第31話 陶器義肢屋さん

 ガタン、と車内が大きく揺れる。列車はレールの接続が少しうまくいかなかったようで、しばらくがたついた。そして汽笛とともに列車は駅構内に停車する。


 エルランディア皇国の入り口。ここからサミュエルの生まれた村であるパッカス村までは、あと一本列車に乗って、それから犬ぞりに乗せてもらうかする必要がある。馬はこの時期寒さのせいであまり使い物にならないので、冬は犬に引いてもらうのだ。


 一行は駅に降り立つと、ドーム状の温かい駅にほっと息をついた。暖炉が無数に設置されていて、構内は列車内よりも温かい。

駅を出る方に歩き出すアルカにサミュエルは呼び止めた。


「ちょっと、次の列車はあっちだけど、どこにいくつもりですか」

「言っただろう、エルランディア皇国には用があるって」


 そんなことを言っていた気がする、と先日の会話を思い出してみる。


「一か月後の社交パーティーに顔を出す予定にしている。そのためにも、陶器製の義肢を注文しようと思ってな。前に作ってもらったものは柄を入れたから派手なんだ。シンプルなものでないと今回のパーティではおそらく浮くだろう」


 アルカは駅の出入り口に向かって迷いなく足を進めた。

 駅を出るとそこはエルランディア皇国で一番栄えた町だ。ウーヌスには遠く及ばないが、この町では生活に必要なものをすべてそろえることができる。


 大通りを中ほどまで歩いて、そこから道を外れる。大樹たいじゅみきのように枝分かれする作りの道を細い方へと歩き進めると、一見幽霊屋敷ホーンテッドマンションのような異様な外見の店にたどり着いた。まさかこの建物ではないだろうと思ったが、アルカの目当てはそこだった。


 アルカとサミュエルだけが入った店内は暗く、壁一面にビスクドールがき詰められている。カウンターの呼び鈴を軽く鳴らすと、店主が奥から顔を出した。


「おや、アルカちゃん。久々だなぁ」


 四十そこらに見える店主は明るく陽気で、店内の雰囲気とは全く違う。アルカは頷くと、注文書のようなものをカウンターに置いた。


「今回もよろしく頼む。くれぐれも前回のように好き勝手に模様を入れないでくれ」

「でも好評だったんだろ?」

「婦人方にはな。青い花柄がかわいいだとか、花瓶かびんのようだとか、なんだ、どこかのティーセットのようだと褒められた」


 アルカは嫌味な口調で苦言くげんていするが、店主はまったく気にしていないようだ。


「ロイヤルハウンスビだな。俺もそこのティーセットを参考に描いてみたんだ。次に作ることがあったら、きちんとプロに頼もう」

「そんな話はいい。ともかく、今回は無地で頼む。色はボクの肌の色に合わせてくれ。サイズは以前の型紙と同じでいい」

「はいよ。受け取りはいつにする?」


 アルカはサミュエルを振り返って、すぐに顔を正面に戻した。


「二週間後で頼む」

「二週間も俺の実家に居座るつもりなんですか、あんたは」


 アルカの注文に今度はサミュエルが文句を言う番だった。


「ずっときみの家にいることになるかどうかはわからないが、エルランディアには頻繁に来ることができないからな」

「……ホテル取りますよ」

「それでもいい」


 アルカは店主の追記した注文票を確認すると、親指を突き立てた。グッド。


「よし、店主頼んだぞ。二週間後にまた顔を出す」

「あいよ。じゃあ、俺は作業を再開するんで」


 店主が奥に引っ込むと、アルカも店を出た。


「仲、良さそうでしたわね」


 店の外で待っていたオリビアがサミュエルに話しかける。


「……誰と誰が?」


 一瞬反応に困って、サミュエルは戸惑とまどいながらも質問で返す。


「アルカさまと店主さまですわ」

「あ、ああ。まあ、確かに」


 驚いた。まさか自分とアルカについて聞かれたのかと思ったのだ。この日までオリビアとは恋人同士としてふるまう練習をやってきた。彼女とはいえ役なのに、まさか本当の彼女のように嫉妬しっとされたのかと思って焦った。


「アルカさまには長いお付き合いの方がたくさんいらっしゃいますわね」

「長生きしてると自然と人脈が広がっていくんじゃないのか」

「そうでしょうか」


 オリビアはサミュエルに微笑みかける。サミュエルは少し驚いて足を止めるが、オリビアは何事もなさそうにアルカの側に駆け寄ると、肩からずり落ちかけていたベルベットのコートを掛けなおした。サミュエルは後ろからその一部始終しじゅうををながめながら、止めた足を踏み出した。











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次回:里帰り

明日22:00~投稿予定

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