第9話
ソレイユが立ち上がろうとすると、サンドラの興味はエルシャールからそちらへ移った。
これから始まる、自分とソレイユの感動的な婚約への期待を隠す様子もなかった。
サンドラの脳内はこれから始まるであろうエルシャールへの最高の嫌がらせとなるソレイユの婚約者を勝ち取った妄想に支配されている様子だった。
「ソレイユ様……!」
ソレイユに倣って立ち上がったサンドラは感極まった声でソレイユの名前を呼んだ。
先程諦めたばかりだというのに、エルシャールは2人の物語が始まる事に酷く落胆を覚え、直視出来なかった。
エルシャールは俯いて、2人がお互いに惹かれ合う姿を目に入れないように目を閉じる。
あからさまに耳を塞げない状況で選択したせめてもの抵抗だった。
「貴様、何を……!」
「ソレイユ様……?!」
俯いていたエルシャールはあれだけ媚びへつらっていたデリスが、声を荒げた事で様子がおかしいと思い、デリスの驚きに満ちた声と、サンドラの絶叫にも似た叫び声に閉じていた目を開いた。
「やはり、私の選択は間違っていなかったようです、エルシャール嬢私の婚約者になって下さい」
声がして、エルシャールが開いた目に飛び込んできたのは、太陽が差し込んだ青空に似た美しい瞳だった。
吸い込まれてしまいそうなほど透明な青にエルシャールの顔が映る。
(驚いた顔は出来るのね……)
ソレイユの瞳に映る自分が目を見開いている表情をみて、エルシャールはいやに冷静だった。
「エルシャール嬢?」
「はい?」
――顔を覗き込まれている。
エルシャールがそう気が付いたのは暫くたってからだった。
直ぐに傍にある彫刻像のような顔をしたソレイユに名前を呼ばれてエルシャールが顔を上げると予想よりも近い距離にソレイユの顔があり、エルシャールは咄嗟に身体をのけ反らせた。
「ふっ……」
エルシャールが打ち上げられた海老と張り合う速度で動いた事で、一瞬驚きに目を見開いたソレイユは吐息のような笑い声を零してからエルシャールの握りしめた手を取った。
「私の屋敷に婚約者として来てください」
「……はい」
エルシャールは少し迷った末に返事をした。
ここで断ってラビリンス家に残ればどんな目に合うのか恐ろしく、天秤にかけた結果だった。
(この選択がどんな影響を及ぼすのかわからないけれど……)
小説に描かれる事のなかったソレイユの突然の訪問に流されてしまっている事を自覚しながらエルシャールはソレイユを頼るしかなかった。
ソレイユが立ち上がろうとすると、サンドラの興味はエルシャールからそちらへ移った。
これから始まる、自分とソレイユの感動的な婚約への期待を隠す様子もなかった。
サンドラの脳内はこれから始まるであろうエルシャールへの最高の嫌がらせとなるソレイユの婚約者を勝ち取った妄想に支配されている様子だった。
「ソレイユ様……!」
ソレイユに倣って立ち上がったサンドラは感極まった声でソレイユの名前を呼んだ。
先程諦めたばかりだというのに、エルシャールは2人の物語が始まる事に酷く落胆を覚え、直視出来なかった。
エルシャールは俯いて、2人がお互いに惹かれ合う姿を目に入れないように目を閉じる。
あからさまに耳を塞げない状況で選択したせめてもの抵抗だった。
「貴様、何を……!」
「ソレイユ様……?!」
俯いていたエルシャールはあれだけ媚びへつらっていたデリスが、声を荒げた事で様子がおかしいと思い、デリスの驚きに満ちた声と、サンドラの絶叫にも似た叫び声に閉じていた目を開いた。
「やはり、私の選択は間違っていなかったようです、エルシャール嬢私の婚約者になって下さい」
声がして、エルシャールが開いた目に飛び込んできたのは、太陽が差し込んだ青空に似た美しい瞳だった。
吸い込まれてしまいそうなほど透明な青にエルシャールの顔が映る。
(驚いた顔は出来るのね……)
ソレイユの瞳に映る自分が目を見開いている表情をみて、エルシャールはいやに冷静だった。
「エルシャール嬢?」
「はい?」
――顔を覗き込まれている。
エルシャールがそう気が付いたのは暫くたってからだった。
直ぐに傍にある彫刻像のような顔をしたソレイユに名前を呼ばれてエルシャールが顔を上げると予想よりも近い距離にソレイユの顔があり、エルシャールは咄嗟に身体をのけ反らせた。
「ふっ……」
エルシャールが打ち上げられた海老と張り合う速度で動いた事で、一瞬驚きに目を見開いたソレイユは吐息のような笑い声を零してからエルシャールの握りしめた手を取った。
「私の屋敷に婚約者として来てください」
「……はい」
エルシャールは少し迷った末に返事をした。
ここで断ってラビリンス家に残ればどんな目に合うのか恐ろしく、天秤にかけた結果だった。
(この選択がどんな影響を及ぼすのかわからないけれど……)
小説に描かれる事のなかったソレイユの突然の訪問に流されてしまっている事を自覚しながらエルシャールはソレイユを頼るしかなかった。
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