第18話 抜かれた"生気"
「おら!!」
アランは近づいてくる傀儡人形達を蹴り飛ばし、何とかその場を凌いでいた。
「ほらほらどうした?このままじゃあいつかやられちまうぜ?ゲッヘッヘ!!」
ベガッジはそんなアランの様子を嘲笑いながら見ていた。
(くそっ、何でタフな人形だ…!蹴っても蹴っても立ち上がってくる…!)
「ゲッヘッヘッヘ!このままいつまでもつか見てるのもいいが…わたしもそんなに暇じゃないんでな…。さぁ、行け!お前たち!」
そうベガッジが言うと、ベガッジの後ろから新しい傀儡人形がさらに五体歩いて来た。
「まじかよ…!これ以上増えたら流石に持たない…!」
アランは焦りを感じながらも、ただただ目の前の傀儡達を蹴り飛ばすことしか出来なかった。
ーーーーーーーー
「…あの子達、大丈夫かのう」
ローズは家を出て、森の方を見つめていた。
「…えぇ、心配ですね」
ロマーニもローズの横に立ち森の方を見る。
(いいのか?このままで…。我々とは無関係の子供達が戦いに行ってくれているというのに、町で唯一助かった俺がここで見ているだけなんて…)
ロマーニはギュッと手を握る。
そして、振り返り小屋の中へ入った。
「ロマーニ、どうしたんじゃ?」
ロマーニはベッドの横に立てかけてあった黒い刃の両刃の剣を持つと左の腰にかけた。
「ローズさん…やっぱり俺は、待ってるだけなんてできない。この件は、本当なら俺が解決しなきゃ行けない問題です。無関係の子供達に託して俺だけ安全なところで待っているなんてできません!」
「しかし、お主はさっき奴らに負けて大怪我を負っていたのじゃぞ!?傷は癒えたとはいえまだ体力は回復しきっていないはずじゃ!」
「ですが…やはり我慢できません!俺も戦って来ます!!」
そう言うと、ロマーニは駆け足で森の中へ入っていった。
「ロマーニ!…全く。まぁ、奴も"風斬(ふうざん)"を使えるはずじゃから戦えないことはないじゃろうが…。無理だけはするなよ…」
ローズは心配そうにロマーニの後ろ姿を見つめていた。
ーーーーーーーー
アランの元にどんどんと新たな傀儡人形達が近づいて行く。
(くそ…どうすりゃいいんだ!?)
アランがそう思った時だった。
「風斬(ふうざん)!!」
森の方からそう声が聞こえる。
すると、風を纏った斬撃がアランの前にいた傀儡人形を切り裂いた。
「!?」
突然の事にアランは驚く。
その場から離れ森の方を見ると、そこには剣を抜いたロマーニの姿があった。
「ロマーニさん!?」
「なっ!?ロマーニ…!!まだ生きてやがったのか!!」
「すまない、アラン君…君たちだけに背負わせてしまって。ここからは俺も一緒に戦う!」
「ロマーニさん…戦えたんですね!」
「あぁ、さっきは不意を突かれやられてしまったが…さっきのお返し、させてもらうぜ、ベガッジ!!」
「ちっ…まためんどくさい奴が来やがったな…」
「乱風斬(らんふうざん)!!」
ロマーニはそう言うと、風を纏った斬撃を連続で放つ。
放たれた斬撃はアランの後ろにいた傀儡人形達の体を真っ二つに切り裂いた。
「ちぃ…!!」
すると、倒れた傀儡人形達から透明な人魂のようなものが飛び出し、どこかへ向かって行く。
「なんだあれ!?」
「恐らくあれが町の人たちの"生気"だ…!体を失い、能力者…ディオゲインの元へ戻って行くのだろう」
「くそっ!一旦退避だ!!」
そう言うと、ベガッジは駆け足でその場を去って行く。
「待て!!」
アランが追いかけようとした時、ロマーニに手を握られ止められた。
「待つんだ!奴は"罠の名人"でもある…。無闇に追いかければ奴の罠にかかってしまうかもしれない」
「罠か…ずる賢い奴だな…」
「恐らく、さっきの生気の向かっていった方向にディオゲインがいるはず。そっちに行ってみよう!」
「はい!」
二人は生気の向かって行った方へ走り出した。
ーーーーーーーー
「ロマーニさん、さっきの"風斬"って紋章の能力なんですか?」
走りながら、アランはロマーニに質問する。
「いや、あれは俺自身の紋章の能力じゃないんだ。この"剣の力"さ」
「剣の力?」
「あぁ、この剣は"黒疾風(くろはやて)"。"剣自体"に紋章の力が宿っている"魔剣"なんだ」
「魔剣…?」
「そう。この剣には"風の紋章の能力"が宿ってる。だから風を纏った斬撃を放てるんだよ」
「へー…紋章って武器にまで宿るんですね…!」
「あぁ、そうらしい。…これは父親から受け継いだ物だから俺もどうやって宿すのか、とか誰が宿したのか、とかは知らないんだけどね。…さ、とりあえず今はディオゲインの事に集中しよう!」
「はい!」
二人は町の中を駆け抜けて行った。
ーーーーーーーー
「さぁ、生気を頂くぜ!」
ディオゲインの手が近づいてくる。
リサは生気を抜かれることを覚悟し、ギュッと目を瞑る。
その時だった。
「させないよ!!」
そうエルザの声が聞こえてくる。
次の瞬間。
「超爆破の印!!」
その声と同時に、凄まじい爆発が起こった。
爆発はディオゲインを包み込む。
「ぐあぁ!?」
あまりの爆発に、ディオゲインはリサを握る手を離す。
「外れた!!」
リサは着地し、ディオゲインから距離を取った。
「リサ!大丈夫!?」
エルザが心配そうに近づいてくる。
「ありがとう!大丈夫…っ!?エルザ、その手…!!」
エルザの手をよく見ると、左手のひらの皮は痛々しく剥け、黒く焼け焦げてしまっていた。
「へへ、普通の爆破の印だと平気なんだけど…超爆破の印だと手がこうなっちゃうんだよね…」
「笑ってる場合じゃないわよ!早く治療しないと…」
「平気だよ!それより、恐らく今のじゃ奴は倒せてない…。気をつけて!」
黒い煙が消えて行く。
すると、煙の中からディオゲインが現れた。
ディオゲインの着ていたコートは燃え尽き、上半身は裸になっていた。
「やってくれるじゃねぇか、ガキが…。ますますお前らの優秀な生気が欲しくなったぜ!」
そう声を上げると、ディオゲインは爆発で横に落ちていた巨大な斧を持ち、ゆっくりの二人の方へ近づいてくる。
(さっきの超爆破の印を受けてまだ動けるなんて…なんて硬いやつなんだ。超爆破の印は使えてもあと一発…。タイミングを計らないと!)
「さぁ、行くぜ!!」
ディオゲインは思い切り斧を地面に叩きつける。
すると、地面はひび割れまるで地震が起こっているかのように大きく揺れはじめた。
「うわぁ!?」
「なんて揺れなの…!!」
二人はあまりの揺れにその場にしゃがみ込む。
そんな中、ディオゲインはエルザの方へ向かって行く、
「お前の印術は少々厄介だからな…。先に生気を抜き取ってやるぜ…!」
ディオゲインの腕がエルザに向かって行く。
「誰が捕まるか!!もう一発、くらえ!!超爆破の印!!」
再び、エルザの手のひらから大きな爆発が起きる。
大きな爆発はディオゲインを包み込んだ。
「どうだ…っ!?」
黒い煙が辺りを覆い尽くす。
次の瞬間、その中から勢いよくディオゲインの腕が伸びて来た。
「うそっ!?」
ディオゲインはエルザの首をがっしりと掴む。
「エルザ!!」
「さぁ、捕まえたぜ!!お前の生気…頂きだ!!」
そう言うと、ディオゲインはエルザの胸元に手を当てる。そして何かをがっしりと掴み、勢いよく引き抜いた。エルザの体から透明な人魂のようなものが抜かれていく。
「エルザぁぁ!!」
「ハッハッハッハ!若い生気ゲットだ!!こりゃ逸材だぜ!!」
生気を抜かれたエルザをディオゲインは投げ捨てる。投げられたエルザは民家の壁にぶつかり倒れ込んだ。
「エルザ!!」
リサは急いでエルザの元へ駆け寄っていく。
「エルザ!エルザ!!」
エルザは目を閉じたままピクリとも動かない。
「さぁ、この生気を使えば"秘密兵器"も動くはずだ…!どうやら傀儡から抜けて帰ってきた生気もあるみたいだしな…」
遠くから向かってくる生気を見て、ディオゲインはそう呟いた。
「さぁ始めようか、"秘密兵器"の実験を!!」
ディオゲインは高笑いし、リサの方を睨みつけた。
続く。
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