第10話 この店の強み



 止水たちはオレンジジュースを飲みながら、店の売り方について話す。歯はきれいになったけれど、オレンジジュースが話に出たことで、飲みたくなっていた。



「フェアばかりやっていたら、ずっと安く売らなきゃいけない。そうしなくても、お客さんが来てくれる状況を作りたいなあ」



「止水、このコンビニの強みはなんだと思う?」



 止水は東温に聞かれる。



「二階建てなことと、二階で飲食ができることかな。そういう作りのコンビニはうちの店の他にもあるみたいだけれど、数としては少ないわね」



「余も、この店の特長はここだと思う」



 東温はイートインスペースをあらわすように、両手を広げた。



「せっかくこのような部屋があるのだ。この部屋で、目玉となるような行事をやればよい」



「人間の世界でいうイベント、ですかね」



 沖豊が補足するようにして言う。



「コンビニならではのイベント、あるかなあ」



 止水は顔を上げて、考える。



「ここは食べるところだよね」



 イートインという名のとおり、読書したり、勉強するような空間ではない。やるとしても食べながら、と、食べるのが中心だ。



「そうだ。コンビニの食べ物をどれだけ多く食べられるか、人間どうしで競ってみてはどうだ?」



 東温が案を出した。



「つまり、大食い対決ってこと?」



 テレビやインターネットなど、大食いや早食いは人気で定番の企画でもある。食べることを競う大会に出場する人をフードファイターと呼び、それで生計を立てる人もいるほどだ。止水の同級生にも、人がたくさん食べる動画を見るのが好きだという人がいる。



 三人はこの店の二階で大食い対決をやってみないか、と友高に意見してみた。



「まさに、友高殿にぴったりの企画ではないか! その体型なら、さぞかしいっぱい食べるのだろう?」



 東温が友高にたずねる。失礼な言い方だな、と止水は思った。



「僕は確かに太っているけれど、いちどにたくさん食べられないんだ」



「日本のフードファイターも、痩せている人ばかりだもんね」



 けれども、この店でたくさん食べられる人間となると、友高に限られる。



 友高はさっそく、今から一週間後、店の二階で大食い・早食い対決をやることを宣伝した。友高と挑戦者で一対一の競争をし、挑戦者が友高より早く食べ終えることができたら、支払いは無料にするという内容だ。友高に負けた場合は、対決のメニューとなる商品の全額を払ってもらう。



「本番にそなえて、練習しておかなくちゃ……」



 その日から、友高の食べる量はまたいちだんと増える。彼は夕食の席で、茶わんに限界まで盛ったごはんをぱくぱくと食べていた。世利果が作ったおかずだけなく、店の残り物やカップめんも口にしている。



「お父さん、そう言って、自分が食べたいだけじゃないの?」



 止水は友高に言った。



「そ、そんなことはないよ!」



 友高はごはんをのどにつまらせそうになる。図星だったようだ。



「お父さんったら、本当に食べることが好きなんだから」



 世利果はそう言って、笑った。止水も声に出して笑う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る