13
3日後の夜のことだった。
私が寝ていると、隣の健の部屋から大きなうめき声が聞こえてきた。一瞬目を覚まし夢かと思ったが、うめき声はどんどん大きくなっていく。隣で寝ていた雅人も目を覚ました。
「おい、一体なんだ?」と雅人は目を擦りながら云った。
「わからない。でも、健の部屋から聞こえる」
寝ぼけていた私は急に、我に帰って健の部屋へと向かう。
ドアを開けた瞬間、腐敗臭が鼻を刺激した。電気をつけた。
部屋の中央に黒い尖った毛むくじゃらので、顔は黒く、唇がなくワニのような歯を剥き出しにして、体長は目測で2メートルある生き物がいた。
雅人が部屋に入ってきた。
「なんだ、いったい?」と雅人は私と同じく驚いていた。
そして、その怪物は口を開いた。
「ママ、パパ」
それは、健の声だった。
「もしかして、健なの?」
「そうだよ」
「どうしたんだ?その身体は?」
「そんなの、わからないよ。起きたら体がこうなっていた。ねえ、助けて」
私は、言葉を失った。頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなった。
「本当に建なの?」
「だから、さっきから、そう云っているじゃないか」
「なあ、明美。これは夢か?」
私は健の変わり果てた体に触れた。毛は針金のように固く、体温は冷たく、腐敗臭がした。
「ママ、僕の身体はどうなっちゃたの?」
私は、雅人を見た。彼は口を開けたままただ立ち竦んでいた。
「とりあえず、落ち着いて。きっと、何か方法があるはずよ」
「そうだ。きっと、何か方法があるはずだ」
「ねえ、病院に連れて行って。お医者さんならどうにかできるかも」
建はそう云ったが、医者がどうにかできる問題ではないと思った。きっと、医者にも原因は特定で出来ずにお手上げだろう。もっと、超自然的な何かだと確信した。科学では説明がつかない、何かだと。
「健。ちょっと、待ってね。パパと話してくるから」
「嫌だよ。一人にしないで」
「お願い。少しでいいから」
「わかった。少しね」というと、健はベッドに座った。
私と雅人は廊下に出た。
「あなた。あれは何?」
「わからない」
「知っているんでしょ?異蛮でしょ?」
「なんで、異蛮の存在を知っている?」
「そんな事は関係ない。あなたが、青木くんを殺したのね?」
「なんで、青木の事を知っているんだ?」
「やっぱり、そうだったのね。ねえ、いったい何を隠しているの?教えて」
「それは・・・」
「この期に及んで、しらばくれるつもり?今回の一連の事件は青木が関係しているのでしょ?正直に答えて」
すると、一拍置いて雅人は口を開いた。
ことの始まりは、20年前の事、育田村で、雅人と仲間たちは村で一番貧乏な同級生の青木を毎日のように虐めていた。理由は、暇つぶしと貧乏だからだった。
虐めはとてもひどい物で、突然殴るは当たり前で、ビデオカメラで撮影しながら食糞、マスターベイションの強要と聞くだけで嫌悪感を抱く事ばかりだった。
雅人が16歳の頃、彼らのグループが、青木を集団で殴る蹴るを繰り返した。その日は普段より皆が虫の居所が悪かった。雅人のグループが青木を虐めている事が、学校にばれたのだ。誰が告げ口したのかわからない。もしかすると、虐めを見ていた第三者か、あるいは青木自身が告白したのか。
それで普段より腕力に力が入った。青木はその日に限って必死に抵抗した。普段は虐めがバレないように顔や頭を殴らなかったが、抵抗した青木を見て怒りが湧いてきて、雅人が頭を蹴り上げた。突然、青木が抵抗をやめて動かなくなった。
最初は、気絶したのかと思った。だが、一向に動こうとしない青木。メンバーの一人が心配になって、青木の脈を取った。すると脈が止まっていた。
パニックになる雅人たち。救急車を呼ぼうとも考えたが、どうして良いかわからなくなって父親に連絡した。すると、父親が車で2人の男を従えて現れた。そして、雅人たちが逮捕されるのを恐れて、青木の亡骸にロープで鉄球を縛り付けて育田湖に沈めた。
青木が、失踪してから真っ先に警察が疑ったのは雅人のグループだった。しかし、雅人の父親は署長にコネがあった。父は所長に賄賂を渡した。そして、雅人のグループは捜査対象から外れて、世間では行方不明として片づけられたのだ。
「なんで、そんな事をしたの?」と私は怒りを通り過ぎて呆れた。そして、そんな男を見抜けなかった自分に対しても。
「仕方なかった。まだ、僕は若かった」
「若かった、で済む問題?まだ信じられないけど、あなたのせいで、健はあんな姿に変身してしまったのよ」
「本当に悪いと思っている。今は反省している。僕だって誰にも言えずに苦しんできたんだ。青木を殺してしまった事を。でも、後戻りはできないんだよ」
「話を整理しましょう。健が異蛮に変身したのは青木の呪い?」
「そうかもしれない。というか、他に考えられない」
「どうするつもり?これじゃあ、病院にも行けないわよ」
「・・・」
「黙ってないで何か言いなさいよ」
「一人、この事を解決できるかもしれない人に心当たりがある」
「誰?」
「育田神社の神主の菊川って坊主だ。彼はお祓いについては相当なやり手らしい。全国からわざわざやってくる。お祓いを頼みにやってくる人がいるらしい。そう聞いている。彼に頼めばどうにかなるかもしれない」
「本当に?」
「彼に頼るしかないだろう?健の姿を見て、医者にどうにかできるはずはないだろう?あれは、人知を超えている」
最終的に彼の意見に賛同した。
健は、iPhoneを取り出し、育田神社に電話をかけた。これで、本当に解決できるのか疑問だったが、今の状況を見ると神や仏にすがるしか方法はないと思った。
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