第14話
今のサンドラは14歳。原作の物語で登場するサンドラの年は18歳で、エルシャールが今経験している状況は原作が始まる4年前。
すなわち、セージュが不幸な生い立ちから救い出される感動的なソレイユとの出会いのシーンが始まるにはあと4年も必要という事になる。
(――つまり、いま私が置かれている状況で、わかっていることは二つ。)
一つ目は、作者が原作上で公開していなかったエルシャールに紘子が転生してしまった事。
二つ目は、間違った選択をすれば直ぐにエルシャールは舞台を下ろされてしまう事。
エルシャールという貴族令嬢が一体どういう役回りで生み出されたのか。
作者の考えている話の中で語られていなかっただけの存在なのか。
あるいは――
本編が始まる前に既に死んでいる存在……?
とにもかくにも、エルシャールは先の事よりも今。
まったくネタバレなしの状況で一発即退場もあり得る選択肢から常に正解を出し続けろって――
♢♢♢
「よくいらしたわね、この家まで遠かったでしょう?」
そう言って微笑みを浮かべるのは、ソレイユの母。
――イザベラ・ウェンドリア
本編ではほとんど登場することのなかったソレイユの母親。
エルシャールが馬車を降りて暫く歩いたあと、玄関先で待っていたイザベラは傍のメイドが止める間もなくエルシャールの傍に歩み寄って来ると微笑んだ。
流石はソレイユの母。
恐ろしいほど美しいその微笑みにエルシャールは圧倒されていた。
「母上、こんな所まで出てきてはまたお身体に障ってしまいます」
「そんな事ここで言わなくてもいいでしょう、さあ入ってちょうだい」
ソレイユに苦言を言われたイザベラはソレイユの言葉に嫌そうな顔をしてから、初対面のはずのエルシャールに対して気さくに声を掛けてきた。
彼女がそんな人とは知らなかったエルシャールは驚きながらも、何と返せばいいかわからず。
結局エルシャールは挨拶をして誤魔化す事にした。
「お出迎えありがとうございます、イザベラ様。本日からお世話になりますエルシャールと申します」
そう言って挨拶を返すとイザベラは頬に喜色を浮かべてエルシャールの両手を取った。
「まぁまぁまぁ!!こんなに可愛い子がうちにお嫁に来てくれるなんてっ……!」
(眩しっ……眩しすぎますイザベラ様!)
ソレイユの顔で弾けたような笑顔を見せるイザベラにエルシャールはデジャブを感じながら、上体を逸らして心の中で叫んだ。
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