第003話 あるいつもの日常 メタバース内の学校

 学校前に出た。

 リアルならテレポートとか転移といった感じだろう。


 メタバース内では道はあって無いようなものだ。お店や建物の前に瞬時に移動できる。

 それでもリアルと変わらないから、散歩のつもりで歩く人もいる。実際、歩けばPCに搭載されているEMSが筋肉を動かし、軽い運動程度にはなる。

 長時間ダイブしている人が筋力低下しないために搭載していた機能を有効に使っているのだ。

 ただ、建物など施設内は歩かなければいけない。商売上の都合が標準化されたようだ。お店を見てくれないと意味がないからだ。




 学校前には先に行ったセイラが待っていた。それ以外にも取り巻くように他の生徒も。

 いつもの光景だけど気が滅入る……


「ヤマト、遅い」

「遅いとか言うな。セイラの準備をしてからこっちは出てきてんだ。遅くなるのは当然だろ」


 回りで俺がセイラに口答えしてるのを見て、悪様にこちらを睨んで悪口を言っているのが聞こえる。

 『セイラ様に口答えするとか許せねぇ』『セイラ様を待たせるなんて何様のつもり?』『そばに寄るな!雑魚キャラが』などなど……

 いろいろ雑音が聞こえてくる。

 別に最近になって言われるようになったわけじゃない。

 セイラの生活が変わって見た目が良くなってきてから、そんな事を俺に言う奴が増えてきた。

 俺が見た目を良くしたのにねぇ?



 そのままセイラと教室に向かい、クラスが違うので別々の教室に入る。

 メタバースの時代になっても人付き合いの勉強も兼ねて、学校という場での教育が行われて一定の人数で分けたクラス編成になっている。


「よう、おはよ、ヤマト。いつもお疲れ」

「おう、おはよ、トキオ。

 そうだよ、セイラの世話で疲れた上に、知らねぇ奴らがこそこそ悪口言ってくるからな」

「まぁ、仕方ないよな。セイラは学校で有名な美少女だもんな。

 スタイルもこう……」

「やらしい手つきで表現するな!まあ、スタイルがいいのは確かだけどな」


 トキオが両手でS字を描くように動かす。胸が大きく、腰がくびれ、お尻も程よく大きく…………


 メタバース内でも人の体型はそのまま再現されている。

 一定期間、学生は月1スキャンしてメタバース上に反映されている。

 セイラも同様で、程よく大きく「女神のようなスタイル」とみんなが言う程なのは確かだ。リアルでも確認している。


「いつもヤマトはリアルでも見てるんだろ?そりゃあ妬まれるわ」

「あのな?見てるだけで済むならいいかもしれんが、食事や生活の面倒を見なきゃいけないだぞ?

 大していいもんじゃないし、小さいのから大きくなるまで見慣れたわ」

「……それは妬まれても仕方ねぇな」


 福島トキオ……トキオは学校での友達だ。

 「E.G.G.」をやっているとは聞いているが、お互いプレーヤー名は知らせていない。もしかしたら、対戦しているかもしれない。

 もう小さい頃から同じ学校に通う幼馴染ではあるが、リアルでは会ったことがない。

 もう、17歳だから会おうと思えば会えると思うけど、行けるところに住んでいるか分からないから、リアルよりメタバースの方で会うことになる。

 それでも趣味が合うから長く続いている。


「よう、ヤマト、トキオ。面白そうな話をしてんな?」

「面白くねぇよ」

「ダグ、ヤマトがよぉ、セイラ嬢の胸が小さい時から大きくなるまでを見てきたんだとよ」


 回りがざわついている。

 まぁ、セイラの話だから皆興味があるんだろうから、いつも聞き耳をたてているのは知っている。

 別にセイラと付き合えるようなネタはないのに。


 後から来たのはダグ。ダグラス 国分寺と言う。

 こいつもトキオと同じ「E.G.G.」プレーヤーだ。プレーヤー名はやっぱり知らない。

 トキオより後に数年後に出会ったが、トキオと共にメタバースで遊ぶ仲になった。やはり趣味が合ったのが理由だった。

 ちなみに彼女がいる。メタバースでしか会ったことはないらしいけど。


「そうなのか?それくらい別にいいだろ?やっちゃってるわけじゃないんだしな」

「アホかっ!そんな事してたらもう婿入り確定しちまうわ!」

「羨ましいなぁ、ヤマト」

「その代わり余計な労働が待ってるぞ?それでいいならな」



 その後もしばらく話していたら時間になり、授業が始まる。

 授業は同じ学年はまるっきり同じ内容を受ける。授業進度は同じ。

 ただ、人によって習熟度が違う。それを埋めるために別の時間で習熟度毎の個別授業が始まる。

 更に定期試験というものはなく、時々小テストが挿まれ習熟度の確認がされるので、習熟度によっては同じ学年でも卒業が遅れる人も出てきたりする。


 午前中の授業が終わり、皆一度メタバースから落ち食事をしてから戻って来る。

 俺も同じだけど、セイラの昼食の面倒も見なければいけない。

 昼食の下準備は前日のうちに済ませ、簡単に作れるようにしてある。

 それを作って食べさせてからメタバースに戻らせて、こちらも戻る。

 セイラの教室に送っていって自分も教室に戻る。




セイラSide

 ヤマトのお昼ご飯を食べて教室に戻ってきた。

 教室にはもう結構人が戻ってきている。

 私はじっとしていよう。


「セイラさん、お昼はヤマトさんとですか?」

「エリー、うん、美味しかった」

「いいですね。ヤマトさんって自分で調理されるんですよね」

「そう、いろんな料理が作れる。夕飯も美味しい」


 そばに来たのは、私の友達のエレナ 京極、呼び名はエリー。4年程前からの友達。喋り方がおっとりしているから喋りやすい。

 ヤマトから聞いたけど、結構大きいグループ会社のお嬢様らしい。


「私の家で作ってくれないかしら?」

「ヤマトはあげないよ?」

「あらあら」


 回りがざわざわしてる。何で?

 ヤマトは私の専属使用人なんだよ?

 あげるわけないよ。


「ヤマトは私の専属使用人なんだから」

「え?お付き合いしてるとかではないのですか?」

「違うよ?うちの隣に住まわせてあげてるだけだよ」

「そういう扱いなんですか?」


 回りの人が安心したような、ホッとした顔をしてる。

 ??


 エリーが誰かに連絡を取ってるみたいだけど、誰に?


『誰が使用人だぁ!もう飯を作らんぞ!?』

「ごめん、ヤマト」

『お前が何も出来ないから、やってやってるんだからな?

 いい加減分かれよ?』

「……はい」

「やっぱり、付き合ってるわけじゃないんですのね?」

「でも、あげない。私が生活に困る」

「フフフ」


 エリーに笑われた。エリーは私が何も出来ないことを知ってる友達だ。

 だらしない私でも幻滅しないで、ちょっと笑うだけで離れていかないもんね。

 だけど、ヤマトは私に必要だから絶対にあげないよ。




ヤマトSide

 午後の授業は習熟度に合わせて個別授業。

 みんなで授業を受けるわけじゃないから、それぞれの習熟度次第と判断で午後の授業は終わってしまう。

 セイラは問題ないから自習で先に進んで、適当な所で終わる。

 俺はそこまで成績は良くはなく普通程度だから、特に文学や歴史の個別授業授業が多い。数学や科学は得意科目だから、それほど多くない。


 大昔にはあった部活というものもない。せいぜい同じ趣味の集まりで活動するくらい。申請してスペースを借りて遊びに近い事をする程度。

 スポーツやその他の実技系の事は、リアルの方で周辺のコミュニティで集まってやっている。

 ちなみに、体育の授業も座学以外の実技はそういう所を利用して個別授業に近い形でやっている。


 セイラは自習に飽きればさっさとメタバースから落ちて、家で何かしているようだ。

 俺も必要な分だけ受けて帰るとしよう。


「トキオ、ダグ。またな」

「「おお、お疲れ。またな」」


 これで俺はE.G.G.の方へ移動する。

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