第8話 勇者団二番隊

「ドォォン!」


辺りに、大きな音が響き渡った。


「…あれ?」


すぐそこまで拳が迫っていたはず、そう不思議に思い、アランはゆっくりと目を開く。


「!?」


すると、タイタンの拳はアラン達のすぐ目の前でピタリと動きを止めていた。


「な、なんだ!?なんで止まったんだ…?」


アランは重い体をゆっくり起こし、リサと青髪の少女の体を揺する。


「起きろ!二人とも!」


「んん…」


「いてて…」


二人は服をさすりながらゆっくりと起き上がった。


「きゃあ!?」


「うわぁ!?」


二人はアランと同じように、目の前で止まる拳を見て驚きの声を上げた。


「な、何これ!?どういう状況なの!?」


リサは戸惑いながらアランに問いかける。


「お、落ち着けって。俺も分からないんだ…ん?」


そんなことを話している時だった。

遠くから、人の声が聞こえてくるのが分かった。


「人の声だ…行ってみよう」


「そうね…とりあえずここから出ましょう」


「うん、それ賛成」


三人は狭い民家の壁と拳の隙間から這い出した。


ーーーーーーーー


「くそっ、良くもタイタンを…!!」


そう声を荒げているのはベントスだった。


「タイタン…?」


その言葉を聞き、アラン達は後ろへ振り返る。

すると、タイタンの頭部から煙が上がっているのが目に入った。よく見ると、頭部は粉々に砕け散っているようだった。


「見て!タイタンの頭が…」


「…粉々になってるね」


「凄いな、一体誰が…」


アランはベントスの方へ視線を戻す。

すると、ベントスのいる屋根の上に十人ほどの人影が集まっていた。


「誰だ?あれ…あっ!!」


アランが大きな声を上げる。


「うるさいわね…どうしたのよ」


「お、おい!あれ…」


アランは震えながら指を刺す。

その指の先には、白地に"勇"と書かれたマントを羽織った人々が立っている。人々の前には、大きな大砲が3つほどこちらに向いていた。


「何…あれ」


「あれは…あれは…勇者団だ!!」


「え…え!?勇者団!?」


アランとリサは目を輝かせ、白いマントの人々を見つめる。

すると、先頭に立っていた金髪のミディアムヘアーの男がベントスの方へ歩み寄っていく。


「こ、来ないでください!それ以上近づけば撃ちますよ!」


ベントスは懐から木製の銃を取り出し、金髪の男に向ける。


「まぁまぁ落ち着いて、今大人しく投降すれば痛い思いしなくて済むって。ね?その方が君のためでしょ?」


「うるさい!どちらにせよ、捕まったとなれば私は"ダンテ様"に…」


そう言った時、ベントスはハッと慌てて口を塞いだ。


「ダンテ?あの暗黒騎士団の?…てことは、君はダンテの手下ってことか…。ふーん、面白い話を聞けそうだね」


金髪の男はニヤリと怪しい笑顔を浮かべ、どんどんとベントスの方へ近づいていく。


「来ないでください…!本当に撃ちますよ!」


ベントスは手を震わせながら引き金に指をかける。


「撃てるもんなら撃ってみなよ。ま、撃たない方がいいと思うけどねぇ」


「く、くそっ…!私を舐めたこと、後悔するといいですよ!!」


そう言うと、ベントスは引き金を引く。

乾いた発砲音とともに、銃弾は金髪の男の方へ飛んでいく。


「ほ、本当に撃ったぞ!?」


「や、やばいんじゃないの!?」


アラン達はその場であたふたと慌て始める。

しかし、金髪の男はニヤリと笑顔を浮かべたままだった。

銃弾が金髪の男の目の前まで近づいてくる。

その時だった。

金髪の男はフッとその場から姿を消したのだった。


「消えた…!?」


あまりの速さに、アラン達は金髪の男の姿を見失っていた。


「あ、見てよ!ベントスの後ろ!」


青髪の少女が指を刺す。

そう言われ、アラン達はベントスの方へ目をやる。

すると、先ほどまでベントスの前にいたはずの金髪の男が何故かベントスの真後ろに立っていた。


「な!?い、いつのまに…」


「ふん、まだまだ遅いなぁ。俺からしたら…ね」


そう言うと、金髪の男はベントスの首を思い切り殴りつけた。


「ぐぁっ!?」


ベントスはバタリとその場に倒れ込んだ。


「ふぅ、全く…。こんな夜に面倒ごと起こさないでくれよな…。ま、暗黒騎士団について色々聞けそうだしいっか」


金髪の男は倒れるベントスを抱え、後ろに立っている人々の方へ歩いていく。


「この人よろしく。俺、ちょっとあの子たちから話聞いてくるから」


「はい、分かりました」


そう言うと、金髪の男はアラン達の方へ顔を向ける。


「な、なんだ?こっち見てるぞ?」


「な、何かしら…」


金髪の男はアラン達の方へニコッと笑顔を浮かべると、屋根から飛び降りゆっくりと歩いてくる。


「ちょ、普通に飛び降りてきたぞ…」


「す、凄いわね…あれが勇者団…」


「へー、カッコイイね」


金髪の男はアラン達の前まで来ると、立ち止まり懐を探る。


「えー、俺勇者団のレオン。一応、"二番隊隊長"やってます。よろしくね」


そう言いレオンが懐から取り出したのは、勇者団の証明書だった。

そこには、勇者団の印と紛れもなく"二番隊隊長"の文字が刻まれていた。


「え…?えぇ!?二番隊隊長!?まさか…本物のレオンさん!?」


アランは急に声を荒げ、レオンに問いかける。


「ど、どーしたの、そんな興奮して…。俺は正真正銘、二番隊隊長レオンだよ」


レオンは苦笑いを浮かべそう答える。


「す、すげぇ…本物…本物のレオンさんだ…。本物のレオンさんが目の前に…!」


アランはあまりの嬉しさに、その場に棒立ちのままレオンの方を見つめている。


「す、すみません!か、彼…アランって言うんですけど、勇者団に憧れてて、入団するために旅してて…。その、すみません!」


リサはアランの頭を掴み、一緒に頭を下げる。

すると、レオンは笑い声を上げた。


「はっはっは、面白いね君たち。勇者団の入団希望者か!それは嬉しいね。今、なかなか人集まらないからさ。君たちのような直向きな子たちは大歓迎だ!」


「ほ、本当ですか!?」


「あぁ、もちろん!…そうだ、君たちに少し話を聞きたいからさ、少し時間もらえるかな?そっちに行きつけのバーがあるんだよ」


レオンは薄暗い路地を指し、そう言う。


「バー、ですか?」


「うん、まぁ別にお酒飲むわけじゃないから。知る人ぞ知るって感じのバーで人が少ないから話聞くにはちょうどいいんだよ。それじゃいこうか」


レオンに案内され、アラン達は路地裏のバーへと向かった。


ーーーーーーーー


「ここだよ」


薄暗い路地裏。

そこに、一軒だけお店が建っていた。

古びた看板には"バーシリウス"という文字が掠れて書かれていた。


「…あの、ここやってるの?」


青髪の少女は少し引き気味にレオンに聞く。


「あぁ、見た目はこんなだけどちゃんとやってるよ。内装は綺麗だしね。さ、入ろうか」


四人は"バーシリウス"の中に入った。


ーーーーーーーー


「いらっしゃい…あら?今日は珍しく大勢ね」


バーのカウンターの向こうから声をかけてきたのは、赤い髪の少し老けた女性だった。


「いやー、ちょっとこの子たちと大事な話がね…。ちょっと席借りるよ、デミスさん」


「えぇ、分かったわ。そっちの席使って」


そう言い、デミスは店の一番奥のテーブル席を指差す。


「いつも悪いね。よし、それじゃあ奥の席まで行こうか」


アラン達はレオンに先導され。店の一番奥の少し薄暗い席に腰掛けた。


「さぁ、早速だけど話を聞かせてもらうよ。まずは…どうして君たちはあの男と揉めてたのかな?」


レオンは懐からメモ帳とペンを取り出し、テーブルに肘を置く。


「えーっと…最初はこの青髪の子…あ、そう言えば君名前聞いてなかったな。名前、なんて言うんだ?」


アランはドタバタの中で名前を聞いていなかった事を思い出し、青髪の少女に問いかける。

すると青髪の少女は、少し面倒臭そうに口を開いた。


「…私はエルザ。よろしくね」


「エルザか、よろしくな。…それで、このエルザがベントス達と揉めてるのを見つけて、助けに入ったんです。それで…」


青髪の少女はてっきりスリをしたことを言われると思い下を向いていたが、そのことを言わずに話しを続けるアランに驚き顔を上げる。

すると、アランはエルザの方へ顔を向け何か言いたげな表情を浮かべるとすぐに顔を戻す。


(なるほど…言わないかわりにちゃんとお金を返せってことね…はいはい)


エルザはアランの表情から言葉を読み取り、むすっとしながら顔を背けた。


「なるほど…君たちは揉め事を止めに入ったんだね?ふむふむ…。それじゃあ君…エルザちゃんに聞くけど、どうしてベントス達と揉めていたんだい?」


レオンがそう聞くと、エルザは少し答えづらそうに俯く。


「…どうしたの?何か答えられないことでも?」


「…私、よくこの辺でイタズラとかしててさ。それで、逃げてたらベントスに出会って…。ここら辺がたまたま暗黒騎士団って奴らの土地だったんだよ。それで、土地で騒ぎを起こす奴は消してやるって言われて捕まったんだ」


「なるほど…。確かにここは暗黒騎士団の連中がよく出入りしてる場所だからね。そこで騒ぎを起こせば奴らが黙ってる訳ないよな…」


レオンはメモ帳に何かを書き込みながら、そう呟いた。


「うん、とりあえずベントス達と揉めた理由は分かった。それで、エルザちゃん」


レオンはメモ帳とペンを懐にしまうと、俯くエルザの方へ顔を向ける。


「奴ら暗黒騎士団はここら一体を根城にしてる犯罪集団だ。ベントスはまだ下っ端だから大丈夫だったけど…もし相手が幹部だったらおそらく君たちは殺されてた。いいかい?今後は暗黒騎士団のいる場所で問題は起こさないように。君も君なりの理由があってやってたのかも知れないけど…。奴らは危険だ。僕らでも迂闊に手を出せないほどね。だからいいかい?今後は問題を起こさないと約束してくれ。今回はある意味君たちのおかげでベントスを捕まえられたわけだから特に咎めたりはしないけどね」


レオンは、先ほどまでのニコニコとした表情とは違う真面目な表情でそう言った。


「…わ、分かったよ」


エルザは顔をゆっくり上げ小さな声でそう呟いた。


「よし、分かってくれればオーケー!とりあえず聞き込みはこれでおしまい!それで、ここからは今の件とは関係ない話なんだけど…聞いてくれるかい?」


「関係ない話…?」


「ま、さっきの事件には関係ないけど君たちにはとても深く関係のある重要な話さ。…どう?気になるでしょ?」


「は、はい!気になります!!」


レオンの問いに、アランは目を輝かせてテーブルに体を乗り出す。


「よし、それじゃあ話そう。君たちの"手の甲にある紋章"…。君たちはそれが何かちゃんと知ってるかい?」


突然の問いに、アランとリサは手の甲の紋章を見つめる。


「紋章か…」


エルザは横から二人の手の甲を覗き込む。


「昔の戦争の時神様から頂いた力だって聞いてるけど…たしかに詳しいことは分からないわね…」


「そーだな…気にしたことあんまりなかったよ」


「そうか、それならちょうどよかった。なら教えてあげよう、紋章についてね。まず紋章の起源だけど…それは君たちが知っている通り"200年以上前に起こった戦争"らしい。僕も実際に生きてたわけじゃないから分からないけど、そういう言い伝えが各地に残ってる」


「"200年前の戦争"か…」


そうつぶやき、アランは手の紋章を見つめる。


「そう。まぁ、そこはいくらでも改ざんはできるし真疑は分からないけどね。次に紋章の種類!紋章には主に"6つの種類"があってね、"赤い火の紋章"、"青い水の紋章"、"緑の草の紋章"、"黄色の光の紋章"、"黒い闇の紋章"、そして、"白い特異の紋章"。それぞれ属性に分かれているんだけど、白い紋章だけは変わってて五つの属性のくくりに入らない能力は全てこの特異の紋章に含まれてるんだ。あ、ちなみに僕はアラン君、君と同じ"光の紋章"だよ」


ニコリと笑い、レオンはアランの方へ手の甲を向ける。

確かに、レオンの手の甲にはアランと同じ黄色い紋章が刻まれていた。


「そうだったんですか!ちなみにどんな能力なんですか?」


「言葉にすると難しいんだけど…一言でいうなら"光速で動ける"ってところかな」


「光速で…!?」


「そ、そんなの最強じゃない…!」


「そんな能力もあるんだ…」


三人は驚いた表情を浮かべ、レオンの手の甲を見つめる。


「まぁ、字面だけ聞いたらそうかもしれないけど特にほかの"プラス要素"はないから結局はぼく自身が強くないとしっかり扱えないんだよね…。おそらく強い能力っていうのは単純に"火を出せる"、とか、"パンチ力"が上がるとか、"シンプルな能力"だと思うよ。ま、紋章を持って生まれただけラッキーってことだね…」


「そうなんですね…」


「十分強い能力だと思うけど…扱いが大変なのね」


「そういうこと。さ、話を戻すよ。さっきは属性に分かれるって話をしたけど、さらにその属性の中でも"武器紋章"と"体(たい)紋章"っていう大まかな種類があるんだ」


「武器紋章…?」


「体(たい)紋章…?」


「そう、ま、これは名前の通りその"紋章持ちが持った武器に能力を宿す紋章"か、その"紋章持ちの体自体に能力を宿す紋章"かってことだね」


「へー、ってことはリサの能力は"武器紋章"ってことだな!」


「そうみたいね…素手の時には特に何も起こらないし…」


「ねぇねぇ、リサってどういう能力なの?」


エルザが興味津々といった顔で聞いてくる。


「私のは"持った武器が炎属性になる"って能力だと思うけど…」


「うんうん、それは"武器紋章"だね。しかもシンプルで扱いやすい能力だ!」


「確かに扱いやすさはあるかもしれないですね…」


「そんで、アランはどういう能力なのさ」


続けて、エルザはアランに問いかける。


「うーん、俺のはいまいちわかんなくってさ…なんか、"感情が高ぶったときに手の紋章が光って体がすっげー軽くなる"っていうか…」


「…」


それを聞いた時、レオンは少し驚いた顔を浮かべ、ニヤリと笑みを浮かべた。


「そうか、君が…」


「?どうしたんですか、レオンさん」


「あ、いや、なんでもないよ。おそらく君のも"自己強化系"だろうね。体紋章の」


「そうなんですか…まだあんまり理解しきれてないけど…」


「まぁ、最初はみんなそんなもんだね。徐々に理解していけばいいんだよ。…さ、他に聞きたいことはあるかな?」


「はい!」


勢いよく手を上げたのはリサだった。


「はい、リサちゃん!」


「あの、起源は200年前って言ってたと思うんですけど、紋章って自分の子孫に受け継がれていくんですか?」


「ほぉ、いい質問だね!答えはイエス!基本的には"親の持つ紋章をそのまま子供が引き継ぐ"。たまに"突発的に紋章が現れる"時もあるみたいだけどね」


「それじゃあ、紋章持ち同士の子供はどうなるの?」


リサに続けてエルザがそう問う。


「その場合は、基本的には"どちらかの能力をランダム"に子供が引き継ぐ。これも稀に、"能力が合わさった紋章を持つ子供"が生まれることもあるみたい。…っと紋章の話はここまでにしようか!」


「え!?まだ聞きたいことあるのに…」


「横、見てごらん」


レオンにそう言われ、リサとエルザは横を向く。すると、そこには頭から湯気を出すアランの姿があった。


「ア、アラン!?」


「プシュー…」


「ちょっと難しい話をしすぎたね。さ、もう夜の9時だ!僕も仕事があるから早く帰らないといけないし…そろそろ解散!」


そう促され、四人はバーシリウスを後にした。


ーーーーーーーー


「それじゃ、僕は帰るから。また会ったらよろしくね、勇者候補の諸君!」


そう言うと、レオンは手を振り夜の道を歩いて行った。


「はぁ、勇者団の二番隊隊長に会えるなんて…夢のような時間だったぜ…」


「紋章についても聞けたしね。…それじゃ」


そう言うと、リサはエルザの前へ手を差し出す。


「…忘れてなかったのね」


「当たり前でしょう!?さ、さっきの女性から奪ったお金と私たちのお金、返してもらうわよ」


「…」


エルザは俯き少し考えた後、二つの財布を取り出した。


「分かったよ…でも、一つお願いがある!」


「お願い?」


レオンを見送ったアランは振り返りそう聞き返す。


「…私をあんたたちの仲間にいれて!」


「え?な、仲間!?」


「突然どうしたのよ…」


「…私はずっと、ここで盗みをして生きてきた。貧乏でお金がなくて、頼れる仲間もいなかったからね。でも、あんた達を見てて思った。一緒に行きたいって。ねぇ、いいでしょ!?」


アランとリサは顔を見合わせ、少しの間考えた。

そして、二人同時にこくりとうなずいた。


「いいぜ、その代わりもう盗みはするなよ」


「ほんとよ、またさっきみたいにトラブルに巻き込まれるかもしれないしね…」


「ほんと!?やったぁ!じゃあはいこれ!」


嬉しそうな笑顔を浮かべ、エルザはリサに財布を渡す。


「あぁ、やっと帰ってきたぜ、俺の財布…」


「さ、これで依頼完了ね!早速マーラさんのところに行きましょう!」


「あぁ、お金返して、ついでに泊めてもらおうぜ!」


(この二人ならやってくれるかもしれない…ダンテを倒してくれるかもしれない…!)


エルザはニヤッと不敵な笑みを浮かべた。


続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る