第10話
「一体どういう事なの!!」
すっかり蚊帳の外に追いやられていたサンドラは、予想外の展開に声を荒げた。
エルシャールの前に膝をついて座るソレイユと素敵なヒーローに求められる虐げられたヒロインのシーンを見せられ、後ろで暫く茫然としていた彼女は、猫とうさぎ、それから可憐な美少女を脱ぎ去り、本性を現した。
立ち上がり、髪が逆立ちそうなほど怒りを表すサンドラに凄まれているにも関わらず、ソレイユは自分のペースを崩さなかった。
「……では行きましょう、エルシャール嬢」
「なっ、この私を無視するなんてどういうつもりよお姉様!……きゃっ」
ソレイユはエルシャールの手を取って彼女を立ち上がらせると周りの事など無視してエルシャールの腰をそっと抱いた。
そんなソレイユの態度にサンドラは憤り、声を荒げてエルシャールに掴みかかろうとした。
ソレイユはエルシャールを抱き寄せて、サンドラの攻撃を避けさせると勢いを殺せなかったサンドラはバランスを崩して倒れ込むと悲鳴をあげた。
そんなサンドラにソレイユは視線を向けることなく、サンドラを心配して駆け寄ったデリスに冷ややかな目を向け口を開いた。
「……時にラビリンス殿」
その瞬間、殺気に満ちた気配が部屋一帯を制圧した。
その声は、顔が見えないエルシャールにもわかるほど、強い怒気を携えていてエルシャールの肩がピクリと反応を示すと直ぐに殺気は収まった。
先程まで相手にされず吠えていたサンドラもすっかり委縮してしまったのか、父の腕の中でカタカタと奥歯を鳴らして顔を真っ青にしている。
「私がエルシャールを婚約者にと望む事に何か不満でもありますか?」
「めっ、滅相もございません!!」
デリスに対して静かに問いかけたソレイユ。
そんな彼の問いに、デリスは間髪入れずに返答した。
「では、彼女を私の屋敷に連れ帰る事に意義はありますか?」
「い、いいえ!」
「ならば後ほど使いを送ります。詳しい事は後日また」
ソレイユの顔を見なくて良かった。
そう思えるほどに怯えた様子を見せる父とサンドラの怯えた姿にエルシャールは状況がよく読み込めていないからか、場違いな感想を抱いていた。
何がどうしてサンドラでなく、自分を選んだのか。
エルシャールは自分の姿を見下ろして改めて首を傾げた。
でっぱりの少ない身体に、色艶の抜けた肌、それから老婆と罵倒され続けたプラチナブロンドの髪。
辺境伯を務めるソレイユにとって障害にすらなりそうなエルシャールがいいと言う奇特なソレイユに流されて婚約を受け入れてしまった状況。
(とんでもない事になってしまったかも……)
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