18
鏡台に向かい化粧をした。普段は使わないような化粧品を使い、派手な印象になった。真っ赤なワンピースを着た。時計を見ると18時半だ。そろそろ出る時間だ。
家を出ると、待ち合わせ場所である二子玉川の駅に向かった。
今日会う人物は、40代のサラリーマンだ。ハンドルネームはヨッピーだ。本名は吉田光。プロフィール写真にはごく普通のどこにでもいそうな40代の男の顔をした写真が載っていた。
彼と知り合ったのは、如何わしい出会い系アプリだ。1週間前にメッセージが届き合う事になった。
19時5分前、二子玉川駅の改札に着いた。周囲を見渡す。すると、後ろから肩を叩かれた。
「すみません。マキさんですね?」
「はい、そうです。ヨッピーさんですね。会えて嬉しいです」と私は大袈裟な笑顔を浮かべて言った。吉田は、プロフィール写真よりも老けて見えた。身長は170センチくらい。よくいる40代の男といった印象だ。
「今日は、会ってくれてありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「写真で見るより、お美しいですね」
「嫌だ、褒めたって何も出ませんよ。でも、嬉しいです。ありがとう」
「じゃあ、ご飯を食べに行きますか?」
「はい、食べましょう」
私たちは駅ビルの屋上にある、フレンチレストランに入った。ウェイターにテーブルに通されると、吉田はフルコースを注文した。
「改めまして、ヨッピーこと吉田です。よろしくね」
「こちらこそ、よろしく。井上マキです。よろしくお願いします」
「いや〜、最初はどんな人かと心配していたけど、美人で良かった」
「こちらこそ、カッコ良くて良い人そうで、よかったですよ」と笑みを浮かべながら、逆のことを考えていた。
「ありがとう。それにしても美人だね。君は当たりだよ」
「それは良かった。私も同じです」
「そう?とても嬉しいな」
料理が運ばれてきた。オードブルから始まり、スープ、ポワソン、ソルベ、アントレ、デセール、カフェ・ブティフィール。
コースを食べ終わると、コーヒーを飲んだ。
「ねえ、とても美味しかった。ありがとう」
「いやいや、こちらこそ、美人さんと一緒に料理が食べられてとても満足しているよ。ありがとう。それで、なんだけどこの後どうする?」と若干、吉田は緊張した表情で言った。
「どうするって?」と笑みを浮かべながら聞いた。
「ほら、あれだよ。メッセージでも書いた。二子玉川にはあまり詳しくないんだけど、ホテルとかあるのかな?」
「もう、吉田さんたら」
「ごめん。ごめん。露骨すぎたかな?」
「ううん。だって約束したからね。近くに私の家があるの。そこでどう?」
「そうなんだ。それはいいね。そうしよう」
*
私と、吉田は手を繋ぎながら住宅街を歩いて家に向かった。
その間、吉田は卑猥な事を言い続けた。私は、その間中ずっと笑って返した。
家に着くと、吉田は驚いた表情をした。
「ねえ、君は一軒家に一人で住んでいるのかい?」
「そうよ」
「表札には『三上』って書いてあるけど・・・」
「ああ、これは前の旦那の名前よ。旦那とは去年離婚したの。今は、この家は私のものよ。もしかして、バツイチは嫌だ?」
「いや、そんな事ないよ。むしろ興奮するよ」
「じゃあ、入りましょう」
吉田と一緒に家へ入った。突然玄関で抱きしめられて、キスをされた。
「ちょっと、待って。ここじゃ嫌」
「ああ、ごめん。我慢できなくて」
「元気なのね」
「へへ、ごめんね。つい悪い癖が出ちゃった」
「いいのよ。ねえ、少しリビングでワインを飲んでからしない?」
「いいね。ワインは大好物だよ」
「良かった。良いワインが手に入ったのよ。一緒に飲みましょう」
私は、吉田をリビングに通した。彼が、ソファーに座ると、私はキッチン向かい赤ワインをグラスに注いだ。そして、リビングのソファーに座る吉田にワイングラスを渡した。
「乾杯」
「乾杯」
吉田は、ワインを飲んだ。
「味の方はいかが?」
「美味しいね。少し、味が変わっている気がするけど、どこのワイン?」
「アルゼンチンのワインよ」
「なるほど、道理で、味が普通のワインと違うわけだ」
「もしかして、気に入らなかった?」
「そんな事ないよ。とても美味しいよ。きっと、君くらい美味しいだろうな」
「あら、ヨッピたら」
「えへへ、それで、旦那さんとはなんで別れたの?」
「すれ違い。意見の違いとかかな」
「なるほどね」
「まあ、前の旦那の話をすると嫌な気分になるから他の話をしましょう。ヨッピはどんな仕事をしているの?」
「不動産関係の営業の仕事をしているよ」
「そうなの。すごく大変そう」
「まあね、毎日残業続きで大変だよ。でも、今日はマキに会うために一所懸命働いてどうにか定時に上がれたんだ」
「そうだったの。ありがとう」
「いやいや、こちらこそありがとう。家にまで招いてくれて、ワインまでご馳走になって」
「ヨッピは、恋人とか奥さんはいるの?」
「妻がいたけど、離婚したよ」
「そうだったの。かわいそう」
「そんなことはないさ。こうやってマキに出会えたんだから」と吉田がいうと手のひらで私の太もも触ってきた。
「いやん。ヨッピたら」
「ここで、しようよ。ソファーでしたことある?とても、興奮するんだよ」
「いや、ベッドが一番興奮する。ベッドの方が愛されている感じがするから」
「そうなんだね。わかった。そうしよう」
「うん、そうして」
「あれ」
「うん?どうしたの?」
「なんだか急に眠たくなってきた」
「気のせいじゃないの?」
「そうだね。きっと、きの、せい、だ」と吉田が言うと、そのまま倒れるようにして眠ってしまった。
今日は、睡眠薬量を間違えた。普段ならもっと早く効くハズだった。これで、この気持ち悪い男との会話が終わると思うと清々した。
*
吉田は、思っていたより軽かった。70キロはあるかと思っていたが、おそらくは60キロくらいだろう。吉田の両脇を安全ベルトで固定して、階段を引きずりながら2階まで運んだ。汗が大量に出きた。こんなことなら、家にエレベーターでも付けておけば良かったのにと思った。
吉田の身体を健の部屋の前まで引きずって運ぶと、ドアをノックした。
「健。ご飯よ」
ドアを開けた。健は、目は真っ赤に光っていた。楽しみにしているのがわかった。
「今日のは、あまり美味しくないかもしれないけど、我慢して」
「は〜い」
吉田の身体を部屋の真ん中に置いた。健は吉田の身体に馬乗りになり、鋭い歯で頭を砕いた。すると、吉田の体がピクピクと痙攣し始めた。不思議なもので、頭を潰されると、体が痙攣することが何度かあった。いったいどういう仕組みなのか不思議でならなかった。それから、健は、腕の鉤爪で腹を裂き、勢いよく、むしゃくしゃと食べた。
「健。次はいつになるか分からないから、ゆっくり食べるのよ」
「うん、わかった」
「今日のご飯はどう?美味しい?」
「まあ、まあかな。やっぱり、若い方が美味しい」
「そう、わかった。今度は若くて新鮮なのを仕入れてくるわ」
「うん、おねがいね」
もう、10回目となるとだいぶ慣れてきた。最初はこそは、緊張して申し訳ない気持ちもあったが、今ではなんとも思わない。スーパーで、肉や魚を買う感覚に近いものになっていた。
最近では街で人とすれ違う時に、心の中で「この人なら健も美味しく喜んで食べてくれるだろう」と考えてしまうくらいだ。
そんな、思考回路になってしまった事が、時々怖くなるが仕方ない。全て、健の為だ。息子が飢える所は見たくない。きっと、他の親も同じ立場になったら同じ事をするだろう。
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