16

 私と雅人は、リビングで一言も喋らずにダイニングチェアに座って焦点の定まらない目をしながら何も喋らなかった。ショックが大きすぎて何を会話して良いのかわからずに、ただ頭の中が真っ白だった。すると雅人が口を開いた。

「なあ、どうすれば良いと思う?」

「わからない」

「僕もさ。まさか、人まで食べるなんて」

「ねえ、もうお祓いもできないのかな?」

「菊川も言っていただろう?彼女は日本一の霊媒師だって。それを、健が食べた。もう、どうすることもできない」

「・・・」

「警察に行こう。お祓いが無理なら、警察しかない」

「そんなことをしたら、健が殺されるか、実験対象にされて、苦しむ事になる」

「じゃあ、これ以上どうしたら良いんだ?健は、もっと人を食べたいと言っているんだぞ。これ以上、被害者を出すわけにはいかない」

「きっと、何か方法はあるはずよ。それに、あなた健の事が心配じゃないの?」

「もちろん、心配だ。でも、他に方法はないだろう?警察に行くべきだ」

 私は、どうしていいのかわからなかった。雅人の言い分はわかる。だが、警察に行けば確実に健は殺されるだろう。それだけは避けたかった。

「なんで、俺がこんな目に会わなくちゃいけないんだ」と雅人は頭を抱えながら云った。

「それは、あなたが青木を虐めて殺したからでしょ?それをしかも隠蔽した。全てあなたの責任よ」

「わかっているよ。でも、俺にではなく、健に憑くなんて」

「全て、あなたの責任よ。あなたが責任を取って」

「責任を取るって云っても、どうやって?」

「健を救うのよ。どんな方法を使っても」

「でも、どうやって?」

 私は、その問いに返す言葉が見つからなかった。いったいどうすれば、健を救い出せるのだろうか。医療でも救う事ができないだろう。それに、日本一の霊媒師は死んでしまった。いったい、どうすれば良いのか。

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