第17話
まずは座れ。
そう言われてエルシャールは怯えながらソレイユが示すソファーに腰かけた。
「まず、この婚約は1年で白紙に戻す偽装婚約になる」
「……偽装、ですか?」
「そうだ。こちらからの条件としては婚約中はこの家に滞在して必要に応じて婚約者のふりをしてくれるだけでいい。ただし、偽装だとバレるか、家門に傷をつける行動をした時点でこの契約は白紙。速やかに家に帰ってもらう事になる……家に帰りたいならいまこの場で断ってくれて構わない」
そう言われエルシャールは急いで首を左右に振った。
例え1年だとしても、あの家から離れられるのであればそれだけで十分だった。
(1年あれば、お金を稼いだりあの家に帰らずにすむ方法を探せるはず)
エルシャールが返事をするとソレイユは契約書にサインするように告げた。
「サインは今してくれ」
「わかりました」
ソレイユに言われてエルシャールは書類に目を通した。
「他に……聞きたい事はあるか?」
「……ひとつだけ」
「なんだ」
「……どうして猫を被っているんでしょうか?」
エルシャールが意を決してソレイユを見ながら訪ねると、ソレイユはすっと目を細めた。
その目は先程までエルシャールに向けていた視線とは違い表情が一切見えない。
エルシャールは自分が間違った選択をしてしまったと後悔しても、もう遅かった。
「それを聞いてどうする?」
表情が一切現れない美形ほど恐ろしい物はないな。とエルシャールが現実逃避のような事を考えているとソレイユは組んでいた足を組み替えて、エルシャールに問いかけた。
どうすると言われてもエルシャールには答えられなかった。
(ただ興味で聞いただけなのに……)
初めて会った時からずっと、崩される事のなかった完璧な礼儀正しい外側を初めて会ったも同然の自分だけに脱ぎ捨てたのか。
素朴な疑問に駆られて問うた質問は見事にソレイユの地雷を踏み、エルシャールは窮地に立たされていた。
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