第7話 青髪の少女

「くそ…どこいったんだ?」


アランはレンガの建物に囲まれ、薄暗い路地をよく目を凝らしてスリの犯人を探し回っていた。

大通りはたくさんの人で賑わっていたが、まるで別の世界なのではと思うほど路地裏は物静かだった。

あたりを探していた時、建物の壁に梯子がかかっているのが見えた。

どうやら屋根の点検の時に使う物のようだ。


「梯子か…屋根の上から探した方が見つかるかもな」


そう思い、アランは梯子を使い二階建ての建物の屋根に登る。


「はぁー、広い街だなぁ。あっ、あれが時計塔か…」


街の中央に堂々と聳える時計塔。

巨大な針は、午後七時ちょうどを指していた。


「もう七時か…早くスリを見つけなきゃな!」


気合いを入れ屋根の上を移動しようとしたとき、道を挟んだ正面の建物の屋根に黒いローブを来た人影が立っているのが見えた。


「あいつは…さっきの!!」


アランはとっさに走り出し、屋根をつたってローブの人影のもとへ向かう。

しかし、ローブの人影はその場から動く気配は無く、じっとアランの方を見つめていた。


(あいつ、何考えてんだ…?まぁいい、とっ捕まえてやるぜ!)


アランはローブの人物のいる屋根に飛び移る。

そして、ローブの人物の正面に立った。


「おい!さっき盗んだお金を返せ!おとなしく返せば勇者団には連れて行かないでおいてやるぞ?」


「…」


アランの問いかけを無視し、ローブの人間はだまったまま立ち尽くしている。


「…そうか。なら仕方ない。力づくで捕まえるまでだ!!」


アランは剣を抜き、ローブの人間の方へ駆け出す。

しかし、ローブの人間は焦る様子を見せずただアランの方を見ているだけだった。


「みねうちで許してやるよ!!」


アランは剣を横に向け振り上げる。


「…そんな簡単に捕まるかっての」


ついにローブの人間が動き始める。

ローブの人間は剣を振り上げるアランに向け、手のひらを向けた。


「"爆破の印"」


ローブの人間がそうつぶやくと、手のひらに"白い星が描かれた紋章"が浮かび上がる。

次の瞬間、手のひらから火花が散り大きな爆発が起こった。


「ぐぁぁ!?」


アランは避けきれず、そのまま爆発に巻き込まれてしまった。


「…ちょっとやりすぎたかな?ま、いっか」


ローブの人間はそうつぶやき、屋根をつたい時計塔の方向へと向かっていった。


ーーーーーーーー


「何の音!?」


大きな爆発音を聞き、リサは戸惑いながらもその音の聞こえた方へ駆け出した。


(まさか…アラン、無事でいてよね…!)


薄暗い路地を進んでいくと、屋根から煙の立っている建物が目に入った。


「あそこね!えーっと、登れる場所は…あっ!」


リサは建物に取り付けられていた点検用の梯子を使い、屋根に登った。

煙の立っていた場所へ向かい、目を凝らすとそこには倒れこむアランの姿があった。


「アラン!!」


リサは慌ててアランのもとへ駆け寄り、うつぶせに倒れていたアランを仰向けにし口元に手を当てる。


「…とりあえず生きてはいるみたいね」


「あぁ、生きてるぜ」


そういうと、アランは勢いよく起き上がった。


「アラン!よかった、大丈夫だったのね。…いったい何があったの?」


「今さっきのローブの奴を見つけたんだ。それで、捕まえようとしたんだけど…どうやらあいつ印術を使えるみたいなんだ」


「印術を?」


「あぁ、"爆破の印"とか言ってたな…」


「爆破の印?」


「あぁ、手のひらを向けられたと思ったらいきなり爆発が起こっって…まあ威力は高くなかったから助かったけど」


「…一筋縄じゃ行かなそうね」


「あぁ、それにまた見失っちゃったし」


アランはゆっくりと立ち上がり、服の汚れを落とした。


「まぁこんなところでクヨクヨしてても始まらないよな。また手分けして探すか!」


「そうね、それじゃあ私はこっちを…」


二人がそれぞれ動き出そうとしていた時だった。


「ドォン!!」


遠くから爆発音が聞こえてきた。

聞こえてきた方角を見ると、どうやら時計塔のあたりで爆発が起こったようだった。


「爆発!?」


「時計塔のあたりからだな…行ってみよう!!」


二人は時計塔へと向かった。


ーーーーーーーー


「離しなさいよ!!」


どこからか女性の声が聞こえてくる。

時計塔の向かいの建物の屋根に移動し、二人は時計塔の前の広場を見下ろす。


「あれは…スリの犯人か!?」


「みたいね…どうやら捕まってるみたいだけど」


黒いローブの人物は、二人の大柄な男に腕を掴まれ身動きが取れないようだった。

拘束されているローブの人物に、茶色いロングコートを羽織り、あごひげをたくわえた細身の男が近づいていく。


「ふー、全く…"我々の管理する土地"で問題を起こすなと何度も注意したはずですよね」


「うるさい!誰があんたら"ダンテ"の下っ端のいうことなんて聞くか!」


そういうと、ローブの人物はべーと舌を出す。


「ふん、威勢のいいことでん…まあいい。処分を下す前にまずは顔を見せてもらいましょう」


細身の男が首を振る。

その瞬間、腕を抑えていた大柄の男の片方がローブの人物の被っていたフードを思い切りまくり上げた。


「!!」


「あれって…」


それを見ていたアランとリサは驚きの顔を見せる。

二人の視線の先にいたのは、青いショートヘアーの可愛らしい女の子だった。


「ほう、若い女だったとは…意外ですね」


「うるさい!離せ!!」


青髪の女の子は体をねじらせ、何とか抜け出そうとする。しかし、男二人の前では全く歯が立たないようだった。


「逃げ出そうとしても無駄ですよ。今からあなたには処罰を受けてもらわなければいけませんからね」


「何をする気よ!」


「簡単なことですよ。我々暗黒騎士団に逆らったらどうなるか…彼らに分からせるための見せしめになってもらうだけです」


細身の男が手を指す方を見ると、広場には青髪の女の子たちを取り囲むようにたくさんの人々が集まっていた。


「いつの間に…」


「なんだか大変なことになりそうね…どうする?アラン」


「…しょうがない、例え泥棒でも放っておくわけにはいかないからな。行こう、リサ」


「わかったわ、行きましょう!」


二人は顔を見合わせ、近くの梯子を降り始めた。


ーーーーーーーー


「さあ…そろそろ始めましょうか」


そういうと、細身の男は懐から木製の拳銃を取り出し青髪の少女に向けた。


「おい、本物じゃないか…?」


「勇者団に連絡は…」


あまりのことに、集まった人々がガヤガヤと騒ぎ始める。


「…」


その時だった。


「バン!」


と乾いた音が街に響き渡った。

放たれた弾丸はレンガの建物の壁を貫き穴をあけていた。


「うるさいですね…この女のようになりたくなければ黙って見ていなさい」


その言葉を聞き、人々は静かになりあたりに静寂が訪れる。


「さ、そろそろ死んでもらいましょうか…」


ベントスは火薬を詰め直すと、再び銃口を青髪の少女に向けた。


「くっ…」


青髪の少女必死には体を動かす。

しかし、男達の手から抜け出すことはできなかった。


「さ、死んでください。皆さんに我々の恐ろしさを分からせるためにね」


引き金に指がかけられる。

青髪の女の子はあきらめたのか動くのをやめ目を閉じる。


(こんなところで死ぬなんて…!お父さん…!)


その時だった。


「させるかよ!」


そう声を上げ走り込んできたのはアランだった。


「!!」


細身の男は突然のことに驚き、一瞬隙が出来た。

アランはその隙を見逃さず、背中から抜き取った剣で細身の男の持つ拳銃を弾き飛ばした。


「なに!?」


「だ、だれ!?」


「お、おい、あいつやばい奴に喧嘩売っちまったぞ…!」


突然のアランの行動に、周りの観衆がざわつき始める。


「ベントスさん!」


青髪の少女を抑えている男の一人が声を上げる。

その時、男たちの手の力が一瞬緩んだのが分かった。


「隙あり…!"魔蛇ナーガ"召喚!」


青髪の少女がそう言うと、両手のひらに白い星の描かれた紋章が現れた。


「!!」


男たちは紋章に気づき、再度力を入れようとする。

その時だった。

両手の白い紋章から、二匹の白い大きな蛇が飛び出した。

白い大蛇達はそれぞれ二人の男に巻きついていき、体に力を入れる。


「くそ!離れ…」


男がそう言おうとした時、バキバキ!と言う音が辺りに響き渡った。


「くはぁっ…」


その音と共に、男達はその場に倒れ込んだ。


「ふぅ、何とか助かった…ってかあいつ…!」


青髪の少女はアランの顔を見て嫌な顔を浮かべ、こっそりとその場から離れようとする。

しかし、逃げようとする青髪の少女の前にリサが立ちはだかった。


「逃さないわよ。お金を返してくれるまではね」


「…ちぇ」


青髪の少女は諦めたようにアランの方へ振り返った。


「あの二人の戦い見終わったらね」


「…分かったわよ」


そう言うと、リサもアランの方を見て座り込んだ。


ーーーーーーーー


銃を失った細身の男、ベントスは動揺しながらも腰につけていた剣を抜き取った。


「誰ですか?あなたは…私のショーを邪魔するとはいい度胸ですね…!」


「俺はアランだ!勇者を目指してんだ。お前みたいな悪党はほっとけるかよ!」


そう言うと、アランは剣を構える。


「悪党ですか…面白い。ですがあなたは一つ勘違いしている。本当の悪党は私ではなく、そっちの女のほうですよ」


そう言うと、ベントスは青髪の少女の方へ顔を向ける。


「この時計塔の周辺は我々"暗黒騎士団"の支配する土地…。その女は我々の土地で散々問題を起こしている。罰を下すことは当たり前のことです」


「暗黒騎士団…?」


「おやおや…我々"暗黒騎士団"をご存知ない?ふっふっふ…世間知らずもいたことだ。まぁいいでしょう。そうですねぇ。あの少女の代わりにまずあなたに罰を下しましょう…。私のショーを邪魔した罪でね…!」


ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ベントスはアランの方へ走り出した。


「なんだか分からないけど、戦うなら本気で行くぜ!」


アランもその場で剣を構えベントスを待ち構える。


「はぁ!!」


ベントスはアランに向け勢いよく剣を振る。

それに合わせ、アランも剣を振りベントスの攻撃を防いだ。


「どんどん行きますよ…!」


そのまま、ベントスはどんどんと剣を振り続ける。

ベントスとアランの剣は何度もぶつかり合った。


「ちっ…なかなかやるようですね…」


「あんたもな…」


そういうと、二人は一歩後ろに引き剣を構えなおす。


「…あの人、なかなか強いじゃん」


そんな二人を見つめ、青髪の少女はそうつぶやいた。


「そりゃそうよ。長い間私と特訓してきたんだから!」


その言葉を聞き、少し自慢するようにリサはそう言った。


「へぇー、そうなんだ…」


青髪の少女は先ほどまでとは違う真剣な表情を浮かべ、何かを考えているようだった。


(どうしたのかしら…ま、いっか)


リサはアランたちの方へ顔を向けた。


ーーーーーーーー


「このままでは時間がかかりそうですね…。仕方ない、私の"とっておき"をお見せしましょう…」


そう言うと、ベントスはその場にしゃがみ込み地面に手のひらをつけた。


「とっておき…?」


アランは警戒しながらも、ベントスの動きを見つめていた。


「ふっ…本当のショーはこれからですよ…!」


そうベントスが言った時、手のひらをつけた地面が白色の光を放ち始めた。


「な、なんだ!?」


あまりの眩しさに、アランは腕で光を防ぐ。

腕の隙間から目を凝らすと、地面に白色の円に竜ドラゴンの顔のようなものが描かれた紋章が浮かび上がっているのが見えた。


「紋章…印術か!?」


「あれは…まさか!!」


そう声を上げたのは、青髪の少女だった。


「な、何!?知ってるの!?」


リサは目を塞ぎながら青髪の少女に問いかける。


「あの紋章は…"召喚獣"の…!!」


そう、青髪の少女が答えた時だった。

地面の紋章から勢いよく何かが飛び出してくるのが分かった。


「グォォォォ!!!!」


飛び出してきたのは家ほどの大きさがある、大きな石が複数繋がり人型になった不気味な"怪物"だった。


「ななな、なんだ!?こいつは!?」


あまりの大きさに、アランは声を荒げ尻餅をつく。


「な、何よあれ!?あれが召喚獣なの!?」


「…あれは石の魔物"タイタン"。私の故郷もアイツに…!!」


青髪の少女はタイタンを見つめ、グッと力強く拳を握りしめた。


「きゃー!!化物よ!!」


「逃げろ!殺されるぞ!!」


周りに集まっていた人々は悲鳴をあげ一斉にその場から逃げ始める。あたりは混乱し、様々な人々の声が飛び交う。


「フフフ!さぁ、貴様らにコイツを倒せますかな?せいぜい楽しいショーにして下さいね!」


そう言うと、ベントスはジャンプをし後ろの建物の屋根に登った。


「くそ、こんなやつどうすれば…」


「グォォォォ!!!」


そんなことを考えていると石の巨人、タイタンが拳を振り上げる。


「や、やば!」


そして、アランに向け勢いよく拳を振り落とした。


「うわぁぁ!!!」


巨大な拳は大きな音と煙を立て、地面にぶつかった。

アランはなんとか拳を避け、タイタンの方へ振り返る。

すると、今度は反対の拳が近づいているのが見えた。


「くそ、避けられない…!」


そう思った時だった。


「ドォン!」


大きな爆発が目の前で起こる。

突然のことに、アランは顔を背ける。


「な、なんだ…?」


ゆっくりと顔を戻すと、アランの前に誰か立っていた。

よく見ると、それは青髪の少女だった。


「はぁ、はぁ、大丈夫?」


青髪の少女はアランの方へ振り返ると、ニコッと笑顔を見せた。


「あぁ、だけど一体何を…」


よく見ると、タイタンの拳は粉々に砕け散り大きな煙を上げている。


「爆破の印だよ、君にもやったやつ。まぁ、今回は本気でやったけどね」


「…すげー威力だ」


その時、アランは自分が受けた爆破の印が本気でなくてよかったと心の中で安堵した。


「グォォォォ…」


腕を破壊されたタイタンはよろめき、後ろに数歩下がる。


「タイタン、何をやってるんです!早くその者たちを潰してしまいなさい!」


ベントスは少し焦った表情でタイタンにそう指示をだす。

すると、タイタンは勢いよく地面に両腕を突き刺した。


「な、なんだ!?」


タイタンは突き刺した腕を引き抜く。

すると、先ほどまで粉々になっていた両腕が元通りに直っていたのだった。


「一瞬で元通りに…めんどくさいやつだね…」


「アラン!!」


そう声を上げ駆け寄ってきたのはリサだった。


「リサ!」


「私も戦うわ!」


そう言うと、リサは腰に掛けた剣を抜きタイタンの方へ向ける。


「なんとかしてやるしかないな…」


そう言い、アランも剣を構えた。


「グォォォォ!!!」


先ほどと同じく、タイタンは拳を上に振り上げる。


「来るよ!」


「あぁ、気を付けろ!!」


そして、タイタンは勢いよく拳を振り下ろした。


「!?」


「な、なにを!?」


タイタンが拳を振り下ろした先。

それは、アラン達の方ではなく真下の地面だった。

あまりの衝撃に地面は揺れ、亀裂が走る。

アラン達は衝撃に耐えられず、その場に倒れ込んでしまった。


「な、なんて威力だ…!」


「ま、まるで地震じゃない…!!」


「ま、まずいよ!」


青髪の少女が声を上げる。

その声に驚き青髪の少女の視線の先を見ると、巨大なタイタンの拳がどんどんと近づいてきていた。


「や、やばい…!」


「避けられない…!!」


拳はアラン達に直撃し、アラン達は民家の壁に衝突した。


「ぐぁ!!」


「うっ!」


「痛っ…!!」


アラン達は壁に叩きつけられ、その場に倒れ込んだ。


「フッフッフ!良くやりました、タイタンよ。さぁ、その者たちにとどめを!!」


ベントスのその声を聞き、タイタンは拳を大きく振り上げる。

そして、倒れるアランたちの方へ思い切り振り下ろした。

近づいてくる拳を前に、アランは目を閉じる。


(くそっ…ここまでなのか…!?)


「ドォォン!」


その瞬間、辺りに大きな音が響き渡った。


続く

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