第6話 新たな街、クロッカス
チュンチュン、と弱弱しい小鳥のさえずりが聞こえてくる。
アランは大きく伸びをし、カーテンを開け窓の外を覗く。
「ふー、いい天気だ。旅立ち日和だな・・・」
アランはカーテンを閉め、枕元に立てかけていた剣を背中に掛けた。
「よし、行くか!」
自らのほほを叩き、気合を入れてアランは一階へと降りた。
ーーーーーーーー
「あ、アランさん。起きたんですね!よく寝られました?」
一階へ降りると、ユリーナがさわやかな笑顔でアランを迎えてくれた。
「うん、よく寝られたよ。・・・リサはまだ来てないの?」
「はい、アランさんの方が先でしたね。あ、コーヒー淹れたんですけど飲みます?」
「え?」
アランは一瞬料理が不味いならコーヒーも・・・と考えたが、結局飲むことにした。
「あぁ、もらうよ。ありがとね!」
「いえいえ。さぁ、どうぞ!」
どんなコーヒーが出てくるのかとドキドキしていたが、アランの前に置かれたのは何の変哲もないごく普通のコーヒーだった。
「いただきます」
アランはゆっくりとコーヒーを口に運ぶ。
「・・・おいしいね!」
「ほんとですか?よかったぁ、料理みたいに美味しくなかったらどうしようかと・・・」
「いやいや、めちゃくちゃ美味しいよ!お店開けるレベルだよ、これ!」
「それは無理ですよ!」
「そうかなぁ、結構好きだけどなぁ。この味」
「そうですか?なんか照れちゃいますね」
そんなたわいもない会話をしていると、リサが大きなあくびをしながら降りてきた。
「はぁ~ふ・・・おはよ~」
「あ、リサさん!おはようございます。」
「お、やっと来たか。・・・それじゃあリサも来たことだしそろそろ行くか」
そういうと、アランは立ち上がり荷物をまとめ始めた。
「あ、もう行っちゃうんですね・・・」
「あぁ、あんまりいても迷惑かけちゃうしさ。な、リサ」
「そうね。こんなにお世話になったのにこれ以上いるのは申し訳ないわ」
「・・・別に迷惑じゃないですよ」
ユリーナが小さな声で呟く。
「ん?ユリーナ、なんか言ったか?」
アランが不思議そうにユリーナに聞く。
「い、いえ!何も。さぁ、私も村の出口までお見送りしますよ!準備ができたら行きましょう!」
「そっか!よし、新たな旅の準備だ!」
アランとリサは身支度を整え始めた。
ーーーーーーーー
「よし、準備完了!」
「目指すはクロッカスね!」
「はい!それじゃあ村の出口に行きましょう!」
三人は家を出て、村の出口へと向かった。
ーーーーーーーー
「お、来た来た!」
村の出口に着いた時、村の門のあたりに人だかりができているのが見えた。
「あれって・・・」
「村の人たち・・・よね?」
「・・・みんな見送りに来てくれたんですよ!なんてったって村を救ってくれた英雄たちの旅立ちですからね!」
三人が門に近づいていくと、門の前にいた村人たちがどんどんと三人のもとへやってきた。
「村を出るんだって?ありがとな。あんたたちのおかげで本当に助かった。お返しらしいお返しはできないけど、村のみんなであんたらの門出を見送るぜ!がんばってな!」
そういい、手を差し出したのは村の若い男だった。
「ありがとう!これからはユリーナと協力してこの村を守ってくれよな!」
「あぁ!」
アランは差し出された手を強く握り、笑顔でそう言った。
「アランさん、リサさん。また・・・また絶対に遊びに来てくださいね!いつでも歓迎しますから!」
「あぁ。一人前の勇者になって必ず遊びに来るよ」
「それまでこの村を頼んだわよ!ユリーナ!」
「・・・はい!約束です!」
「・・・よし、それじゃあ。また!」
そういうと、アランとリサは草原の先へ続く道を歩き始めた。
「ありがとなー!!」
「また来ておくれよー!!」
(お二人なら絶対なれます。最高の勇者に・・・)
ユリーナは笑顔を浮かべ、二人の後ろ姿を見つめていた。
村人の歓声に見送られながら、二人は次の街クロッカスへと向かった。
ーーーーーーーー
「はぁ、ユリーナとお別れかぁ・・・」
アランはがっくりと肩を下ろし、トボトボとリサの後ろを歩く。
「しょうがないでしょ!男なんだから、いつまでもクヨクヨしない!」
「あぁ、そうだな・・・出会いと別れがあってこその旅ってもんだな!はー、次はどんな人に出会えるかなぁ」
「・・・全く、単純ねぇ」
リサはため息をつき、足早に歩を進めた。
ーーーーーーーー
「あとどれくらいだ?」
「ユリーナからもらった地図の通りならあともう少しのはずよ!」
「そうか・・・さっきから平原ばっかでどれだけ進んだか分かんないなぁ」
「そうねぇ、景色も変わらないし・・・あ!アラン、あれ!」
リサの指さす方を見ると、遠くに大きなレンガ造りの時計塔が聳え立っていた。
「確かユリーナは"時計塔"が有名って言ってたよな・・・ってことは!」
「あれがクロッカスの街ね!」
「よーし、ラストスパートだ!」
そういうと、アランは勢いよく走り始めた。
「あ、ちょっと!待ちなさいよ!!・・・ったく」
リサもそれに続き、イヤイヤ走り出した。
ーーーーーーーー
「これがクロッカスか・・・」
アランの見上げる先には、「welcome!crocus」という古びた看板のついた大きなレンガ造りの門が立っていた。
「すごいわね・・・こんな大きな門を見たのは初めてかも・・・」
「あぁ。ほんとだな・・・街の建物もレンガ造りのものばっかだ。都会なんだな、クロッカスって」
「そうね、人も結構多いし・・・とりあえず宿泊先を探しましょうか。日も傾き始めてることだし」
「そうだな」
二人は門をくぐり、街の大通りを歩き始めた。
ーーーーーーーー
「すごい賑わいね」
「うん。お店もいっぱいあるし、ここならある程度の生活には困らないな」
そんなことを話している時だった。
「きゃー!!スリよー!!」
賑わっていた大通りに、女性の悲鳴が響き渡った。
「なんだ?」
アランが様子を伺おうとしていた時、正面から黒いローブを羽織った人間が素早く走ってきた。
「うわぁ!?」
ローブの人間はアランにぶつかりながらもそのまま路地裏へと走り去っていった。
「大丈夫?アラン」
「あぁ・・・って、あれ?ない、ないぞ!?」
アランが慌てた顔でポケットを探り出す。
「どうしたのよ」
「・・・お金がない。袋ごと持ってかれた!!」
「え、えぇ!?す、すられたってこと!?」
「くそ、リサはここにいてくれ!俺はさっきの奴を追いかける!!」
そういうと、アランは先ほどのローブの人間を追い路地裏へと走っていった。
「あ、アラン!・・・もう、勝手なんだから」
大きくため息をつくリサのもとに、一人の女性が近づいてきた。
「あ、あのー・・・」
「え?は、はい」
「あなたがたも・・・スリに?」
「あなたがたもって・・・あ!さっき叫んでた!」
「はい・・・私、この街で宿屋をやってるマーラって言います。今土地の保有主の方に上納金を持っていこうとしてたんです。そしたらスリにあって・・・」
「上納金ってことは・・・相当な額を?」
「えぇ。しかも、今日中に保有主のところにお金を持っていかなくちゃいけなくって・・・どうやらご一緒の方がスリの犯人を追いかけていったようですけど・・・」
「今日中ですか・・・よし、分かりました!私たちに任せてください!必ず今日中に犯人を捕まえてお金を取り返します!」
「ほ、本当ですか!?で、でも見ず知らずの方に頼むのは・・・」
「いえいえ。私たち、一応勇者を目指してるんです。困ってる人を放っておくことなんてしませんから!」
「・・・ありがとうございます!では私はこの大通りにある安休荘って店にいますから!もしお金を取り返していただけたらお礼もします。どうかよろしくお願いします!」
「えぇ、分かりました!」
リサはあたりを見渡し、路地裏へ向かった。
ーーーーーーーー
「くっそー!あいつどこ行ったんだ!?」
薄暗い路地であたりを見渡していたのは紛れもなくアランだった。
「アラン!!」
「あ、リサ!」
「どう?犯人は」
「あいつ、すばしっこくて・・・見失っちゃったぜ・・・」
「そう・・・あ、一つ依頼が入ったわよ!」
「依頼?」
「えぇ。さっきスリに遭ってた女の人なんだけど、店の上納金を今日中に払わなきゃいけないのに盗まれちゃったんですって!」
「なるほど・・・今日中にお金を取り戻せってことか」
「えぇ。お礼もするって言ってたわよ」
「ほんとか!?」
お礼、と聞いた途端、アランの顔にやる気が溢れ始めた。
「よーし、そうと決まればとっとと奴を捕まえるぞ!」
「・・・単純な奴」
リサはやれやれと首を振った。
「よし、手分けして探すぞ!リサはこのあたりを頼む。俺は向こうの方行ってみるから!」
「わかったわ」
そういうと、アランは複雑な路地を走り抜けていった。
「ったく、また面倒なことに・・・」
リサはまた大きなため息をつき歩き始めた。
続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます