第2話 旅の始まり

夜が明け、森に朝の静寂が訪れた。デューク・ルブランは焚き火の残り火を消し、丁寧にキャンプの跡を片付けた。焚き火の近くで淹れたコーヒーの香りが、まだかすかに残っていた。


愛馬シャドウフレアが静かに佇み、彼の準備を待っていた。黒い毛並みが朝の陽光を受けて輝き、その眼差しには知性と落ち着きが宿っていた。デュークは無言でシャドウフレアのたてがみを撫で、優しくその背に跨った。


「行こう。」


デュークの短い言葉に、シャドウフレアは穏やかに頷き、ゆっくりと歩み始めた。彼らはエルフリックの村を目指し、広大な異世界を旅することになる。


森を抜けると、広がる草原が彼らを迎えた。風に揺れる草原は、まるで海のように波打ち、遠くには雪山の頂が白く輝いていた。デュークはその風景に一瞬心を奪われたが、すぐに目的地を見据えた。


草原を進む中で、デュークは異世界の動植物に注意を払った。見慣れない花々が咲き乱れ、カラフルな鳥たちが空を舞っていた。その美しさは現実離れしており、まるで夢の中の景色のようだった。


途中、小川が流れている場所で休憩を取ることにした。デュークはシャドウフレアに水を飲ませ、自らも小川の清らかな水を手で掬い、喉を潤した。小川のせせらぎが心地よく、周囲の静けさが彼をリラックスさせた。


デュークは再び旅を続けた。次第に森が密集し、木々が高くそびえる場所に差し掛かった。鳥のさえずりが心地よく響き、木漏れ日が地面に模様を描いていた。その中を進むデュークとシャドウフレアの姿は、まるで絵画の一部のようだった。


数時間が経ち、デュークは遠くに村の姿を見つけた。エルフリックの村だ。村の家々は木と石で作られており、煙突からは暖かな煙が上がっていた。デュークはシャドウフレアの速度を緩め、慎重に村へと近づいた。


村の入り口では、子供たちが遊んでいた。彼らはデュークとシャドウフレアを見ると、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに興味津々に近づいてきた。デュークは無言で彼らに微笑み、シャドウフレアも静かに子供たちの頭を撫でた。


「あなたがデューク・ルブランですね。」


村の長老が現れ、デュークに話しかけた。長老は白髪の小柄な老人で、その目には知恵と経験が刻まれていた。


「はい、エルデリックからあなたのことを聞いています。どうか村に入ってください。」


デュークは頷き、シャドウフレアと共に村の中へと進んだ。村人たちは彼の到来を歓迎し、親しげに話しかけてきた。デュークは無口ながらも、彼らの親切に感謝の意を示した。


長老はデュークを自分の家に案内し、暖かな炉の前に座らせた。彼はデュークに温かいスープを勧め、異世界での最初の食事を提供した。デュークは静かにそれを受け取り、感謝の気持ちを込めて食事をした。


「ここであなたの力が必要です。」


デューク・ルブランはエルフリックの村で長老から村を襲う魔獣の話を聞いた。ブラッドウルフという名前を聞いた瞬間、デュークの心には警戒心が芽生えた。長老は、ブラッドウルフが村の家畜を襲い、村人に恐怖を与えていることを説明した。


「数週間前から現れ始め、夜になると村の周囲を徘徊するようになりました。家畜が次々と襲われ、村人たちは夜が来るたびに怯えています。」


デュークは無言で頷き、シャドウフレアに乗って村の周囲を見回り始めた。夕闇が迫る中、デュークはブラッドウルフの痕跡を探し続けた。地面には巨大な爪痕が残されており、その凶暴性が伺えた。


夜が更け、月が高く昇る頃、デュークは森の奥から低い唸り声を聞いた。彼はシャドウフレアを静かに止め、狙撃の準備を始めた。周囲の闇が一層濃くなる中、彼の視線は鋭く光る赤い瞳を捉えた。


ブラッドウルフがゆっくりと姿を現した。その巨大な体は月光を浴びて輝き、その瞳は獲物を見据えていた。デュークは冷静に狙いを定め、一瞬の隙を狙って引き金を引いた。


銃声が森に響き渡り、ブラッドウルフは倒れた。デュークは慎重に近づき、その巨体を確認した。銀の弾丸が確実に弱点を捉えたのだ。


デュークはシャドウフレアに乗り、村に戻った。村人たちは彼の帰還を歓迎し、恐怖から解放されたことを喜んだ。長老は深い感謝の意を述べ、デュークに温かいスープを差し出した。


夜が更け、デュークは再び焚き火を囲んでコーヒーを淹れた。焚き火の暖かな光が彼の顔を照らし、コーヒーの香りが漂った。彼は静かにその香りと味を楽しみながら、次の旅路に思いを馳せていた。

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