第002話 あるいつもの日常 リアル

 俺の朝は結構早い。

 別に朝バイトをしていたりするわけではない。

 新聞配達や牛乳配達というバイトが昔はあったらしいが、今はそんなものはない。

 新聞というもの自体が存在せず、メタバース内で契約している所にアクセスして記事を読むか、動画のニュースを選んで見るかだ。牛乳など物の配達はドローンが届けてくれる。

 今は大昔に比べて人口が激減してるらしくて、配達とかに人を使っている余裕はないらしい。些末な事に人を使うのは金持ちの贅沢とされている。

 だから、これからすることは本来贅沢なことだ。



 まあ、そんな話はいいか。

 隣に行ってセイラに朝食を食べさせて、身支度させなければいけない。

 朝食はトーストに目玉焼き、ちょっとしたサラダと野菜スープ。後牛乳

 ちゃんと栄養も考慮して食材を選んである。


「ヤマト、トースト追加して」

「へいへい。野菜は残すなよ」

「ヤマトのおじいちゃんのとこのだから残さないよ」

「じゃあスープもおかわりするな?しっかり食ってくれよ」

「うっ」


 セイラは昔から野菜が好きではないので、食べさせるのにどれだけ苦労したことか。

 じいちゃんの野菜を食べさせて、ようやく食べられるようになった。

 それからは健康状態も良くなり、随分肌や髪の状態も良くなって見た目が良くなり、美少女として回りに認識され始めたんだよな。


 トーストだけでなく野菜もしっかり食べさせて、牛乳も飲ませてカルシウムを摂らせる。


「美味いか?」

「うん、毎朝ずっと作ってほしい」

「毎日作ってらんねぇよ。レトルトとか自分で温めて食べろ」

「ヤマトのが美味しい」

「うちの親父が監修した食品もあるから、それ買えば俺のより美味しいぞ」


 そう、うちの親父は料理人でいろんな所に行って料理を作ったり、市販の食品の監修をしたりしている。

 母さんもやっぱり料理人で親父のサポートをしてるから、一緒に出かけていて帰ってこない。3ヶ月に1回帰ってくれば良い方だ。

 寂しくないわけではないけど、晴海家に世話になっている?してる?から寂しさも紛れるか。




 朝食も終わり学校に行く準備をする。

 といってもメタバースでの登校だから家を出るわけではないけど、これからまた一苦労しなければいけない。


 セイラに歯を磨かせて、顔を洗って、顔を拭いてやる。

 その後は化粧水を馴染ませて、それから乳液を馴染ませる。


 いつの世も女性の支度には時間がかかる。

 学生でしかも男なのに、もうそんな事を当たり前のように理解させられている。

 まだまだこれからいろいろさせなければいけない。



「セイラ、着替えたか?」

「まだぁ」


 別に着替えなくても服装は衣装データの方で変えればいいのに。

 俺はそうしている。着替える時間がない、こいつのお世話のせいで。

 なのに、気合いが入らないとか言いやがって、毎回着替えている。

 しかも時間がかかるのだ。

 ボタンをかけ違っていたり着崩れてたりで、それを直さなければいけない。いい年なので、こちらとしては触るのを控えたいんだけど。まぁ、本人もシズヨおばさんも父親のマイケルさんも気にしていないので直してるけど。

 でも、わざと触ったりラッキースケベみたいな事はしていない。


「あん」

「嘘つくな。触ってないだろ」

「触ったよ。胸を揉まれた」

「ふざけんな!今日はボタンを直してもないだろ」


 タイミングよくマイケルさんが通る。なぜ?


「おやおや、ヤマトくん。セイラに手を出したのか?

 ならうちに婿入りだよね。セイラの事、ほんとによろしくね?ね?」

「手は出してないし、触ってもないから!」

「ヤマトならいいよ?」

「いつまでも悪ノリすんな。時間に間に合わなくなるぞ」



 ここから最後に髪をいじって、化粧もしなければいけない。

 髪の方は今日は三つ編みがいいとか言うし、時にはツインテールやおさげとか編み込みとか言いやがるのが面倒だ。


「ヤマトがいつも髪を綺麗にしてくれるから嬉しい」

「三つ編みとか編み込みとかどんだけ面倒だと思ってるんだ」

「私だと出来ないし」

「なら、そのままストレートに流しときゃいいだろ」

「やだぁ、もっと可愛くしてほしい」

「やだぁじゃねぇよ」


 髪をブラシで梳いて整えてから三つ編みに編み始める。

 腰の辺りまでの長い髪を、ちまちま編んでいく。

 ストレートでそのままの方が似合うのに。めんどくせぇ。


 最後に化粧は軽くナチュラルにする。

 派手に化粧するよりは似合うし、俺が出来るのはそんなにバリエーションもないからいいけど。

 髪型や化粧はメタバースにアクセスするタイミングで再スキャンされるから、気合い入れてめかし込まさせられるんだよな。



 これでようやく完成だ。

 1度セイラが姿見前でくるっと回り、出来栄えを確認する。


「うん、OKOK」

「OKじゃねえよ。そんなの自分で出来るようになって言え」

「ヤマトは私の専属メイクだもん」

「それでどれだけ時間を使わせられてると思ってんだよ、たく。

 さっさとPCに座れ」


 終わった所でメタバースへのアクセスデバイスのシート型パーソナルコンピューターに放り込み、メタバースに送り込んだ。



「はぁ、週4日もこれやらされるとか、どうなんだよ?

 小さい頃はまだ良かったけど、いい加減自分でやれってんだ」


 こっちも急いで準備して、自分のシート型PCに座りメタバースにアクセスし始める……


 メタバース内の自分の学校の校門前に出て、待っていたセイラと教室に向かう。

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