第011話 セイラの悩み事

ヴァルトラウテSide

 くっそぉ、今日もあいつを墜とせなかった。

 彼奴の方が動きが速いからってのもあるけど、距離を取ったら追い付けない。

 射撃だけじゃあ簡単に墜とせないし。

 可動範囲の広いシールドバインダーが大抵防ぐ。

 どうすれば倒せるんだ?


「よ、ヴァルトラウ。どうした?また、やられたのか?」

「やられてはない。倒せないんだ!」

「まぁ、あのクサナギだからな。上位ランカーとかではないけど、中堅どころでは堅実なプレーで定評があるからそう負けないだろ」

「だぁ、そんなのはいいんだよ。そういう奴に勝つ方法はないのか?」

「簡単に勝ててたら中堅プレーヤーじゃねぇだろ」


 なら、どうすればいい?

 パーツを組み替えるにしても、今使えるパーツはたかがしれてるし。

 何かしらのイレギュラーを期待しても、そんなのは実力じゃない。運だ。運で勝てても仕方がない。


「向こうはそのうちシールドバインダーを増やすだろうけど、その辺は対抗策とか考えてんの?」

「……シールドバインダーを増やす?」

「ああ、また聞きだけど目標は『ファントム』って話だから、最大4枚はシールドバインダーを付けるんじゃないの?

 少なくともパイルバンカー2機にビームキャノン2本くらい」

「マジか?いくらかかるんだよ。ジェネレーターも強化しないとダメだろ」

「まぁな、いつやるとは言ってないからな。最終目標だろ」


 そこまでやるつもりか……マジにはまってるんだな。

 まあいい。そのうち、墜としてやる。

 それよりも……もう一つ心配なことがあるから、それを片付けよう。




アリーシャSide

 今日は家でゆっくり過ごそう。

 体育の実技はヤマトがいい運動相手になってくれたから、久々にいい汗をかけたかな。

 ヤマトは他のスポーツも得意なのかな?そうだと、体育の実技は楽しみになるんですけど。


 今日はE.G.G.にはダイブしないで、メタバースの部屋でいわゆる「薄い本」でも鑑賞していよう。

 新作をいくつか仕入れたんだよね。

 パパ達は仕事で忙しいからメタバース内の仕事場に行ったままだし、誰にも邪魔されず堪能出来るよ。

 さて……


  ピンポーンピンポーン


 ん?誰だろ?

 近所の知り合いはヤマトやセイラしかいないし、特に約束はしていないんだけど。

 注文した物はいつもの所に置いておいてくれる事になってるんだけどな。

 仕方が無い。1度落ちてっと……


「はーーい、あれ?セイラ?どうしたの?」

「……ちょっと相談したい事があるの」

「ヤマトにしなくていいの?」

「うん、女同士で相談したい」


 うーーん、ヤマト抜きでというのは……いわゆる恋バナってやつですか?

 セイラに恋バナというイメージがちょっと湧かないけど。

 セイラはヤマトにべったりだから、他の人を好きになるとかないんじゃないかと思うんだけど。

 相談されても良い回答は出ないような……


「じゃあ入って入って」

「お邪魔します」


 私の部屋に……ってヤバい本がいっぱいあるんだった。

 ダメだ。リビングで話そう。

 セイラに見せちゃダメなものが多すぎる。


「リビングで話そうよ。飲み物持ってくるね」

「分かった」


 セーフ。キッチンで飲み物を準備してリビングに戻ると……セイラがいない?

 どこに行った?

 あれ?私の部屋の扉が開いてる?

 セイラが中で何か読んでる。あれは私のヤバいコレクションだ。


「凄い、男同士で……ヤマトもトキオ達とこんな事してるの?」

「違う違う、ヤマトはそんな事してないよ、きっと。

 でも、セイラに手を出さないんだから、もしかしたら……そっちの気が」

「えー?そんなのやだよ」


 自分に手を出さないのが嫌だとかって、やっぱりセイラはヤマトが好きなんだよね?

 お兄さんって思ってるのか、男の子として思ってるのかによって違うけど。

 お兄さんとしてなら、元々血が繋がってないけどこれはこれでくるものがあるよね?


「セイラはヤマトの事をどう思ってるの?恋人?家族?執事?」

「んー、執事が近いかな」

「好きなんだよね?」

「うん、大好きな大事な執事かな」

「うーーん、なんというか、恋人同士になろうとか思わないの?

 例えば……体の関係にとか」

「んー、大体一緒にいるんだから恋人と変わらないよ。それにヤマトとなら……そういう関係になってもいいよ」


 ああ、メタバースの弊害ってやつなのかな?

 独りで大丈夫か、近くにいる異性と付き合うのが当たり前のようになってるか。セイラの場合、後者だけど。

 メタバース内で恋愛やあんな事をして繋がってても、リアルでは繋がりがない。もしくは、実際に遠くまでいかなくてもいいから、地元という狭いリアルのコミュニティの中で恋愛から結婚にまで至るか。の、どちらかが多いらしい。

 セイラの場合は、もう隣に長くいるし、世話を焼いてくれるから恋人と変わらないという感覚なんだろうな。相手がどう自分の事を認識しているかは別にして。


 でも、別のコミュニティから来た私という異分子が入ってきたら、今の関係のままではいかなくなるかも。

 その辺はセイラは分かってるのかな?

 私がヤマトを取っちゃうかもしれないんだよ?

 受け身のままだとダメだと思うよ。


「それで、相談って?」

「ヤマトに好きになってもらうために、少なくとも自分の事は自分で出来るようにならないとと思って。

 それでどうすれば出来るようになるかを相談しに来た」

「うーーん、ヤマトはどこまでセイラの事を面倒見てるの?」

「勉強とお風呂以外はほとんど……」


 流石にお風呂で身体や髪を洗ってたりしたら引くわー。

 ヤマトもそこまではしないだけの分別があったのね。小さい頃はどうだったかは知らないけど。


「セイラ、料理については出来ないのは放っておきましょう。ヤマトも好きでやってくれるだろうから。折を見てレンジを使えるようになるくらいは教えるよ。

 服とか髪のセットなんかは教えてあげられるから」

「いいの?」

「女の子同士ならよくやることだよ。私もそういうのをやってみたかったんだよね。

 それについでにヤマトの好みも教えてよ。私がヤマトを取っちゃうかもしれないけど?」

「えー、それはやだぁ」

「じゃあ、2人でヤマトと付き合っちゃえばいいんだよ。……って、今のところ冗談だけど」

「ぷーー」


 でも、セイラの気持ちがなんとなく分かったかな。

 ヤマトには嫌われたくないけど、でも今の状態を壊したくもないんだよね。

 こちらとしてはマンガやラノベにある女の子同士の付き合いを、セイラと楽しめるといいかな。

 ヤマトの好みもついでに分かれば、将来的には利用して……

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