第009話 メンテナンス

 昨日は何の計画も立てず砦を潰しに行った。余計なのが付いては来たが。

 大半がホバーリングでの移動だけだったから、大して機体に負荷はかかっていない。

 ゲームとはいえ本物に近い設計になっていて、動かせば動かすほど機体のフレームにダメージが蓄積していく。人間の疲労骨折のようなものだ。

 ダメージがフレームの強度を超えれば破損する。敵機の攻撃以外にも被るダメージなので、自分でコントロールしなければいけない。

 戦闘中にフレームが破損するすれば、そこで終わりだ。宇宙空間ではなく重力下の地上となれば、脚部が破損すれば敵機からの集中攻撃で嬲り殺しになるだろう。腕部ならまだ逃げられる可能性はあるが。


 ということで、今日はフレームの疲労度合と装甲のダメージチェックから始める。

 といってもほぼ全自動でチェックされるから、結果を見ながら交換部品の選定をするくらいだ。

 機体の荷重が集中する脚部フレームは定期的に交換が必要だ。安いパーツを買えば懐的にはいいが、壊れやすいし、信用度が低いし、動きが悪くなる。

 ある程度経験を積めば、皆ちゃんとしたパーツに切り替える。そうなると稼ぎの内それなりの割合が脚部の代金に溶かさなければいけなくなる。

 金持ち以外の皆が頭を悩ませるところだ。


 フレームの疲労具合は軽微。まだまだ問題はない。

 装甲も今の所ほぼノーダメージだ。

 しばらく交換の必要はないか。

 スナイパーライフルとアサルトライフルのマガジンを追加して、メンテ終了だ。



 気になる装備は今の所ない。

 でも、最終目標はある。ファントムだ。

 E.G.G.で起きた事件の最重要プレーヤーが使用していたアーマードギア。

 50年以上前にいた機体、過去に飛んで事件を終決させたとされる機体。

 そして、最強のパーツで組み上げた最強の機体。

 バランスも絶妙で、事件の後もしばらく最強の名を冠する機体としてE.G.G.で有名だったそうだ。

 しかし、いつの間にかフェードアウトして消えた伝説の機体。


 そして……俺の好きな機体、目指す最強の機体、いつになれば届くか分からない機体。

 未だに新しいパーツが出ているが、どんな組み合わせにしてもファントムを超えられないと言われている。実際対戦できない以上伝説の機体は強いのだ。

 でも、いつか超えたいと思っているプレーヤーは五万といる。俺もその1人だ。

 新しいパーツが出れば常にチェックしているが、デザインだけでなく性能もこれではないというものばかりだ。

 何にしても基本のジェネレーター出力が足りないのがネックだ。

 PCはCPUの性能はさらに上がっているから処理性能が上がり、動きは良くなっているはずだけど、機体の性能が上がらなければそれを活かしきれない。

 今の所手詰まりだ。

 更なるパーツの発表を待つしかない。


 仕方がないが、これで終わりでいいだろう。

 ラウンジの方に行ってミッションや情報の確認をしてから、今日は落ちる予定。

 誰かいるかな?



 今後の予定のミッションはでかい砦攻略は計画してるようだけど、細かいミッションは募集期間が短いから今見ても仕方ないなぁ。

 後は誰がいるかだな。


「よう、だん吉。何か情報はあるか?」

「特に何もないな。でかい砦を墜とす計画くらいだろ。後は今の所な。

 そういえば、昨日砦を墜としたんだって?」

「ああ、小さい砦をな」

「しかも女連れで?」

「連れて行ったわけじゃねぇ。勝手についてきたんだ」

「へぇ、その割には付いてきたのもほぼ無傷らしいから面倒見たんだろ?」

「囮に使って敵機を引き付けさせたんだよ。たまたまほぼ無傷だっただけだ」


 ほぼ無傷なのは偶然だ。運が良かったとも言える。

 こちらも利用させてもらった。その分、運が上乗せで良くなっただけだ。

 次に付いてきても同じようにいられる保証はない。


「お前なぁ、新人っぽいやつを囮に使うとかやめてやれよ!」

「付いてくるなと言っておいたんだ。それでも付いてくる以上そうなっても仕方がないだろう」

「ったく、お前というやつは。

 おっと、噂をすればだ。俺は退散するよ。タケル、お大事に」

「なんだそりゃ?」




静御前Side

 あ、あそこにタケルがいる。誰だか分からない人と喋ってる。

 でも、その人が離れた。今の内に。


「タケルさん、こんにちは」

「なんだ?」

「いえ、何でもないですけど、お世話になっているので挨拶に」

「世話はしていない」

「次はいつ参戦するんですか?」

「決まってない」

「教えてくださいよ」

「……」


 あっ、落ちたみたい。

 ヤマトくらい愛想が良ければもっといいのに。




ヤマトSide

 クサナギのメンテも終わったし、次のミッションは今の所受ける予定はない。しばらくはノープランで敵地に突っ込んでみるか、大きな砦の攻略ミッションにでも参加するかな。

 ソロならいくらでも融通が効くから、攻略ミッションも1機だけなら枠もあいてるだろうし。

 次は見つからない内にフィールドに移動しよう。

 くっついて来られると面倒だ。



 後はじいちゃんの野菜も新たに追加で届いたし、今日の内にカットしてフリーザーバッグとかに入れて保存しよう。

 芋類やかぼちゃ、人参などの根菜類、キャベツなどの葉物野菜、など水分の少ない物はさっさとカットしてしまう。すぐに食べない分はいつもそうしている。


 野菜を一心不乱にカットしていく。精神集中にもってこいだ。

 どんどん野菜を切って切って、いろいろな切り方で切っていった。

 玉ねぎは一部みじん切りやアメ色になるまで炒めたり。

 トマトは殆どはトマトソースを作って凍らせておく。


 そうやってじいちゃんの野菜はどんどん冷蔵庫や冷凍庫に収まっていく。

 うちは両親の都合で業務用の冷蔵庫や冷凍庫があるから、大量のじいちゃんの野菜も全部収まる。

 大体保存した所でチャイムが鳴る。


  ピンポーンピンポーン


 なんだ、セイラか?

 夕飯は作る事になってるけど、それまでは家にいるけど忙しいって言ってあったのに。


「ヤマト、開けて」

「はーーい、開けるから」


 玄関を開けると分かっているけどセイラがいた……しかも巫女服で。


「何やってんの?セイラ。そんな服着て」

「えー、ヤマトも好きでしょ?巫女服だよ?」

「いや、別に好きじゃないよ。それより(嘘だけど)ブルマの体操服がいい」

「ウソ、そんなが好きなの?生足見えちゃうよ?」

「それがいいんだろ?」


 ほんとはそんな趣味はないけど、巫女服なんか着てくるセイラへの嫌がらせだ。

 何を考えて手に入れてるんだよ。見たことないんだが。

 いつの間にかコスプレ趣味が芽生えたのか?


 今度は反対隣からアリーシャが出てきた。

 タブレットを持ってこっちに来てる。

 なんだ?


「ヤマト、勉強ちょっと教えて欲しいんだけど……

 セイラ、なんで巫女服なんか着てるの?」

「ヤマトも巫女服が好きだと思って着たんだけど、ブルマに体操服の方が好きなんだって」

「へぇ、そういうのが好きなんだ。私も着てみたい」

「違う、嘘言ったんだ。別に体操服や巫女服とか好きじゃないよ」

「じゃあ、メイド服?セーラー服?セイラ、今度一緒に着ようか?」

「いいね、着よう着よう」


 なんか2人で仲良く結託してる。

 仲良くなってるな。ならいいけど。

 今の世の中、リアルだけが世界じゃなくてメタバースもあるから、メタバースでの付き合いだけですませる人もいるからな。

 すぐ近所に歳が近い人がいることも少ない中で、3人集まることなんか少ないからできるだけ仲良くしていたいと思うけどね。


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