第13話 イカスミスパゲッティは時空をこえる
動画が配信されてからというもの、有名なフードファイターが訪ねた店として、遠方からの客がよく来るようになった。「動画を見て食べたくなった」と、イカスミスパゲッティも売れる。オレンジジュースを一緒に買う客も多いことが、止水と友高のよろこびだ。
止水は学校で、店にフードファイターが来たなんてすごい、と言われた。得之介ファンの同級生にはうらやましがられる。
この日も、止水、東温、沖豊は二階で落ち合った。
「止水さま、あやかしの世界でも大食い対決が流行となっています」
沖豊が報告する。
「人が多く食べる姿を見て楽しむのは、あやかしも同じなのね」
「イカスミスパゲッティも珍奇な見た目からは想像できないおいしさだと、財産家たちのあいだで評判です」
東温と沖豊はイカスミの味を知ってもらいたいと、あやかしの世界に持って帰っていた。
「もしかして、うちの店があやかしの世界の文化や歴史を変えていたりする?」
止水は気にする。
「いまさらだな、止水。余と止水が出会った時点で、それらは変わったのだ。あやかしと人間の恋なんて、いまだかつてないのだから」
東温が誇らしげに言う。
「ちょっと、あやかしと人間の恋って、まるで私もあなたが好きみたいな言い方をしないでよ」
止水はつむじを曲げて、紙パックの野菜ジュースを飲んだ。
「それはさておき、大食い企画みたいな、お客さんの興味を引く別の企画を考えなくちゃなあ」
大食い・早食い対決が予想以上に客を集めた分、困っていた。せっかく掴んだ客の心を離したくない。
「焦っても、いい考えは生まれない。ここはのんびりと行こうぞ」
東温が言う。
「そうね」
止水はその言葉に元気づけられる。
「そうそう、人間はイカスミで歯が黒くなるのがいやなようですが、あやかしの世界ではそれがおもしろおかしいと、話題となっています」
沖豊が止水に伝えた。
「お父さんが言っていたお歯黒が、あやかしのあいだで流行るとは」
止水は笑う。
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