!」


手に感じた熱さに、ディオゲインは咄嗟に手を引く。

リサは炎の円から飛び出し、ディオゲインに剣を向ける。


「あんたは許さない…絶対に!!」


「ハッハッハ!威勢のいい女だ…。気に入った!絶対に貰うぜその生気!!」


ディオゲインは斧を思い切り振り上げる。

リサは剣を構え、防御の姿勢を取った。


「くらえっ!!」


巨大な斧がリサに向かっていく。

斧がリサの目の前に来たその時だった。


「風斬ふうざん!!」


横から、風を纏った斬撃が飛んでくる。

斬撃はディオゲインの持つ斧に当たり、斧は横に弾かれた。


「なんだ!?」


「リサー!!」


声のする方を見ると、そこにはアランとロマーニの姿があった。


「アランと…ロマーニさん!?なんでロマーニさんが…!?」


リサは急いでその場から離れ、二人の元に駆け寄った。


「遅れてすまない!君たちだけにこの問題を背負わせるわけにはいかないと思って追いかけてきたんだ。それで、入り口でアラン君に出会って…」


「そうそう、ロマーニさんすごい強いんだぜ!風の斬撃を飛ばして…俺もさっき助けてもらったんだ!」


「そうだったの…そうだ!それより大変なの!エルザがディオゲインに生気を抜かれて…!」


「なんだって!?エルザは!?」


三人は先程の燃える円に近づいて行く。

リサが剣をしまうと、炎は消え、中には横たわるエルザの姿があった。


「エルザ…!」


「今は多分気絶しちゃってる…。でも、早く生気を戻してあげないとエルザも廃人みたいになっちゃうわ…!」


「ディオゲイン…!!絶対許さねぇ…!!」


怒りの顔を浮かべ、アランはディオゲインの方へ振り向く。


「ちっ、ロマーニ…!!てめぇまだ生きてやがったのか…」


「この少年たちに助けてもらったのさ!…さっきは不意を突かれてやれたが、今度こそ町の人たちの苦しみ、お前にぶつけさせてもらう!!」


「ハッハッハ…何度やっても同じ事だ…!お前ら全員、俺の奴隷にしてやろう…!」


そんな会話をしている時だった。


「おーい!!ディオゲイン様!!」


遠くから声が聞こえてくる。

走ってきたのは、先程アラン達の前から逃げ去ったベガッジだった。


「ベガッジ!遅ぇぞ!何してやがった!!」


「すみません、秘密兵器の調整に時間が掛かっちゃって…」


「ベガッジ、早速だが秘密兵器を使う。準備しろ!」


「はい、ディオゲイン様。ただいま…」


そう言うと、ベガッジはその場にしゃがみ両手を地面につけた。

その瞬間、地面がゴゴゴゴ…と音を立て揺れ始める。


「なんだ!?」


「地震…!?」


すると、アラン達の少し先の地面に大きな白い紋章が浮かび上がってきた。


「ハッハッハ!遂に来たか…この時が!!これだけの生気があれば秘密兵器も動くだろう!」


白い紋章の上に、大きな人間の様なシルエットが浮かび上がってくる。現れたのは全身黒い甲冑に覆われた巨人のような、巨大な傀儡人形だった。


「な、なんだ…!?これ…!!」


「巨大な…人…?」


鉄の傀儡人形より人間らしいそれは、今すぐにでも動き出しそうなほどの威圧があった。


「ゲッヘッヘ!!教えてやろう、これこそ我が最高傑作…この土地で採れる黒輝鉄(ブラックメタル)で作った最強の傀儡、黒耀騎士(ブラックナイト)だ!!」


「黒耀騎士(ブラックナイト)…!?」


「くそ、この町であんなものまで作ってたのか…!」


ロマーニは驚いた表情を浮かべながら黒耀騎士ブラックナイトを呆然と見つめる。


「さぁ、行くぞ!生気憑依(ポゼッション)!!」


ディオゲインがそう言い手を前に振ると、ディオゲインの周りに浮いていた生気達が勢いよく黒耀騎士ブラックナイトの中に入っていく。


「まずい…離れるんだ!みんな!!」


ロマーニの声を聞き、アランはエルザを背負い黒耀騎士ブラックナイトから距離を取る。

リサも、同じように距離を取った。


「動き出せ…黒耀騎士(ブラックナイト)!!」


そうディオゲインが声を上げると、黒耀騎士(ブラックナイト)はゆっくりと立ち上がる。


「動いた!」


「くそっ…!あんなのに暴れられたら、この町はめちゃくちゃにされちゃうぞ…!」


黒耀騎士(ブラックナイト)は立ち上がると、大きな雄叫びを上げる。


「グォォォォオ!!!!」


「さぁ、黒耀騎士よ…奴らを殺せ!!」


「グォォォォ…」


黒耀騎士は背中にかけていた大剣を抜くと、ゆっくりとアラン達の方へ歩き出す。


「こっちに来るぞ!」


「どうするの!?」


アランとリサは焦りながら声を上げる。


「くそっ…!やるしかないよな…」


そう言うと、ロマーニは剣を構える。

そんな時だった。


「ロマーニさん、リサ、こいつを任せても大丈夫ですか?」


そう言い出したのはアランだった。


「あぁ、しかし君は…」


「俺はディオゲインを倒します。奴を倒せば、おそらく能力は無効になるはず…!それに、俺は奴を倒さないと気が済まない…。怒りが収まらないんです」


「アラン…。どうします、ロマーニさん」


「…分かった、こいつは俺たちで抑える。君はディオゲインを頼んだ!だけど無理はしないようにね!」


「はい、分かってます」


そう言うと、アランはエルザを民家の軒下に下ろしディオゲインの方へ歩き出す。

そして、ディオゲインの前に立つと、鋭い眼光で睨みつけた。


「ハッハッハ!ガキ、お前が俺の相手か?」


「お前は許せねぇ…!絶対俺が倒す!!」


そう言った瞬間、アランの両手が光出した。


「光の紋章…。珍しい能力を持ってやがる…。お前も奴隷にしがいがありそうだ…!」


「行くぜ…ディオゲイン!!」


アランはディオゲインの方へ走り出した。


続く。

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