第13話

エルシャールが馬車に乗せられて随分と時間が経った。

その間お互いになにも言わずエルシャールは陽が沈み始める太陽を眺めて時間を潰すしかなかった。

馬車に揺られ、外の景色がオレンジ色に染まる頃、ソレイユとエルシャールの無音の中にノックの音が響いた。


「到着しました、ソレイユ様」

「ありがとう、着いたようですエルシャール嬢」


馬車を操縦していたのだろう従者の声にソレイユは返事を返した。

エルシャールを一瞥して馬車を降りて行った彼の表情はエルシャールしか見ていないからだろう、ニコリともしていなかった。


(転生して初日から、こんなことになるなんて……)


♢♢♢


「お手をどうぞ。エルシャール嬢」

「……あ、ありがとうございます」


先に馬車を出たソレイユは、そう言ってエルシャールに手を差し伸べた。

その姿は原作そのもので、まさか自分がそんな扱いをされるとは思わなかったエルシャールは、一瞬その手を取るか悩んだ。


「足が痛むなら運んでやろうか?」


ソレイユに耳打ちされ、先程お姫様だっこで運ばれた事を思い出したエルシャールが勢いよく顔を上げるとソレイユは完璧な笑みでエルシャールの返事を待っていた。


「……いいえ!結構ですわ」


突っぱねるような返事を返してエルシャールはソレイユの手に自分の手を重ねた。

ソレイユのエスコートは他人が見ているからか、初めてエスコートをされるエルシャールから見ても完璧だった。

出発前よりも痛む足に気を取られながら馬車を降りるとエルシャールはソレイユの異変に気が付いた。


「……ふっ、では行きましょうか」


ソレイユは、歩き始めるとエルシャールから顔を逸らして静かに肩を揺らす。

そんな彼の姿にエルシャールはその時やっと自分がソレイユに揶揄われたと気がついた。


「良い性格をされてますね、ソレイユ様」

「あまり褒められると困る」


嫌味を言うもさらりと返されてエルシャールは大人しく黙って歩く事に集中することにした。

これ以上失態を重ねかねないと判断してソレイユについて行く事を選んだエルシャールは敷地の広さに驚きを隠せなかった。


(この家が地獄なのか――それとも天国なのか)


馬車内でのソレイユの態度で、自分は何か利益になると踏んで連れてこられた事を察しているものの、エルシャールは自分の行動一つで未来が決まるかもしれない状況が近付くことに緊張を隠せなかった。


(一先ず悪い事にはならないようだけど……下手をしたら家に送り返されるか――最悪、殺されてしまうかもしれない油断は禁物よ、エルシャール)

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