第20話 ベガッジの過去

「グォォ!!」


黒耀騎士ブラックナイトは大剣を振り上げ、ロマーニとリサに向け思い切り振り下ろした。


「避けるんだ!」


ロマーニの声と同時に二人はそれぞれ横に回避する。

大剣はとてつもない勢いで地面にぶつかり、辺りに衝撃が走る。


「なんて威力だ…!あんなのくらったらひとたまりもない…!リサちゃん、奴の攻撃は一発一発が重すぎる!避けることに集中しながら隙を見つけよう!」


「はい!!」


黒耀騎士ブラックナイトは地面に突き刺さった剣を抜くと改めて剣を振り上げる。

そして、先程のように大剣を思い切り振り切った。


「くっ…!」


二人はまた大剣を避ける。

その時、ロマーニは剣を構え斬撃を放った。


「風斬!!」


風を纏った斬撃は、黒耀騎士の体にぶつかる。しかし、ガキン!と金属音を上げ、斬撃は打ち消されてしまった。


「なっ…!ロマーニさんの斬撃が弾かれちゃった!?」


「さすがに普通の斬撃じゃ効かないか…。なら!」


さらにロマーニは剣を振り斬撃を放つ。


「神風斬(しんふうざん)!!」


ロマーニの剣から放たれた斬撃はまるで竜巻のように風を巻き、周りの植物や石を巻き込みながら黒耀騎士の方に向かっていく。

ロマーニの放った神風斬はもう一度、黒耀騎士の体にぶつかる。すると、先程は傷一つつかなかった黒耀騎士ブラックナイトの左胸に小さくはあるが傷がついていた。


「傷がついた…!」


「よし、あそこが目標だ!二人で隙を見ながらあそこを集中して攻撃しよう!」


「はい、任せてください!」


「グォォ…グォォォ!!」


黒耀騎士は剣を抜くと、そのまま大剣を投げ捨てる。投げ捨てられた大剣は木々を薙ぎ倒しながら森の中で倒れた。


「剣を捨てた…一体何をする気なの?」


「分からない…けど、警戒だけはしておこう」


「ゲッヘッヘ!奴の本気はここからさ!」


木造民家の屋根の上に立つベガッジは余裕そうな表情でそう声を上げる。


「本気だと?」


「グォォ!!」


黒耀騎士は声を上げると、地面に手を突き刺す。そして、そのまま思い切り上に引き上げた。

引き上げられた黒耀騎士の手には、黒耀騎士の体よりも大きいであろう巨大な岩が握られていた。黒耀騎士の足元には、巨大なクレーターのような穴がぽっかりと開く。


「なんだ!?あの巨大な岩は…!!」


「あんなでかい岩持てるなんて…!もうめちゃくちゃじゃない!」


「ゲッヘッヘ!さぁ、黒耀騎士よ!この町ごと破壊してしまえ!!」


そのベガッジの声を聞くと、黒耀騎士は巨大な岩を真上に投げる。


「何をする気だ!?」


そして、岩が黒耀騎士の前に来た瞬間、黒耀騎士は思い切り岩を殴りつけた。


「なっ!?」


「岩を!?」


岩は粉々に砕け散りながらロマーニとリサの方へ飛んでいく。


「まずい!隠れ…!!」


ロマーニがそう言おうとした時、ロマーニの体に大きな石が直撃した。


「ぐはぁっ…」


ロマーニはそのまま後ろに吹き飛び、倒れ込んだ。


「ロマーニさん!っ!?」


リサの方にも岩が飛んでくる。

リサは咄嗟に腕をクロスさせガードするが、腕にとてつもない痛みが走る。


「いっ!!」


そして、リサもそのまま後ろに吹き飛ばされた。


「いっ…ロマーニさん…!」


ロマーニは倒れ込んだまま顔を上げない。


「ゲッヘッヘッヘ!町が壊れていく様は見ていて気持ちいいぜ…!」


ベガッジのその言葉を聞き、リサは後ろに振り返る。

すると、飛ばされた岩達は民家や町の建造物を破壊し村 町はボロボロに崩壊してしまっていた。


「ミネラバの…町が…!!」


よく見ると、人々は生気を失いながらも恐怖に怯えていた。

リサはギュッと地面を握る。


「あんたら…本当にドクズね…!!あんたらのしょうもない欲望の為にどれだけの人を苦しめれば気が済むのよ!!」


リサは怒りの顔を浮かべ、ベガッジに叫ぶ。


「ゲッヘッヘ!いいか?この世界じゃ弱い奴は強い奴の奴隷になるのが当たり前…。奴隷が嫌なら自分が強くなるしかねぇんだよ!!…俺もそうやってここまで上り詰めたんだからな」


「…?」


「冥土の土産に教えてやろう、俺がどうやって上り詰めたかをな!!」


(どうでもいいわよ…)


リサの心境を無視し、ベガッジは淡々と過去の話を始めた。


ーーーーーーーー


「あれは約二十年前…。俺がまだ十四だった時だ…」


巨大な川の真横に立つ港町、"ブラウンハーバー"にベガッジはいた。ブラウンハーバーは表向きでは酒場が多く、賑わっている楽しげな町と言う雰囲気だが、裏では貧富の差が激しく、東側には大金持ちだけが住める"特別住宅地"と呼ばれる地区が存在していた。


「俺は赤子の頃に親に捨てられ、ずっと金持ちの奴隷として生きてきた。十四年間もな!!さまざまな仕打ちを受けた…。拷問もされたし、無理な仕事も押し付けられた。十四年間耐え続けたが、我慢の限界が来た。そして俺は主人だった奴らを殺してやったのさ。なるべく苦しむようにな…ゲッヘッヘ!!」


ーーーーーーーー


少年、ベガッジは奴隷として"アスワルド"という名門の家で働いていた。


「おせぇぞ!さっさと運べ!!」


派手な装飾の廊下。

執事長の男は皿を運ぶベガッジの背中を思い切り蹴りつける。


「ぐあっ!?」


ベガッジは倒れ込み、皿は大きな音を立て割れてしまった。


「なんの音ですの!?」


そう言い慌ててやってきたのは主人アスワルドの妻、ゲスリーナだった。


「…またあなたなの?ベガッジ」


ゲスリーナは怒りの顔を浮かべ、倒れるベガッジを見下ろす。


「いや、これは執事長が…!」


「人のせいにするな!」


執事長はゲスリーナの後ろでニヤリと笑いそう声を上げる。


「あなたにはまた躾が必要みたいですわね…!」


そう言うと、ゲスリーナはベガッジの頭を掴み廊下を引きずっていく。


「や、やめて!!俺は悪くない…!!」


「まだそんなこと言ってますの!?奴隷のくせに口答えするんじゃないわよ!!」


ーーーーーーーー


ベガッジが連れてこられたのは、地下にある拷問部屋だった。ベガッジは過去に何度もここで酷い拷問を受けていた。


「さぁ、今日はどれでしつけてあげようかしら…」


ゲスリーナはベガッジを拷問室に投げ入れ、さまざまな拷問器具の置かれている棚の前に立つ。


(クソ…このまま…このまま拷問され続ける人生でいいのか、俺…!俺は…俺はこんなクズどもの下で働き続ける人生なんて絶対嫌だ!!)


ベガッジは立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。

前回の拷問の時にしまい忘れたであろうナイフが床に落ちている。ベガッジはそのナイフを拾い、拷問器具を選ぶゲスリーナの背後に立つ。

そして、勢いよくゲスリーナに飛びついた。


「な、何!?何するのよ!?」


ベガッジは力任せにゲスリーナを地面に倒し、ゲスリーナの首元にナイフを当てた。


「…声を上げたら殺す。対抗しても殺す。いいか、お前の命は今俺の手の中にある。さぁ、今までのお返し、たっぷりさせて貰うぜ…!!」


ベガッジはニヤリと悪魔のような顔を浮かべる。

あまりの不気味さに、ゲスリーナは恐怖の顔を浮かべる。


「さぁ、拷問開始だ」


ーーーーーーーー


拷問用の椅子に固定されたゲスリーナ。

手の爪は全て剥がされ、身体中には無数の傷がついていた。


「まだまだこんなもんじゃないぜ…俺が味わってきた苦痛はよ!!」


ベガッジは部屋に置いてあった電気を纏う特殊な鉄である、"雷鉄(らいてつ)"製の棒をゲスリーナの体に当てる。

すると、ゲスリーナの体に電気が流れ始めた。


「いぎゃぁぁぁあ!!?」


ゲスリーナは大きな叫び声をあげる。

あまりの電圧に、ゲスリーナの体からは煙が出始めた。


「死ぬ…死ぬっ!!やめて!!」


「ゲッヘッヘッ…!!いいぜ、このまま死んじまえ!!」


「ギャァァア!!!」


ベガッジは電流を止める。

すると、ゲスリーナはビクビクと跳ねた後ピクリとも動かなくなった。


「ゲッヘッヘ…これで仮は返したな…。あとは、ここから逃げ出すだけだ…!」


そう言うと、ベガッジはナイフをポケットにしまい地下の外に出た。


ーーーーーーーー


「死ね…」


ベガッジはコソコソと隠れながら、執事や護衛の兵士を殺害していた。

そして、タイミングを見計らい執事長の部屋へ入る。


「なっ!?お前は…!!お前だったのか、夫人を殺し、執事たちをも殺しまわっている奴は…!!」


「ゲッヘッヘ、そうだ。お前も、大好きな夫人の元に送ってやる!!」


ーーーーーーーー


ベガッジは執事長の体からナイフを抜き取る。


「あっけないな…最初からこうすればよかった…」


ベガッジは執事長室の部屋の窓を開ける。

執事長の部屋は三階。

少しの恐怖はあったが、ベガッジは下の茂みに飛び降りた。


ーーーーーーーー


「あのガキは見つかったか?」


「いやがらねぇ…クソッ!夫人も執事長も殺された…。見つけたらぜってぇ殺してやるぜ…!!」


町中を、執事や兵士たちが歩き回っている。

ベガッジは隠れながら、特別住宅地を抜け出した。


ーーーーーーーー


「それからは盗みをしながら生きてきた…何回も捕まりそうになったがそれでも逃げ続けてきた。だがそんな生活にも飽き、俺はブラウンハーバーを出て小さな村、"ケラハ村"に移り住んだのさ。そこで出会った"ゲイジツ"という爺さんに傀儡作りを教わり、傀儡職人として真っ当に生きてきた…。ディオゲイン様に会うまではな」


ベガッジは淡々とそう話し続ける。


(いや…話長っ!!)


あまりに淡々と話すベガッジに、リサは心の中でそう思っていた。


続く。

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