第4話 新しいサービスの開始



 次の日。今日も東温と沖豊は人間界にやって来ていた。店の売り上げをのばすためにいい案があるという。



「あやかしの世界がだめなら、この日本国内で多くの人に届ければよいのだ」



 東温が言った。



「それができるにこしたことはないけれど、人手が足りないわ。新たに人を雇う余裕もないのよ」



 止水は働いたことがなくとも、配達がむりなことに気がついている。



「余が運ぼう。余なら運べる」



「しかし、十歳の男の子を働かせるわけには――この国は労働基準法という法律があるんだ」



 友高は首をたてにふらない。十歳の東温はこの国だと児童にあたる。児童はアルバイトができないと、法律で定められているのだ。



「友高様、あやかしに法律は適用されないかと」



 沖豊があいだに割って入った。



「そうよ、お父さん。東温のやりたいようにやらせればいいのよ」



 止水は東温にまとわりつかれていやな思いをしているぶん、彼をこきつかうつもりだ。



 さっそく、友高は配達サービスをはじめることを、まわりに知らせることにした。宣伝活動にがんばった甲斐もあって、数名の常連客からの注文を受ける。東温と沖豊はそれを見届けてから、自分たちの世界へと帰った。



 翌日の金曜日。友高が配達の準備をすませると、東温は白狐の姿となった。沖豊もタヌキの姿となる。



 止水と友高は東温の背中に乗った。おとなひとりと子どもひとりが乗っても余裕の大きさだ。



「……ふたり分となると、やや重いな」



 東温がつぶやく。



「ご、ごめん」



 友高はわびる。ほとんどは体重が百キログラム近い友高の重みだろう。



「でも、みんなで地上を走ったら、騒ぎにならないかい?」



 友高が東温に聞いた。



「建物の屋上と屋上を行き来しよう」



「屋上でも、目撃者はでてくるだろうし、未確認動物だって、動画撮影する人がいそうだね。その動画はインターネットで拡散されそう」



 止水は心配となる。大きくて立派な東温の体はどこへ行っても目立つ、ということだ。



「それならば、あやかしの力で、他の人間には見えないようにしておく」



 東温は一枚の細長い紙を手にした。



「それはなに?」



護符ごふというふだだ。このふだに余の力をこめれば、たいていのことが実現できる。これは余の能力だけではできないことをおぎなうためのものだ。余は自分の体を透明にすることはできないからな」



「へー」



「わたくしも自分の体に護符を貼っておきます」



 沖豊も姿を見えなくする。



 東温は四本の足で走り出した。それはバイクほどの速さだ。



「楽しいー!」



 まるでアトラクションに乗っているようだと、止水のテンションが上がる。



「止水さま、東温坊ちゃまの能力なら、リニアモーターカーほどの速さにだってなれますぞ」



 平行している沖豊がタヌキの姿で言う。



「そこまで速くなくていいかな」



 四人はあっという間に商品を注文していた客がいる会社まで到着する。ひとり目の客は小さな建設会社の社員だった。



「イツデモイマデモです。お弁当を届けに参りました」



 友高はビルのドアをあけると、元気よくあいさつする。



「おお、早いね! こんなに早く届けてくれるなら、次もイツデモイマデモさんで注文するよ!」



 客はサービスの内容に満足していた。



「これは仕事が終わってから家で食べる用なんだけれど、自分で買いに行く手間が省けてうれしいよ。仕事終わりはどうしても体がつかれているからね」



「ありがとうございます」



「えっ、俺も配達をおねがいしておこうかなあ。弁当はイツデモイマデモさんのがいちばんおいしいからね」



 他の社員も配達に興味をしめす。ひとりの客があらたな客を呼んだ。ここからイツデモイマデモまで行くには少し遠いからと、買い物をあきらめていた客が戻ってきているようだ。



「この調子なら、配達サービスを利用するお客さんも増えるかも」



 止水は小おどりする。東温に感謝した。

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