第15話

「母上、その辺にしてそろそろ中に入りましょう」


後ろに倒れ込みそうになっているエルシャールの腰を支える手に力が籠る。

と同時にエルシャールとイザベラの間に入ったソレイユ。

まさか助け舟を出してもらえると思わなかったエルシャールは驚きに目を見開いた。


「そうね!ごめんなさい私ったら…」


シュンと、わかりやすく反省した表情を浮かべるイザベラがエルシャールの手を離して先に屋敷に入っていく。


「私達も行きましょう、エルシャール嬢」

「は、はいっ!」


その背中を見送ってソレイユはエルシャールに声を掛けた。

2人きりなのになぜ?と思っていると、エルシャール達の後ろには御者とメイドがお辞儀をしたまま控えていて、エルシャールは納得した。


(お屋敷の人にも猫を被っているのね……)


ソレイユ猫は随分立派なようで、周りも何も違和感を抱いていない様子だった。

彼のその曇りのない完璧な笑顔に素朴な疑問を抱く。


(あんなに素敵なお母様が居るのに、どうしてこの人は自分を偽ってるんだろう)


ソレイユが完璧である事に拘る理由が家にあると予想していたエルシャールは、イザベラの天真爛漫な様子を見て首をかしげる。


彼女であれば、ソレイユがどんな人物でも受け入れてくれる。

それを象徴するように、ソレイユがイザベラを大切に思う気持ちに嘘はない事をエルシャールは確信していた。

だからこそ、エルシャールはソレイユがなぜ猫を被り過ごしているのかその訳を知りたくなった。


ソレイユの事を考えながらエルシャールが玄関から屋敷に入るとそこは創作の世界で見た中でも割と質素な作りのお屋敷だった。

調度品も少なく、けれど全く見識のないエルシャールが見ても高いと思われる物が品よく置かれている。


「どうした?足がまだ痛むのか?」

「……いえ」

「ならいいが……」


足を止めて屋敷を見ているエルシャールにソレイユは眉をひそめて声をかけた。

素直に貴方の事を考えていたとはいえず、誤魔化すとソレイユはあまり納得していない表情を浮かべたがそれ以上なにもいわなかった。

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