19

 11月に突入すると急に寒くなった。

 私は、トレンチコートを着て、いつものように出会い系アプリで知り合ったハンドルネーム「マコト」と二子玉川駅で待ち合わせをしていた。これで25人目だ。もう、完璧に慣れたもので、ベルトコンベア式に一連の流れをしていた。

 待ち合わせ時間の19時5分前に駅に着くと、プロフィール写真の男がMA1のジャケットを着て立っていた。

 年は自分と同い年で、プロフィール写真よりも若い印象を受けた。短髪な髪型して、体格は細身で身長は175センチ以上あるだろう。何か日焼けをしていて、何かスポーツでもやっているように見えた。

 私は、彼に近づき話しかけた。

「もしかして、マコトさんですか?」

「マキさんですね。今日を楽しみにしていました」と微笑むマコト。

「こちらこそ、楽しみにしていました」

「では、食事に行きましょう」

「はい」

 駅ビルの屋上にあるレストランで、今回はイタリアンレストランへ行った。

 お互いボンゴレのパスタを頼み、マルゲリータのピザにフライドポテト、赤ワインを注文した。

「マコトさんは、普段どんなお仕事しているんですか?」

「ネット通販の総務の仕事をしています」

「そうなんですね。大変そうですね」

「まあ、繁忙期になると大変ですが、それ以外の期間は割と暇ですよ。マキさんはどんな仕事をしているんですか?」

「私は、アパレル会社で接客業をしています」

「接客業ですか。それは、大変そうだ。僕は接客業が苦手なので尊敬します」

「そんな、大袈裟な。慣れればお客さんと話もできるし楽しいですよ」

「社交的なんですね」

「まあ、そうかもしれません」と私は嘘をついた。人見知りの私に接客業など無理だ。これは、途中で家に招き入れることに失敗した時の保険だ。

 料理が運ばれてきた。ボンゴレを食べるなり私は大袈裟に「美味しい」と言った。

 マコトも、ボンゴレを口に入れると「美味しいですね」と独り言のように言った。

 ボンゴレを食べた後はマルゲリータ食べた後に、フライドポテト、そしてデザートにティラミスを注文した。

「今日は、こんなに美味しい料理をご馳走していただきありがとうございます」

「いいえ、お気にせずに」

 マコトの様子が少しおかしいのに気づいた。メッセージではあんなに卑猥な言葉を送り合っていたのにとても大人しい。もしかすると、奥手な性格なのかもしれない。ここは私から仕掛けるしかない。

「マコトさん。これからどうする?」

「これからですか?」

「はい、もし良かったら、家で飲みませんか?」

「良いですね。是非」

 まんまと引っかかった。いくら奥手と言っても、所詮は男だ。誘われれば、着いてくる。

 私たちは、駅ビルを後にして、住宅街を抜けて家に着いた。

「一軒家にお住まいなんですね?もしかして、人妻ですか?」

「いいえ、離婚して今は私の家です」と常套句を言った。

「そうなだったのですね。なんだか安心しました」

「それは、良かった。さあ、寒い事だし、早く家に入りましょう」

 私は、マコトを家に招き入れリビングのソファーに座らせた。

「マコトさん、赤ワインでいいですか?」

「はい、お願いします」

「じゃあ、ワインを持ってきますね」

 キッチンに行き、ワインをグラスに注いで、マコトのグラスに睡眠薬をすり潰しておいた粉を入れて掻き回した。

 ワイングラスを持ち、リビングへ向かった。そして、マコトの隣に座った。

「ねえ、マキさん。聞いてもいい?」

「なんですか?」

「今まで、何人とこんなことをしたんですか?」

 今まで聞かれたことも、想像していた事もない言葉に私はどう答えていいか分からなかった。

「それは、今回が初めてで・・・」と明らかに歯切れの悪い答え方をしているのが自分にでもわかった。

「いいんです。気にしませんから。メッセージの内容からすると、だいぶ慣れていると思ったもので。失礼しました」

「いいんです。なんと言うか、経験人数が少なくて離婚してから寂しくて」

「そうだったんですね。かわいそうに」

 私は、マコトがワインを飲んでいない事に気づいた。早く、ワインを飲ませて事を終わらせたかった。

「さあ、ワインを飲みましょう」

 すると、チャイムがなった。もう21時を回っている。いったい誰だ?悪戯か?

「出ないのですか?」

「こんな夜遅くにチャイムを鳴らすなんて、きっと悪戯にちがいありませんわ」

「出た方がいいと思いますけど」と言うと、マコトはMA1の内ポケットから警察手帳を出した。

「三上明美さんですね?世田谷署の田村誠です。連続失踪者事件の容疑者として逮捕します」

「え?」

「ぜひ、ご同行をお願いします」

 私は、ワイングラスを掴み、ワインを刑事の顔にかけた。刑事は、目にワインが入ってうめき声を上げた。それから、リビングを抜け出した。階段を走って登り健の部屋へ向かった。こんなことは想定していなかった。想定していたら良かったのにと、自分を恥じた。とにかく、健が見つかると大変な事になる。急いで、健を連れて逃げなければ。

 健の部屋のドアを開けて、電気が付けた。私は驚いた。骨と肉片が散らばる部屋で、健が、以前の子供の姿に戻っていて寝ていた。何が起こったのか全く理解できなかった。なんで、普通の姿に戻っている。どう言う事なのか全く理解できなくなった。

 すると、後ろから衝撃が走った。そのまま、前のめりになり床に倒れた。そして、両腕を後ろに無理やり回されて手錠をかけられた。

「三上明美。あなたを逮捕する」

 背後から男が叫ぶ声が聞こえた。

「おい、田村。部屋を見てみろ。これは、とんでもない事件だぞ」


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