第21話 神話なんてもの
早朝、オリビアは薄手のケープを羽織ってベスの
それもベスが、アルカが起きる前に行動しようと言い出したためである。エドワードはすでに起床しているようで、コンサバトリーで本を読んでもいいかと許可を取りに来ていた。アルカと鉢合わせることはないだろうが、屋敷に二人きりにさせるのはできるだけ避けたい。この状況が悪化するのを防ぐためだ。
「ごめん、遅れちゃった」
ベスはいつもと違う格好で登場した。裾の広がりの少ないドレスに、髪型もローバンですっきりとしている。
「何ですの? その恰好」
「はあ? みんなお望みのふつう、ですけど」
ベスはオリビアの反応が気に入らなかったようで、腕を組んでぶつぶつ文句を言う。
「……ただ教会が山の方にあるって聞いて、できるだけ汚れたりしないような
「そうでしたのね。何か心変わりでもあるのかと」
「この髪型も正直地味すぎて早く戻したいの。行こ」
ベスは教会への道を確認すると、先々へと足を進めていく。宮殿で
「思ったよりボロ……いや、なんでもない」
「年季を感じますわよね」
古びれた教会を見上げてベスは一言目そう言った。
「埃凄そう……。この格好で来て正解ね」
ベスは教会の扉を押し開くと、中を見渡す。
「像が五つ。それ以外は一般的な聖堂と何ら変わりないわね」
「ええ」
「あっ。あれだわ」
ベスは正面左の女性の像を見上げる。
「ところどころひび割れて顔が
女性の像の台座には金属のプレートがつけられていた。その人物か、神かの名前だ。オリビアは紙と鉛筆を取り出すと紙をプレートに当てて黒く塗り始めた。これで何と書かれているか、わかりづらかった場所も多少読めるようになる。
「『慈愛の母イザベル』ですわ」
「慈愛、っていうと
オリビアは正面右の男性の像の台座の方にも移動して文字を浮かばせた。
「『理知の父アラン』。
オリビアが顔を上げるとベスは正面の『冥府の女神』にくぎ付けになっていた。柔らかい笑みを浮かべ、その両目にくすんだ緑の宝石が光っている。
「……似てる」
ベスは言葉を漏らした。
「ねえ、似てると思わない? この像、アルカ様に」
「え?」
何かを必死に考えるように、ベスは目を見張ってその像にかじりついていた。この像もまたひび割れのせいで顔がはっきりとしないが。
「
「辻褄って……?」
「アランが父親、イザベルが母親よ」
「でもそれは、禁忌ですわ。建国からずっと変わらないゲネシス王国三大禁忌。『二等親以上の人間と生殖行為に至ってはならない』。特に兄妹となれば重大──」
「だからよ、だからヴィクトリア女王陛下はアルカ様に隠していたの。本当は生まれてはいけない存在で、その上国の王妃の不倫の末の子供! こんなの国の信用にかかわってくるでしょ。もう四百年変わらない禁忌が、建国して間もなくして破られていたなんてことは」
オリビアは頭が追い付いていなかった。
まさか、そんなことが。
王妃が兄と子を成していたということ。そしてその子がアルカだなんてこと。
嘘だと言ってください、ヴィクトリア女王陛下。
オリビアは再び像を見上げた。『冥府の女神』の両目に
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次回:アッシュブルック宮殿へ
明日22:00~投稿予定
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