第18話

「周りにでも告げ回るか?それともなんだ……俺を脅すのか?――答えろ」


問いかけて置きながら答えないエルシャールの前に、立ち上がったソレイユが畳みかける。


「何もしません」


エルシャールはソレイユを見上げて静かに答えた。

先程まで怯えてばかりいたエルシャールの、内側から燃えるような赤い目に射貫かれてソレイユはその瞳の強さに圧倒されて僅かにたじろぐ。


「私は、貴方に利用されることに異論もなければ反発もありません」


エルシャールは静かに怒っていた。

自分がなぜ、こんなに怒りを覚えているのかわからなかったが、口を一度開けば言葉は止まる事をしらない。


「どんな目的があったにせよ貴方はあの家から私を救い出してくれた。そんな恩人がどうして周りに偽って過ごしているのか…どうして初めて会った私にだけ本性を見せるのか、知りたいと思う事はおかしなことですか?」


そこまで言い切ってエルシャールは自分が何に怒っているのか理解した。

一緒にされたくなかったのだ。


――利益を目論むような他人を尊重しない人だと。

エルシャールを使って自分達の利益を得ている家族と一緒だと。


諦めていたのは、従ってが言いなりになっていたのはあの人達と一緒の人間にはなりたくなかったから。

他人の不幸の上で自分の幸福を築こうとするくらいなら、エルシャールは利用される人間でありたかった。

例え他の人に馬鹿にされようとも自分さえ自分の事を大切にできる。

自分だけが理解して大切にしてきた事を、なかったことにされるのは許せなかった。


「……」

「その、……ごめんなさい」


ソレイユは目を見開いてエルシャールを見ていた。

鎮目の時間が続いて、エルシャールは耐え切れず長年染みついた謝罪の言葉が口をついてでた。


「謝るな」

「ですが……」

「不必要に謝るな」


そんなエルシャールにソレイユはエルシャールが思いもしない言葉を口にした。

言い訳しようとすれば、同じ言葉を食い気味に言い聞かせられて、エルシャールは口を噤んだ。

これまで謝罪を要求されることはあっても謝罪を拒否されることはなかった。


「わかりました」

「敬語はいらない」

「……わかりました」

「……」

「わかったわ」

「よし」


何が「よし」なのか。

エルシャールはそんな感想を抱きつつ、無礼を働いたにも関わらず満足そうに笑うソレイユの笑顔に何も言えなくなった。


(変な人……)

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