第18話 学校みたいな食事を
次の日。その日の学校の授業が終わってから止水が店に向かうと、東温、沖豊、譲奈は人間界にやって来ていた。
東温がけがをしたのはつい昨日だと言うのに、彼の体の傷はきれいさっぱりなくなっている。あやかしの世界の名医にかかれば、一瞬にして治るらしい。
四人はイートインスペースで給食弁当を食べる。止水はなにをすれば譲奈を楽しませられるかと考えた時、これだと思った。
「私の学校だと、給食はこんな風に少人数で食べるの。五人ひと組で机と机をくっつけてね」
「余たちは今、給食気分を味わえているということだな」
「集団で食事するなんて、楽しそうですわ」
「そっか。譲奈さんも家庭教師がつきっきりだから、いつも家で食べているんだね」
四人はとりとめのない会話をしなから食べる。その最中、止水の弁当のプリンが宙に浮いた。
「……えっ?」
止水はぎょっとする。東温があやかしの力を使って、自分のもとへ引き寄せていた。
「止水が全然食べないようだから、余がもらおうと思って」
「もー、東温ったら。食べていないのは、それが食後のデザートだからよ。まあ、いいけれど。あなたにあげるわ」
「ふふふ」
これには譲奈も笑う。
「では、止水さまには、わたくしの分を差し上げます――」
沖豊は自分のプリンを浮かせた。東温のように物を自由自在に操る力はないようで、プリンに護符を貼っている。
「近江屋さん、そこでわざわざ浮かせる必要ある? 手で渡す方が早いじゃない」
止水は声に出して笑った。東温と譲奈も止水につられて笑う。譲奈のためにと考えた食事会だったが、止水にとっても忘れられない思い出となっていた。
疑似給食の後、譲奈はひとりだけ先に帰ろうとする。
「止水、元気でね」
「譲奈さん、これが一生の別れとは言わず、いずれはまたこっちに来てね」
「ええ。離れていても、私たちはずっと友だちよ」
譲奈の言葉は止水の胸をじんとさせた。譲奈は時空ずい道へと入っていく。止水は友の姿が見えなくなっても手をふり続けていた。
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