第006話-1 転校生
いつものように朝が来た。
今日はアリーシャの初登校だから一緒に行く約束をしている。
時間までにセイラの準備を整えて、メタバースにダイブしなければいけない。
朝食は焼き魚と大根の味噌汁、少量の野菜炒め、漬物。
野菜炒めにはセイラの嫌いなニンジンが入っているが、じいちゃんの野菜ならなんとか食べてくれる。まぁ、俺もニンジンはそんなに好きではないけどな。
とにかく朝食を食べさせ、歯磨き、洗顔をさせ化粧水、乳液を馴染ませて、着替えさせる。
相変わらず着替えた後の状態はだらしない感じだ。ボタンを留め直し、ズレているのを直して整える。
今日の髪型のオーダーはポニーテール。比較的楽なので髪を梳いてからポニーテールに結わえた。
最後に軽く化粧を施して、朝の準備は終わる。
アリーシャに連絡を入れて、セイラをメタバースに送り込んだ。
これから自分の準備だ。
セイラSide
校門の前に出た。いつも通りヤマトが来るのを待ってる。
しばらくするとアリーシャが現れた。
「セイラ、おはよう」
「うん、おはよ、アリーシャ」
「ヤマトはまだ来てないの?」
「今自分の準備をしてるはず。10分位したら出てくる」
「連絡があった時はセイラの準備が出来たってことなのね?」
「そう。いつもやってくれてる」
私とアリーシャが話をしていると回りに人が集まり始めた。何で?
初めて見る、金髪碧眼でボインなアリーシャが目立つのかな?
私としては何も出来ないけど。
ヤマトSide
やっと準備して校門前に出られた。
ん?人が集まってるけど、あそこはいつもセイラがいる辺りだよな?
アリーシャも見当たらないし……
ひとまず人が集まっている所に行ってみるか。
と思って行ったらセイラとアリーシャが囲まれていた。
「セイラ!アリーシャ!どうなってるんだ?」
「分かんないよ。セイラとヤマトを待ってたらみんなが寄ってくるんだもん」
「分かった。
お前ら、散った散った。セイラとこの子に迷惑がかかるぞ」
ようやくみんなが離れて行った。
ただ、「セイラさん以外にも手を出してるのか!」「美少女ばかり侍らせやがって」「スタイルのいい子だったわ。どうやってるのか教えてくれないかしら」とか言ってた。
別に侍らせてねぇよ、特にセイラは。面倒見てるんだっつうの。
どれだけ苦労してるか知らねぇだろ?
「悪いな、アリーシャ。遅くなった。いつもなら問題ないんだがな」
「何なの?これ」
「セイラが美少女で学校で人気があってな。それに美少女のアリーシャが一緒に居たから群がってきたんだろ。
美少女が好きな奴らが多いからな。男だけじゃなくても」
「ふーーん。まあ、いいわ。悪いけど先生のところに案内してくれる?」
「ああ、行こう」
アリーシャをセイラと一緒に職員室まで送り届け、自分達の教室に移動した。
どちらかのクラスになるのか、はたまた別のクラスになるのか分からないけど、セイラに友達が増えるのはいいだろう。友達になってくれればいいけど。
教室に入り席に着くとトキオがやってきた。まぁ、校門前の事だろう。耳聡いからどこかから聞きつけたんだと思う。
「よう、トキオ。おはよ」
「おう、ヤマト。校門前の事、聞いたぞ。また新しい美少女を侍らせてるんだって?」
「どこでそんなデマを聞いてきたんだ?未だに一人も侍らせてなんぞいないんだが?セイラはこっちが面倒を見てるんだからよ」
「なら、どういう関係なんだ?」
「隣の住人だよ。この間引っ越してきた。元の学校に通うのかと思ってたけど、こっちの学校に転校するってよ」
「へぇ、それがその子って事か。セイラ嬢に負けないくらいの美少女なんだって?」
こいつも美少女好きだからな。まぁ、慣れたけど。こういうネタには食いつく。
アリーシャは確かにセイラに負けないくらいの美少女と言える。9割方は美少女として認められるだろう。俺もそうは思うし。
ただ、トキオみたいに美少女だから好きだとかいうことはない、断じて。
「そうだな。お前が好みそうなスタイルだし、顔の出来もかなりいいと思うよ」
「そうか、お近付きになりたいね」
「同じクラスになればお近付きになれるだろ」
「いきなりお近付きになんかなれねぇよ。ヤマト、紹介してくれよ!」
そんな話をしていたら、ダグが来た。こいつは彼女持ちらしいからそれほど話に乗ってこないだろ。
……と思ったら……
「校門の所にすげぇ美少女がいたんだって?」
「お前、彼女に告げ口してやろうか?」
「一般的な興味の問題だろ。別に付き合いたいとか浮気するって話じゃねぇ」
「ならいいけど、セイラとうちの隣に越してきた転校生だよ。運が良ければうちのクラスになるだろ」
「ほう。で、どんな子なんだ?」
「うーーん、ちょっと話しただけだけど、いい子なんじゃない?それにセイラよりは使い物になる。レンジが使えるんだってよ」
「お前の評価基準が分からん」
そりゃそうだろう。
美少女なんぞセイラで見飽きてる。その上、面倒を見させられてる状況で、『美少女』という肩書きだけでは興味が湧かない。
最低限自分の面倒が見れるかどうか、さらに言えば料理や家事が出来れば最高だ。これで美少女なら俺はそういう話に乗るだろう。
セイラの話なら全然乗る気になれないけどな?
しばらくして授業の時間になった。
今日はその前に転校生の紹介となった。うちのクラスに来ることになったらしい。
先生がアリーシャを紹介して、本人が自己紹介することになった。
が、その前に俺を見つけたため、大声でこっちに声をかけてきた。
「あっ、ヤマトがいる。ヤマトォ、同じクラスになったよ。よろしくね」
「ああ、分かった。だから自己紹介をしてくれ」
「あ、ごめん。アリーシャ・美瀬です。アリーシャと呼んでください。
先日、リアルでもこちらに越してきました。ヤマトの隣に住んでます。
こちらのオタク文化に興味があるので、良かったら教えて下さい」
オタク文化って……大昔よりは全然普通の文化と変わらないものになってるけど、未だにこっちで生活してる人にとってはちょっと恥ずかしいと思う部分がまだ残ってる。
それでも、ダグやエリーのとこみたいに、親族が他の所からそれ目当てで移住してきた人も多くなってるから随分変わっては来てる。
俺も多少なりともオタクな部分があるから理解してるし。
回りを見れば、流石にアリーシャの容姿、スタイルのおかげで特に野郎共からは好意的に受け入れられているのが分かる。
先生も俺に世話になるようにって言ってたのが聞こえた。
また俺がいろいろ言われそうな状況になるんだろうな。
という事でアリーシャの紹介も終わり、授業が始まる。
午前中の授業は合間の休憩の度に、アリーシャの所か、俺の所に集まってくるようになった。
俺にアリーシャの事を聞いてくるが、こっちだって昨日知り合ったばかりで知っている事はほとんどない。せいぜいアリーシャの両親のことくらいだ。
とりあえず午前中の授業を終え、これから一旦メタバースから落ちる。
家で昼食を取る予定だ。
「アリーシャは昼食どうする?うちはセイラの分も作るから追加しても問題ないけど」
「いいの!?昨日のナポリタン、美味しかったから、また食べたかったんだよね」
「今日はナポリタンではないけどな」
「ヤマトの料理はそんなに美味しいのか?」
「美味しかったよ。昨日うちの両親も一緒に食べたけど、みんな美味しいって。セイラも自慢してたし」
「セイラがなぜ自慢するかは分からんけどな?」
「食べてみてぇ。リアルで会いに行かねぇと食べれねぇよな?」
そうだな。うちに来れれば食べさせてやれるんだけどな。
どこに住んでるか分からんから、来れるかどうかもなんとも言えない。
「来れるんなら夏休みに来れば朝昼晩と飯を作るが」
「行けばセイラ嬢とも同席出来るんだよな?」
「まあな、セイラが嫌がらなければな?」
ガタッ
回りの奴らが一斉に立ち上がり、こっちに向かって来た。
「「「「「「俺にも飯を食わせろ」」」」」」
「無理」
「「「「「「食わせてくれよぉ」」」」」」
「無理だって。うちに来れないでしょ?」
「セイラさんと一緒にご飯を食べれるならどこにでも行くんだよ、なぁ?」
「「「「「おお」」」」」
いい加減無茶言うなよ。大した付き合いのないやつを家に入れるわけ無いだろ?
しかもセイラ狙いだろ?絶対ないって。
トキオはまぁセイラがというか美少女が好きみたいだけど、その前に友達だからな。
その辺は考慮しよう。
「さあ、昼飯にしようか。アリーシャ、セイラのとこ行って落ちるよ」
「うん、分かった。お昼ご飯楽しみだな」
「じゃあ、またな。ヤマト」
「おお、トキオ、ダグ。また後でな」
### 続く ###
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