第9話 鎧の男、ダンテ
「ここね…」
アラン、リサ、エルザの三人はマーラの経営している宿屋安休荘にやってきていた。
安休荘は街の入り口の門のあるメインストリートから一本道を入った場所にある二階建ての木造の宿だった。
「ここがマーラさんの言ってた安休荘ね…さ、早くお金を返しに行きましょう!」
「そうだな!」
三人は軋む木の扉を開け、安休荘の中へ入った。
ーーーーーーーー
「いらっしゃいませ…あっ!あなた方はさっきの…」
宿屋のカウンターにいた女性、マーラはハッと驚いた顔で三人を見つめる。
「遅くなってごめんなさい!お金、取り戻せました!」
そう言うと、リサはエルザから取り戻した袋をマーラに手渡した。
「あら、ほんとに取り戻してくれるなんて…!よかったわ!これで上納金の支払いに間に合います!本当にありがとう!
…そうだ!お礼と言ってはなんですが、後でご飯をご馳走させて下さい!あと、この街にいる間はこの宿を無料でお貸し致しますわ!」
「そ、そんな!お礼なんて…」
「いえ!是非お礼させて下さい!…っと、もうこんな時間!私は上納金を納めに行ってきますわ!皆さん、お掛けになって待っててください!」
そう言うと、マーラは駆け足で宿を飛び出して行った。
「…なんか申し訳無いわね」
「まぁいいじゃん!あぁ言ってくれてるんだし!」
アランとリサはニコリと笑顔を浮かべる。
しかし、エルザはどこか浮かない顔で俯いていた。
「どうしたの?エルザ」
「私が盗んだってこと、言わなくていいの?」
その問いを聞き、リサはエルザの肩に手を置く。
「だって、ちゃんと返してくれたじゃない。そこでもうその一件は終わり!マーラさんも犯人は気にしてなさそだったし!」
「そーだぜ!謝って返してくれればそれでよし!別に無理やり犯人だって突き出したりはしないよ」
その二人の言葉を聞き、エルザは今までしてきた盗みに罪悪感を感じ始めていた。
(なんだろ…今まで盗みなんて当たり前にやってたのに…なんか急に罪悪感感じるな…)
「そっか…ありがとね」
「いいのよ!さ、お言葉に甘えて座って待ってましょう!」
「だな!」
三人はエントランスの端にあるテーブル席に腰掛け、マーラを待つことにした。
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「…遅いわね」
「あぁ、遅いな…」
時計の針は午後10時を指している。
マーラが出て行ってから、約1時間が経過していた。
「まさか、何か事件に巻き込まれちゃった、とか…」
エルザのその言葉を聞き、アランとリサの心に不安が募り始める。
「探しに行くか…」
「そうね、もし何か事件に巻き込まれてたら大変だし…」
「うん、そうした方が良さそう」
三人は探しに行くことを決め、店を出た。
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「よし、手分けして探そう。俺はこっちの路地を中心に探す!リサはメインストリートから、エルザもそっちの路地を中心に探してくれ!」
「了解!」
「とりあえず、30分経ったらここに集合!見つかったらマーラさんを連れてここで待っててくれ!それじゃあ、気をつけろよ!」
「はいよ」
三人はそれぞれ別れ、マーラを探し始めた。
ーーーーーーーー
10分後…。
「マーラさーん!マーラさーん!!…だめだ、見つからないな…。上納金を支払いにって言ってたけど、どこに払いに行ったんだ?それさえわかればな…」
アランはひたすら路地を歩き回り、営業している店の中まで探したが、マーラは見つけられていなかった。
「まぁ悩んでても仕方ないか…おーい!マーラさーん!!」
アランはまた路地を歩き始めた。
ーーーーーーーー
「マーラさんってご存知ですか?」
「あぁ、あの安休荘の。どうかしたのか?」
リサはメインストリートにある宿屋店に入り聞き込みを行なっていた。
「実は、さっき上納金を支払いに行くって宿を出て行ってからまだ帰ってきていなくて…」
「上納金…か。もしかしたら、"ダンテ"の奴に何かされてるんじゃ…」
聞き覚えのない名前にリサは不思議そうに聞く。
「あの…ダンテって?」
「なんだねぇちゃん、ダンテのこと知らねぇのか?ダンテってのは暗黒騎士団って賊集団の幹部でここら一帯を裏で仕切ってるヤバイ奴さ…。噂じゃ相当強いって話だしな…。奴ら、勇者団が獣人族との戦争で人手不足なのをいい事にこの辺りの街や村に住み着いて好き放題やってるみたいだぜ…。ちなみに上納金はそのダンテに直接持っていく仕組みなんだ」
宿屋の主人は怒り浸透と言った表情を浮かべながらダンテについてリサに教えてくれた。
「…この街の皆さんは暗黒騎士団に対抗しようとは考えないんですか?例えば勇者団を頼ったり…」
「…そりゃあ考えたことはあるけどよ、そんな事したらきっとダンテ達が黙ってない。下手したら報復で殺されちまう。上納金を納めれば平穏に暮らせるならそれが一番だとみんな考えてるのさ」
「そう…なんですね…。ちなみに、ダンテは一体どこに?」
「奴はいつも東の路地にあるビルデって名前のバーにいる。支払いはそこに直接行くんだ。…なぁ、ねぇちゃん。行こうと考えてるならやめた方がいいぜ?俺たちはごめんだが…せめて勇者団に連絡してからの方がいい」
そう言うと、宿屋の店主は紙に004と書きリサの前に差し出した。
「これは?」
「ここら辺を管轄してる勇者団の第四支部の通話番号だよ。マーラなら確か通話の印って印術を使えるはずだからわたしてみな。ま、今戦争中で取り合ってくれるかは分からんがな。…ただ通報したと奴らにバレたら何されるか分からねぇ。するならバレないように気をつけろよ」
リサはその紙を受け取ると、ポケットにしまった。
「えぇ、わかってます。ありがとうございました!」
リサは深々とお辞儀し、店を後にした。
(これは重要な情報を手に入れたわね…とりあえず、アランたちと合流したら勇者団に連絡を入れてみようかしら…)
リサはもらった紙をポケットから取り出し、数秒間見つめてまたポケットへ戻した。
「とりあえず探せる場所は探しておかないとね…」
そういい、リサは次の店へと入って行った。
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「…一体どこ行っちゃたのかなー」
エルザは暗い路地を見渡しながら歩いていた。
その時、目の前に薄暗い路地で一件だけ灯りのついたお店が目に入った。
「あそこだけ灯りついてる。なんの店だろ…」
リサは店の前に立ち、看板を見つめる。
店の看板には、"バービルデ"と掠れた文字で書かれていた。
「なるほど、バーね…。そりゃ遅くまでやってる訳だ」
そんなことを考えている時、店の中から誰か歩いてくるのが分かった。
(誰か来る…)
そう感じたエルザは咄嗟に路地に積まれた木箱の後ろに身を隠した。
(…盗みやってた癖で誰か来るとつい隠れちゃうんだよな)
そんなことを考えながら、エルザは木箱から顔を出し様子を伺う。
「困ります!いきなり上納金を値上げするなんて言われても…!それにこれ以上値上げされたらうちの店は…!!」
女性の声が聞こえる。
どうやら何か言い争っているようだ。
「ったく、あんまりでけぇ声出すんじゃねぇよ。俺は今出来の悪い部下のせいで機嫌が悪りぃんだ。いいか?ここは俺ら"暗黒騎士団"が治めてる土地だ。上納金が払えねぇってんなら出てってもらうしかねぇな…」
「そんな!酷すぎます…」
そんな言い争いをしながら、店から誰か出てくる。
エルザは暗い路地の中よく目を凝らし出てくる人影を見つめた。
「っ!!」
人影を見た時、エルザは一瞬驚きの表情を浮かべた。その次の瞬間、エルザの表情はみるみる怒りに包まれて行った。
(あれは…あれは…!!ダンテ!!)
エルザの視線の先にいたのは、黒い鎧を全身に纏った男だった。頭には兜を被っており、素顔は見えなかった。
その後ろから次いで出てきたのはマーラだった。
(あれはマーラさん…?…まさか、上納金を払う相手ってダンテの事だったの…!?)
エルザは今にも飛び出してしまいそうな体をなんとか押さえつけ、木箱の影からひたすら様子を伺っていた。
「ぐちぐちうるせえ女だ…。いいか?さっき言ったとおり俺は今機嫌が悪りぃ。それ以上文句でも言ってみろ、殺すぜ」
「っ!!」
あまりに威圧のあるその言葉に、マーラは口を閉じ下を向く。
「いいか?明日の12時まで待ってやる。それまでに金用意しとけよ。さもねぇと、殺しちまうかもしれねぇぜ」
「…分かりました。明日の12時、お金を持ってここに来ます」
「それでいい。分かったらとっとと帰れ。殺されたくなかったらな」
そう言うと、ダンテは店の中へと戻って行った。
残されたマーラは、涙を流しその場に座り込んだ。
「うぅ…」
少し様子を伺い、エルザはこそっとマーラに近づく。
「マーラさん、大丈夫?」
「えっ…?あ、あなたはさっきの…」
マーラは涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げエルザの方へ向ける。
「私はエルザ。さ、とりあえずここを離れよう。さっきの二人…アランとリサもあなたを探してるから」
「…えぇ、分かったわ」
マーラはフラフラと立ち上がり、エルザと共に薄暗い路地を歩いて行った。
ーーーーーーーー
「ここにいれば二人が来るはず…あっ、来た!」
「おーい、エルザー!あっ、マーラさん見つかったのか!!」
細い路地から出てきたのはアランだった。
アランは安堵した表情を浮かべ、エルザの元へやってきた。
「うん、なんとかね」
「良かったぜ…あ、リサも来たみたいだな」
メインストリートの向こうから、リサが歩いてくる。
マーラを見て、リサは駆け足で近づいてきた。
「良かった〜、マーラさん見つかったのね!」
「ご心配おかけしてすみませんでした!」
マーラは深々と頭を下げる。
「いえいえ、無事で良かったです!」
「うん、それが何よりです!」
「うん、でも色々と問題が…」
「問題?」
「とりあえず店に入ろ。色々話したいことあるし…」
「分かったわ、私もいくつか情報掴んだし」
こうして、四人は改めて宿屋に戻ったのだった。
続く。
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