第013話 タケルvsヴァルトラウテ

 「敵機接近。機数1機」


 周囲へ敵機の接近を知らせる。といってもたった1機では危機感もないだろう。

 スナイパーライフルの射程に入るまで様子を見つつ、周囲の警戒にあたるが未だに1機のみ。

 射程に入り次第……射撃。


  バシュッ


 敵機は流石にスナイピングを想定していたのだろう。蛇行しながら走行しこちらに近付いてくる。

 下にいる味方機からのスナイピングも合わせて、敵機に撃ち込んでいるがランダムに蛇行しているため掠るのがせいぜいだった。

 しかし、相変わらず1機しか確認出来ない。


『おーい、タケル。あれ、ピアレイじゃないのか?それならお前が相手してやるのが一番だと思うけど』

『マジか、面倒だな。俺が出ないとダメか?みんなで一斉攻撃すれば墜ちるんじゃないか?』

『そんな野暮なことは出来ねぇよ。なぁ、みんな?

 ピアレイのプレーヤーのお気に入りとの対戦なんだからよ』

『ふざけるなよ、そんな面倒な事やってられん』

『ほれ、どんどん接近してくるぞ』

『くっ、仕方ねぇなぁ。行ってくるよ』


 前にいるアーマードギアが道を開けるように避け、スペースが空いた所に飛び降りた。

 そのまま一気にホバーリングで加速し、スナイパーライフルをアサルトライフルに持ち換えた。


『待って!私も行きます』

『来るな!確実に助けてやれないからな?大破してもしらんぞ』

『……』


 ちゃんと警告したからな?どうなっても俺はしらない。

 更に加速し、ピアレイとの距離を詰める。


『おや、クサナギが来てくれるとはね。嬉しいねぇ。

 ああ?何だ、そのくっついて来てるのは?彼女連れで戦場に出てきてるのかい?』

『違う!!ただのストーカーだ!勝手にくっついて来ただけだ!』

『……ひどいです』


 その直後、アサルトライフルをピアレイに向け1斉射して、マガジン交換に入る。

 もう戦闘は始まっているんだ。

 取り外したマガジンをピアレイに向け投げ捨て、新しいマガジンを取り付けた。

 ピアレイは投げ付けたマガジンをご丁寧に撃ち落としたが、残弾の火薬に引火しやや大きめの爆発が起きた。

 その隙にピアレイの左側面に回り込む。

 腰溜めにアサルトライフルを連射する。


  ダダダ ダダダ ダダダ ダダダ


 しかし、ピアレイも一気に前に加速し銃弾を回避した。

 ピアレイがこちらの後方へ抜けていった。

 こちらは脚部のピックを地面に突き立て急旋回し、ピアレイの背後に付けアサルトライフルを更に連射した。

 ピアレイはこちらを確認せず蛇行しながら加速し、一旦離れて行き反転してこっちを向いた。


 こちらも一旦バックで離れ距離を取った。


『くっそぉ、クサナギ、相変わらずいい動きしやがる』

『それはそっちもだろ。回避行動が良すぎて当たりゃあしない』

『まだまだ行くぞ!』

『仕方ねぇな』


 シールドバインダーを前面に出してそのまま突っ込んで行った。

 ピアレイは動かずアサルトライフルを連射してくる。


  ガンガンガン ガンガンガン ガンガンガン


 シールドバインダーに銃弾の当たる音が響いてくる。

 俺は向こうが動かない内に、シールドバインダーの下からアサルトライフルを隠すように出し連射する。

 ピアレイはその射撃にすぐに気付かず、シールドを持っていないため数発食らっていた。


『くっ。またこすい手を』

『戦術と言ってくれ』


 十分接近し、向こうの大型ヒートサーベルの間合いに入る。銃撃を止めてヒートサーベルに切り替えて斬りつけてきた。

 俺はシールドバインダーで受け、更にピアレイの脚部に向けアサルトライフルの撃ち込む。

 流石に何度か接近戦でやられている事もあって、即座に後方へ退いた。


『何度も同じような手は食わねぇよ』

『食らってくれると楽だったんだがな』


 今度はこちらから距離を詰め、ヒートサーベルで斬りつける。

 ピアレイはそれを難なく受け止める。

 その瞬間、アサルトライフルとパイルバンカーの同時攻撃を仕掛ける。

 ほぼ0距離からの同時攻撃は両方共回避は出来ず、ダメージのでかいパイルバンカーを避ける。アサルトライフルの斉射は胴体、コクピット付近に着弾し結構なダメージを与えた。

 ピアレイの動きが確実に悪くなり、動かないパーツもあるようだ。

 いくつかの信号回路が切断されているのだろう。


『まだ、やるか?大破したら後がつらいぞ』

『敵に情をかけるつもりか!』

『ゲーム内だからな。プレーヤーが死亡判定になっても、どうせまた出てくるんだからな。

 それなら大破させ修理に時間も金もかかったら困るだろ。次の対戦の時、弱い機体として戦っても面白くない』

『そっちの都合で生かされるのか』

『こっちは真剣に楽しみたいだけだ。せっかく対戦に付き合ってくれる奴を潰すのは意味がない』


 ゲームだから死なない。

 でも、デスペナルティはあるし、大破した機体のパーツはほとんど使えなくなる。保険なんてものはないから壊れれば修理もしくは交換だ。金がかかる。

 余程お金を持っていないと、修理後は格段に性能の劣る機体になってしまう。

 そうなると面白くなくなって止める事が多い。

 だから、ある程度の性能の機体を組んだプレーヤーは引き際の判断が早い。かなりのダメージを受ける前に撤退する。


『そうかよ。覚えてろよ、次こそ叩き潰してやるからな』

『弱い悪役が逃げる時にいうセリフだな。

 まあ、いい。楽しみにしてるよ』

『くっそー』


 ピアレイはこれで引いてくれた。

 今回は結構ダメージを受けてるから修理に金がかかりそうだ。


『お疲れ様です』

『お前に言われる筋合いはない。好きで戦ってるんだ』

『タケルさんはいけずですね』

『プレーヤー名は言ってないはずだが?』

『他の方から聞きましたけど。喜んで教えてくれましたよ?』

『あいつらか?覚えてろよ?』




ヴァルトラウテSide

「また、負けた。細かいところでテクや攻撃の仕方に差が付いてる。もっと経験積んで戦略を見直さねぇとダメなのか?」

「また負けたのか?懲りないね。もうちょっと経験やテクを磨かねぇと難しいんじゃない?」

「マッカーサーか。やっぱりそうなのか?」

「あと、シールドバインダーを攻略しねぇと難しいんじゃね?第3の手みたいなもんだからな」

「こっちもシールドバインダー装備すれば勝てるか?」


 相手に手が3本あるなら、こちらも3本にすればいいというのは安直か?

 攻略としては手数を増やすのは常道だけど。

 でも、ジェネレーター出力をシールドバインダーにも割り当てると、全体のパワーが落ちてしまう。

 ジェネレーターを見直さないと、今の、自分が目指す機体にならない。

 それなら今シールドバインダーを追加したくない。


「どうだろな?向こうの方がシールドバインダーを使い慣れている分強いだろ。

 その差はすぐには埋まらんだろ?」

「だよな。それならやっぱり……」


 それなら自分の目指す機体を完成させて奴を倒してやる。


 今日はもういいか。

 そろそろ夕飯時だしヤマトは御飯作ってくれてるかな。


『ヤマト、夕飯出来てる?』




タケルSide

 砦の攻略は概ね楽勝だった。

 それなりに数はいたが、駐留してる機体が弱かったしな。

 砦の中に何機いたかはしらない。砦の中でやられるようなのはどのみち強くはないはず。

 ヴァルトラウテの方が強い。

 今回もいつものようにこちらのペースに持つ込めたから勝てた。

 単純なパワー勝負なら簡単に勝てないし、向こうがパワー勝負に持ち込めるだけの経験を身に着けたら簡単に勝てなくなるだろう。

 こっちもパワーを強化したいところだけど、金がない。

 シールドバインダーも増やしたいし。


  ピロリン


 何だ?また飯の催促かよ。

 そろそろ落ちるか。


 と、思っていたらまた巫女服の静御前とかが来た。


「タケル、今日はまた助けてくれてありがとうございます」

「お前だけをフォローしたわけじゃない。味方機を援護しただけだ。それにお前の機体が含まれていただけだ」

「アリスティア!」

「あ?」

「機体の名前。覚えてください。

 ついでにプレーヤー名 静御前も」

「気が向いたらな。忙しいんで落ちるぞ」


 こっちのことなど関係なく言ってくる。面倒だ。

 とにかくセイラの夕飯を考えないと。

 そっちの方が大変だ。くそっ。

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